恋人②
「今そっちにいくわ!ハルさん!待っててね!」
「ハル!うちと一緒に飲も!」
「わらわとも晩酌するのじゃ!」
――ドドドド!!!
もの凄い勢いでアマネ達が階段を下りてくる。
ほんとにうるさいなあいつら。
「お酒よ、お酒!」
「今日は飲むで!!」
「わらわの秘蔵の酒も出すぞ!」
「ハルー!!!助けて!ステーキはいやあああああ!!!」
あれ?なんか悲痛な叫びが混じってたな。
ああ、ヒスイか・・・そういや彼女もずっといなかった。
「待たせたのじゃ!!!」
うん、別に待ってない。それよりヒスイの方が気になる。
恐る恐るアマネの声がした方へ視線を向ける。
「えぇ・・・」
そこには顔面を鷲掴みにされてるヒスイがいた。まさかあの状態のまま階段を引きずられながら降りて来たのか。大丈夫かな・・・
「ヒ、ヒスイ・・・生きてる・・・?」
「うぅ・・・なんとか生きてるわよー・・・」
大丈夫らしい。さすが竜族、頑丈だ。しかしこれはどういう状況なんだろう。
「アマネ姐さん達がじゃま・・・コホン、いえ心配してらしたので、ヒスイさんがハルさんのベッドでお昼寝してると教えてあげたんです。そしたら全速力でハルさんのお部屋へ向かいました。」
サクヤが教えてくれた。
もの凄く不自然な誤魔化し方だったな。絶対わざとだ。
「そうなのよ!ハルさん、聞いて!このトカゲ、勝手にハルさんのベッドにもぐりこんでたのよ!!!」
コハルが叫ぶ。サクヤに邪魔とか言われたのはどうでもいいらしい。
「せやで!だからうちらがしばいたったんよ!」
「うむ!感謝するのじゃ!」
なんでそんなに誇らしげなんだよ。それにヒスイがベッドで寝てるのは別にどうでもいい。大体勝手に寝てたとか言ってるけど、ヒスイをしばく為にお前らも勝手に俺の部屋に入ってるだろ。
「お前ら!!!俺の竜を苛めるな!!!」
「ハルの竜じゃないわよ!?私は誇り高き竜族よ!誰のものにもならないわ!!!」
「ならいいや。アマネ達の好きにしていいよ。」
「待って!!!嘘、嘘だから!私はハルの竜よ!!!」
一瞬で竜族のプライド捨てやがった。そんなにアマネ達が怖いのか。
「まあヒスイには俺のベッド使っていいって言ってあったからいいんだよ。」
「何故じゃ!!!」
アマネがこの世の終わりのような顔をしている。
「ヒスイ部屋ないし、可哀そうじゃん。」
「そんなトカゲ外で十分よ!ハルさんのベッドが可哀そうよ!」
「お前らだって勝手に俺の部屋入るし、よくベッドで寝てるだろうが。」
「うちらはええねん!そのトカゲはあかん!」
いや、常識的に考えてお前らも駄目だから。なんだその超理論は。そもそもアマネ達が勝手に部屋に入っても俺が何も言わないのは、文句を言っても無駄だとわかって諦めてるからだ。
「とにかく、ヒスイを苛めるな。わかったな?」
「な、何故じゃ!わらわはハルの事を思ってじゃな!」
「苛めるならアマネ達にはプレゼントあげない。」
「ちょっと言い過ぎたわ。ごめんね、トカゲさん。」
「せやね、うん。堪忍な。」
凄い手のひら返しを見た。まあとりあえず丸く収まったからよしとしよう。ただプレゼントのハードルがさっきからがんがん上がっている気がする。
「とりあえずアマネ達も飲もうよ。ヒスイは飲める?」
「う、うん、飲めるけど・・・私もいいの?」
「当然だろ。まあ俺の酒じゃないけどさ。」
俺の酒ではないが、サクヤ達がそんなけち臭い事言う訳が無い。みんなで楽しく飲めばいいと思う。
アマネ達とヒスイが加わったので、あらためて乾杯する。
あまり大人数の飲み会は好きじゃないが、みんな楽しそうに飲んでいるし、偶にはこういうのも悪くない。
結局3時間くらいは飲んでいただろうか。
「そろそろ終わりにするか。それにしてもみんな酒強すぎじゃない?」
大量にあった酒もすっかり無くなった。なのに誰も酔っている感じがしない。
「この程度で酔うわけないじゃろ。」
「サクヤ達も?」
「ええ、まだまだ余裕です。」
「ヒスイは?」
「んー、あと100樽くらい飲めば少しは酔うと思うわよ?」
うん、こいつらを酔わすのは無理だな。
「ハルこそ全然やん?」
「ヨギリのようなペースで飲んでなかったからな。まあでも弱くはないよ。」
「ふふ、私達と飲んでも平気なのは嬉しいわ。これからも飲みましょ。」
「そうだな、いつでも付き合うから言ってくれ。」
さて、時間も大分遅いし、そろそろ部屋に戻って寝るとしよう。いつまでもだらだらしていても仕方ない。
俺はソファーから立ち上がり、軽く伸びをする。
「じゃあ俺は風呂に・・・」
「ダメです。座ってください。」
「です。座ってください。」
サクヤとマシロに服を引っ張られ、再び座らされた。そして俺が逃げられないようにしっかり両脇を固めている。
「ふふ、覚悟はいいわね?」
「くく、そうじゃの。ここからは大人の時間じゃ。」
え、何。今から何が始まるの。
「ハル、ほんまにわからんの?・・・サクヤ。」
「はい、姐さん。ハルさんはこれから私達に怒られるんです。」
「え、なんで?」
「メイドさんに鼻を伸ばしてました。ミミとかいう獣人を買おうとしてました。これ以上の説明、いりますか?いりませんよね?」
・・・いります。
そもそも何で彼女達に怒られなきゃいけないのかわからない。メイドさんをだらしない顔で見ていたとしても、ミミを買ったとしても、それは俺の自由だろう。
「鼻の下を伸ばしてたとして、何がダメなの?ミミを買おうとして何がダメなの?」
伸ばしてないし、買ってないけど。
「そ、それはあれよ!ダメだからよ!」
「せやで!あれやからあかんねん!」
だからなんでダメなんだ。ちゃんと説明して欲しい。
「サ、サクヤ!なんとかするのじゃ!」
「はぁ・・・丸投げですか。まあいいですけど。・・・ハルさん。」
「はい。なんでしょうサクヤさん。」
「私達が怒ってるのは・・・獣人を見て目の色を変えていたからです。獣人なら誰でもいいんですか?獣人好きな変態さんなんですか?それにあんな少女を買おうとしたのはどうなんですか?ロリコンさんなんですか?お姉さんは心配なのです。弟をそんな風に育てた覚えはありません。」
断じてロリコンじゃない。実際買ってないし、ちゃんと踏みとどまった。獣人については・・・返す言葉もないけど。でも誰でもいいわけじゃない。そんな見境が無い男ではない。そうはっきりと言ってやりたい。
まあサクヤの迫力が凄すぎて何も言えないんだけど。
「その通りよ!ハルさん!ちゃんとわかってるのかしら!」
「せやで!わかってるんか!」
「そうじゃそうじゃ!なんとか言うがよい!」
アマネ達がうるさい。
「もうなんか色んな意味でアマネ姐さん達は凄いです・・・それでハルさん?何か言う事はないんですか?言いたい事はないんですか?」
サクヤが目を細めて睨んでくる。アマネ達は怖くないが、サクヤが怖い。
「ハルさん、何か言いなさい。」
とりあえず、思いついた事を言わなければ。
何か言わないと殺される。そんなオーラがサクヤから漂っている。
「えっと・・・サクヤ姉さん・・・」
「はい、なんですか。」
「・・・メイド服着てください。」
それしか思いつかなかった。
サクヤのメイド服。狐メイド。夢が広がる。
「ひゃふや・・・いひゃい。」
サクヤに無言で頬を抓られた。
「バカなんですか?ハルさんはバカなんですか?」
「だ、だってサクヤのメイド服見たいんだもん。絶対可愛いし。」
「そ、そう言ってくれるのは嬉しいですけど・・・だ、駄目です。着ませんからね・・・」
これは押せばいけるかもしれない。
「サクヤ!何日和ってんねん!!!」
「・・・す、すいません。」
駄目か。ヨギリめ、余計な事を言うな。
「じゃあ間をとってヒスイに着せよう。」
「いきなりなに!?何で私なのよ!いやよ!!!」
「そうだ、護衛の制服はメイド服にしよう。そうしよう。」
「あんたバカなの!?したら殺すわよ!!!」
ヒスイも可愛いから絶対に会うのに。可愛いメイドさん欲しい。
「ハルさん!あなたは怒られてるのよ!ちゃんと反省しなさい!」
コハルが睨んでくる。
だがそんな事を言われても困る。俺は正直怒られるのに納得してない。まあサクヤの言ってた事は一応わかる。弟が道を踏み外さないよう姉として注意してくれたのだろう。あと獣人としての嫉妬もあるのかもしれない。ミミの耳や尻尾に見惚れてたのは確かだし、ヨギリやサクヤにしてみれば不愉快に思う事なのかもしれない。
「ねえ、ちょっといいかしら。何故ハルは怒られてるの?そこのサクヤとかいう狐が言ってることはわからなくもないけど、あなた達はハルの恋人じゃないでしょ?別にハルが女の子に色目使おうが、娼婦を買おうが、文句を言う筋合いないわよね?」
ヒスイが俺の言いたい事を言ってくれた。アマネ達も図星を突かれたのか、「いやそれはじゃな・・・」と苦虫を噛み潰したような顔をしている。
ありがとう、ヒスイ。
「そう!俺の言いたい事はそう言う事だ!さすがヒスイ!」
「でしょー!竜族だからね!」
いや、竜族は全く関係ないと思う。
「で、サクヤ。何で俺は怒られなきゃいけないんだ?」
俺がそう言うと、サクヤは観念したように呟く。
「・・・わ、わかりました、認めます。ハルさんが他の獣人の耳や尻尾を褒めてたのに嫉妬したんです。私の尻尾大好きとか言ったくせに・・・」
「ごめん、それは悪かった。でもサクヤの尻尾の方が好きだから。」
「な、ならいいです。あとお姉さんとして心配したのは本当ですから。変な女に騙されないでくださいね。ユイカ達が怒ってるのもそう言う事です。」
それならそうと最初から言ってくれ。嫉妬してたとか口にするのは恥ずかしいのはわかるけど。でもサクヤが焼きもち妬いてくれたのは正直嬉しい。もしかしたらヨギリもそうなのだろうか?
「ふーん・・・なんかちょっと納得いかないけど、まあサクヤの言ってることはわかったわ。でもあの3人が怒ってる理由は違うわよね?」
ヒスイがニヤニヤしながらアマネ達を指差している。
「え?違うの?アマネらも同じ理由なんじゃないの?」
「そ、そうじゃ!わらわもそういう理由で怒っているのじゃ!」
「違うのよ、ハル。あの3人はね、ハルの事が・・・」
――ドゴォオオオン!
ヒスイが何か言いかけたが、ヨギリとコハルがヒスイを思いっ切りぶん殴った。
・・・凄い勢いでぶっ飛んでったけど大丈夫か。
「そこのトカゲ!!!変な事言ったらぶち殺すわよ!!!」
「せやで!ステーキにされたいんか!!!」
うん、殴ってから言うセリフじゃないぞ。
「ヒスイ、生きてるか?」
「はぁ・・・酷い目にあったわ。たんこぶ出来たじゃない。」
ヒスイが何事も無かったかのように、頭をさすっている。さすが竜族、今のがたんこぶ程度で済むのか。俺なら絶対死んでる。
「ねえ、ハル。ちなみにあなた、恋人はいるの?」
「急になんだよ。まあ、いないけどさ。」
「あら、こんなに可愛い子達がいっぱいいるのに?」
「だからと言って恋人になれるとは限らないだろ。」
「じゃあ彼女達に好きって言われたらどうするの?」
「断るけど。」
――ガタッ!!!
ヒスイを除く全員がもの凄い勢いで立ち上がった。アマネ達なんて目を見開いて唖然としている。
俺、なんか変な事言ったか?
「どうして?娼婦だから?」
「まあそうだな。」
「娼婦とは付き合えないってことかしら?」
「いや、そう言う事じゃない。」
アマネやサクヤ達に好きって言われたら当然嬉しい。だが付き合う訳にはいかない。何故なら彼女達は胡蝶の娼婦であり、俺はそこの従業員だからだ。例えば俺がサクヤと恋人関係になったとしよう。そしたら客はどう思うのか。サクヤと恋愛ごっこをしに来ているのに、彼女には恋人がいる。間違いなく客は納得しないだろう。
「次からは支配人になるんだから尚更ダメだな。」
「つまり彼女達が娼婦じゃなかったら付き合うってこと?」
「そういうことだな。」
まあアマネ達は俺の事を弟としてしか見てないようなので、そんな事にはならなさそうだが。だが万が一彼女達のような美女に好きと言われたら、それはもう喜んで付き合うだろう。
「じゃ、じゃあ今チャンスがあるのは私だけなのね!」
「うーん、そう言う事になるのか・・・?」
「そ、そうよ!そう言う事よ!だ、だからその・・・えっと・・・本当に私の・・・こ、こ、こここ恋人にならない!!!」
だからじゃない。何故そこで顔を真っ赤にするんだ。恋人を推してくるのはわかったけど、そんなに恥ずかしいなら言うな。誘惑するならもっと上手くやれ。
「くぉおおらあああ!このトカゲ!なに調子のってねん!!!」
ヨギリが叫ぶ。夜中なのに元気な狐だ。そういえば狐って夜行性だっけ。
「ハルさん、このトカゲ、ちょっと借りるわね。」
「うむ、ちと躾けしてくるのじゃ。」
そしてコハルとアマネが般若のような顔でヒスイをどこかへ引きずっていった。
「ハル!なんでよ!助けなさいよおおおお!!!!」
ヒスイの断末魔が聞こえる。
ごめん、アマネ達の形相あまりにもが怖くて口出せなかった。まあ肉にされる事はないと思うから頑張れ。
「ハルさん、アレは放っておきましょう。私とユイカ達でなんとかしておきます。明日も下見に行くんですし、もう寝ていいですよ。」
「うん。サクヤ、いつもありがとう。」
お言葉に甘えて先に休むとしよう。明日はシミール王国。アナトリカ大陸にある国だ。どんな国か今から楽しみだ。




