シミール王国①
シミール王国はアナトリカ大陸の南方にある国だ。アマネによると、一年を通して気温が高く、暑い。いわゆる常夏の国。さらには湿度も低く、非常に乾燥しているらしい。お肌の乾燥や日焼けが気になる女性にとっては天敵のような国なんだとか。
そのせいかアマネ達の準備には余念がなかった。特にエルフ族は肌が弱いらしく、コハルは乾燥防止と日焼け防止クリームをこれでもかというくらい顔に塗りたくっていた。白粉を塗ったような顔になっていて笑ってしまった。
「あははははは!コハル、顔が面白いんだけど!!!」
「ハルさん!!!乾燥と日焼けをなめちゃダメなの!!!天敵なのよ!!!」
コハルが真剣な顔で力説してくる。でもちょっと半泣きだ。
うん、ごめん。別に馬鹿にしたわけじゃないんだ。必死なのがちょっと面白かっただけなんだ。
「ま、まあそこまで徹底してるからコハルは綺麗なんだよな・・・」
「そうなのよ!!!ハルさんなら分かってくれると思ったわ!!!」
必死にフォローしたら許してくれた。しかしそこまでしないと駄目ならコハルは留守番してた方がいいと思うんだが・・・
「コハル、留守番してたほうがいいんじゃない?」
「絶対イヤ!!!私も行きたいんだもん!!!」
そう言いながらコハルが今度は腕や足に日焼け止めクリームを塗りたくっている。
「いや、そこまでするなら長袖をだな・・・」
ちなみにコハルの今日の私服は、へそ出しトップスに丈の短いスカート。水着の上に1枚羽織って、パレオを巻いたような服と言ってもいいくらいの露出だ。日焼けが敵だって言うのなら、その服の選択がそもそもおかしい気がする。
「だめよ!露出が減ったら女の色気がなくなるじゃない!!!」
お前はシミール王国に何しに行く気なんだ。
(ハル、わらわも止めたんじゃ・・・でも無理じゃった。ごめんなのじゃ。)
(そうなんよ。うちらは少し塗るくらいでええけど、コハルのは頭おかしいやろ?)
アマネとヨギリが悲しそうな顔で耳打ちしてきた。
2人も止めてくれてたのか。まあそれで無理だったのならもう何も言うまい。
ちなみにコハルが力を解放した時の姿はダークエルフなので、そっちの姿で行けばいいのでは・・・と思ったが、コハル曰く「肌はどのみち弱いんだから!!!ダメ!!!」とのことらしい。
「よ、よし、じゃあ今日も元気よく行くか!」
今あった事は忘れよう。それがいい。
とりあえずコハルのおかげでシミール王国の事は何となくわかった。
「他に何かあるか?」
「ふむ・・・ああ、そういえば砂漠化が進んで困っているらしいぞ。」
年々砂漠化が進み、人が住める土地が浸食されて来ているのだとか。この世界にも温暖化的なものがあるんだなと思ったが、原因は魔獣の大発生らしい。やはり地球とは色々違うんだなと思い知らされた。
「まあ俺達が気にすることじゃないか・・・」
「うむ。胡蝶をシミールに作るならともかく、今は気にすることではないの。」
まあ後は実際に行ってみてのお楽しみと言う事でいいだろう。
「なあアマネ。そう言えばアナトリカ大陸は異種族が多いとか言ってたよな。」
「う、うむ。そうじゃな。」
「ということは人族至上主義じゃないって考えていいのか?」
もしそうなら個人的には安心できるのだが。
「うーむ、デティカ大陸よりはましじゃが根本的な部分は変わらんな。他種族が多いとは言っても、それはデティカ大陸に比べてじゃからの。結局アナトリカ大陸も人口は人族の方が多い。差別は少ないが、ないわけではない。国政に関わる者も基本的には人族。つまり、そういうことじゃな。」
結局は変わらない。そう言う事だろう。まあ思うところがないわけではないが、少しでもましならよかった。
「じゃあそろそろ行こうか、アマネ、転移を頼む。」
「うむ、任せておくのじゃ。」
「ま、待って!あとちょっと!あとちょっとだから!」
コハルの声がしたので振り返ると、まだ必死にお肌ケアをしていた。
「あ、うん・・・ゆ、ゆっくりでいいから・・・」
「す、すまんの・・・」
「あー・・・やっぱり気持ち悪・・・」
転移した先は、レガス帝国の時同様、寂れた建屋の一室だった。おそらくここがシミール王国にあるアマネの転移拠点なのだろう。
「少し休むか?」
「ごめん、ちょっとだけ。」
俺がそう言うと、アマネは気にするなと軽く手を振る。
「この転移酔いだけどさ・・・ヨギリに抱き着いてたらましになったりしない?」
「え、え、う、うち!?」
何故ヨギリがそんなに驚いてるのかわからないが、俺は気にせず話を続ける。
「転移の仕組みはよくわからないけど、みんなは転移に慣れてるわけだろ?だからくっついていれば酔わないかなって思ったんだけど。」
転移すると脳を揺さぶられるような感覚がある。体もぐるぐる回っている気がする。だからアマネ達にくっついていれば、安定するかなと思っただけだ。
「ふむ・・・どうなんじゃろ。やったことないからわからんな。」
「そっか、じゃあ帰りに試してみていいか?」
「それは構わんが・・・な、何故ヨギリなのじゃ!!!わらわでもよかろう!」
そこに文句があるのか。
だが俺がヨギリと言ったのには当然理由がある。アマネは280歳とはいえ、見た目は幼女だ。身長も低い。彼女を抱きしめるとなると、屈まなければならないし、その時点で無理な姿勢になる。だからヨギリだ。俺と身長も近いし、抱き着きやすい。それだけだ、他意はない。
「じゃあ私でもいいじゃない!なんでヨギリなのよ!」
俺の説明に納得がいかなかったのか、今度はコハルが叫ぶ。
「いやコハルは露出が・・・女性の肌を触るのは良くないかなと・・・」
ヨギリの私服は、娼婦をしている時と同じで、着物のような浴衣のような服だ。さすがに娼婦の時ほど豪華ではないし装飾も少ないが。まあつまりヨギリはコハルと違い、露出がほとんどない。だから俺としてはヨギリが適役だと思ったのだ。
「そういうことや!ハルはうちがええ言うてんねん!あんたらはお呼びじゃないねん!黙っとき!」
「なんじゃと!?」
「なんですって!?」
ヨギリはドヤ顔でそう宣言する。一方のアマネとコハルは悔しそうな表情を浮かべていた。
「まてまて!そう言うのやめなさい!俺はもう大丈夫だからそろそろ街に行こう!」
喧嘩が始まりそうだったので、俺は慌てて3人の間に割って入る。というかこれから街に出るんだから仲間割れしないで欲しい。
――王都ラマン。
シミール王国最大の街で、国の中心。ラマンは四方を砂漠に囲まれており、海に浮かぶ島のように周囲から孤立しているのが特徴だ。
しかし何故こんな位置に王都を作ったのだろう。そもそもシミール王国は海に面している国だ。海沿いに王都を作った方がよかったのではないだろうか。
「昔は砂漠じゃなかった。ここ数十年でこうなったんじゃ。」
砂漠化が進んでいるというのはこういうことか。
しかしさすがアマネだ。長く生きてるだけあるな。長命種である鬼人族の彼女だからこそ、昔のラマンを知っている。いや、知っているだけじゃなく実際に見た事もあるのだろう。
「しかしなんというか・・・これは面白いな・・・」
ラマンの街を見た俺は驚いた。レガス帝国やノーテファル王国とあまりに雰囲気が違ったからだ。大陸が違えば当然なのかもしれないが、ここまでとは思わなかった。
石と砂造りの建物。そのほとんどは白一色で統一されている。地球でいうところの中東に近い街並み。街の奥に見える王城らしき建物も似たような造りで、あれは城というより完全宮殿だ。やはり砂漠にある街は決まってこういう造りなのだろうか。
「どうじゃ?気に入ったか?」
「俺は結構好きだな。」
好き嫌いが別れる街だとは思うが、俺はラマンの雰囲気は嫌いじゃない。
「うむ!実はわらわもなのじゃ!」
アマネが嬉しそうに笑う。
この街が気に入った理由はもう1つある。それは他種族が普通に生活していた事だ。大通りなのにエルフや獣人が平然と歩いている。レガス帝国では見る事が出来なかった光景だ。俺としてはそれが何より嬉しかった。
「見て見て、わんちゃん!あと狐ちゃんもいる!!兎も!!!」
「なんでお主は獣人ばっかなのじゃ!そこに蜥蜴族や蛇族もおるじゃろ!!」
「そうよ!!あそこにエルフもいるわよね!!!」
「狐ちゃんいうな!狐人族や!それにここにも狐おるやろ!!!」
何か怒られた。
「仕方ないじゃん。獣人好きなんだから。」
「「「うるさい!!!」」」
ごめんなさい。俺が悪かったです。だから脇腹や腕を抓るのやめてください。
「・・・サクヤ達も見てるんじゃぞ?」
「あ・・・わ、忘れてた・・・」
そう言えば今日もユイカに蛇を渡されたんだった。肩にちょこんと乗ってる。さっきからその蛇がもの凄く睨んでる気がするのだが・・・気のせいだと思いたい。
「よし、忘れよう。」
「ハル、あんたそれでええんか・・・」
「い、いいんだよ!それよりこれだけ普通に異種族が歩いてるんだから、別に人族に変装する必要はなかったんじゃないか?」
アマネ達はレガス帝国の時同様、変装魔法を使っている。呼び方も当然変えた。
まあ彼女達は有名だから変装は仕方ない。ただこのシミール王国であれば、何も種族まで隠す必要はなかったのではないだろうか。
「確かに見た目だけ誤魔化して、狐人族のままでもよかったとは思うねん。でも人族の方が面倒事に巻き込まれにくいからな。ハル、よく見てみ?他種族の子らは結構いてるけど、生活に余裕がありそうな子はおらへんやろ?」
「あー・・・うん、確かにそうだな。」
「そういうことや。普通に生活は出来るけど、やっぱ人族のが優遇されんねん。」
さっきから目に映る獣人やエルフは全員みずぼらしい格好をしており、貴族らしき者は誰一人としていない。やはりヨギリの言う通り、生活に余裕がある異種族はいないらしい。
「ハル、あまり気にしたらあかんよ?これでもアナトリカ大陸はましなほうや。」
「ありがと、大丈夫だ。さすがにレガスを先に見てるからそこまでのショックはない。・・・それよりルコは全身真っ白でどうしようかと思ったけど、変装魔法のおかげで普通見えるんだな!よかった!」
これ以上この話を引っ張ると、雰囲気が悪くなりそうだったので、俺は強引に話題を変える。
「ええ、だからあそこまでやったのよ。さすがにあれでは出歩かないわよ。」
くすくすと笑うコハル。俺が話題を変えた意図を察し、話に乗って来てくれた。
「あ、変装で思い出したけど、アーネ達は冒険者として有名だろ?」
「自分で言うのは恥ずかしいが・・・そうじゃの。でもそれがどうしたんじゃ?」
「と言う事は冒険者ギルドって国から独立してるのか?」
アマネ達はどの国でもSランク冒険者として認識されているという口ぶりだったので、ちょっと気になった。もしかして冒険者ギルドは国に属さない、独立した組織なのだろうか。
「おおそうか、それは言ってなかった。うむ、ハルの言う通りじゃ。まあ冒険者ギルドだけじゃないがの。錬金、農業、商人・・・様々なギルドがあるが、それらは全部国には属さん。全てが独立組織であり、大陸を越えて各国に展開しておる。」
「なるほど。じゃあどの国に行っても、やっぱりアーネは目立つんだな。」
有名になるのもいい事ばかりではないらしい。
「俺も冒険者やってみたいけど、アーネ達のように有名になるのはやだなー・・・」
「「「それは絶対無理だから安心(してええ)してよい」」」
ですよね。俺には魔力がないから魔法は使えないし、武器も使えない。戦闘センスもない。力も弱い。冒険者なんて出来ないのはわかっているけど・・・そこまで声を揃えて言わなくても。
「そ、それよりハルさん、今日はどうするの?また冒険者ギルドに行く?」
今度はコハルが慌てて話題を変えてきた。
うん、気を遣わせて悪かった。
「そうだな・・・でもその前に一ついいか・・・?」
ラマンについてからずっと言いたかった事がある。
ずっと我慢してた事がある。
「この国暑い・・・死ぬ・・・・」
雑談しつつなんとか暑さを誤魔化してきたが、もう無理。この国、暑すぎる。体感温度で43~45度くらいはあるんじゃないだろうか。ただただ暑い。
「それは言うたらあかん・・・うちも死にそうやねん。狐は暑さに弱いねん。」
「私もよ。今にも溶けそうだわ・・・何でこの国はこんな暑いのよ・・・」
「お主ら、うるさいのじゃ・・・暑いっていったら余計暑いじゃろ・・・」
どうやらアマネ達もとっくに限界だったらしい。あまりの暑さに、全員がぐったりしている。建物の陰に入ったまま誰もそこから出ようとしない。
ラマンの街は好きだけど・・・正直もう帰りたい。




