恋人
「「「ハル!!!!」」」
「ひぃ!?」
なに、なに、なんなの!?娼婦になってくださいとハルに言われた瞬間、アマネ達が一斉に飛び出してきたんだけど。ちょっと漏れそうになったじゃない・・・危ない危ない。
「アマネ!?なんで!?」
「『なんで』じゃない!お主ちょっとこっちにくるのじゃ!」
「だからなんで!?」
「往生際悪いで!」
「いいから来なさい!」
そう言ってハルの首根っこを掴むと、アマネ達は彼をどこかへ引きずっていった。
「ほんとなんなのよ・・・」
殺されるかと思った。
さて帰ろうかな。もういいよね、ハルもアマネもどっか行ったし。
「ヒスイさん、お待ちください。」
「あなた誰よ。」
「サクヤと申します。アマネ姐さんからの伝言です。『待ってろ。勝手に帰ったら殺す』そうです。」
なんで!?さっきから私の人権なさすぎじゃないかしら!人じゃないけど!
「わ、わかったわよ!いればいいんでしょ!」
「ありがとうございます。」
「それで、あなた達はなんなのよ。」
「そうですね・・・簡単にいうならアマネ姐さん達の部下みたいなものです。」
ふーん・・・そうなんだ。まあ実力的にもアマネに劣ってるし、嘘ではなさそうね。このサクヤとか言う子なら私でも楽に勝てそうだわ。・・・やらないけど。だって似たような子達があと30人近くもいるんだもん。さすがに無理。
はぁ・・・もう大人しく待ってよ。
「それでアマネ達はどこへ行ったの?っていうかさっきのアレなんなのよ。」
「気にしないでください。あれは恋する乙女の病気みたいなものです。」
「へぇ・・・そ、そうなの?」
え、まさかあの3人、ハルに恋してるっていうの?あの規格外の化け物達が?
何それ、面白いわね。いい事聞いた。
「ふーん・・・そうなのね・・・」
つまりあれね。ハルを私の味方にしてしまえば、アマネ達を思いのままに出来るって事じゃないかしら。サクヤ達は・・・うん、見た感じ恋ではなさそう。彼を慕ってはいるけど、これはまた別の感情ね。
でもこれは使える。幸いにもハルは私の事をなんか気に入ってるみたいだし、彼を上手く誑かせばアマネ達に一泡吹かせられるかもしれない。
美少女の私にかかればハルなんかイチコロよ。
ふふ、積年の恨み、ここで晴らしてやるわ!竜族の恐ろしさ見せてあげる!
* * *
「ヒスイさん、変な事言ってすいませんでした!」
先程はついテンパってしまい、「娼婦になって」とか口走ってしまった。
「え、ええ、大丈夫よ。吃驚したけどね・・・それよりなんか疲れてない?」
「気にしないでください。」
何があったかは言いたくない。俺の名誉の為にも。
ちなみにアマネ達の説教はそれはもう理不尽なものだった。てっきり竜族に失礼な事を言うなと怒られるのだと思っていたのだが、そんな事は全然なく、単純に俺がヒスイの容姿をべた褒めした事が気に入らなかったらしい。そして「わらわ達の事も褒めろ」と意味のわからない事を言われ、今の今まで「アマネは世界一可愛い!」「ヨギリは息をのむ美しさだ!」「コハルは絶世の美女だ!」と歯の浮くような台詞を言わされまくっていた。強制的に。
「それでヒスイさん!改めてお願いがあります!」
「ヒスイでいいわよ。あと口調もなんか気持ち悪いから止めて。それで何なの?娼婦にはならないわよ?」
初対面の竜族にも丁寧語が気持ち悪いとか言われたんだけど。何故だ。
「じゃあヒスイ、2つお願いがあるんだ。」
「言ってみなさい。」
「竜の姿見せて!!!」
「え・・・?り、竜の姿が見たいの?」
当然見たい、全力で見たい。むしろ何故人化しているのか問いただしたいくらいだ。ヒスイの人の姿はめっちゃ好みの美少女だし、悪くはないんだけど、やっぱり俺としては竜が見たい。
「ま、まあ、それくらいなら別にいいわよ。」
ヒスイはそう言うと、くるりと空中で縦に一回転する。すると彼女は眩い光に包まれ、1匹の巨大な蒼い竜になった。
光り輝く蒼色の竜。それがヒスイの竜の姿。
かっこいい。それはもうかっこいい。
「かっこいいいいいい!!!ヒスイ!かっこいい!!!」
あとめちゃくちゃでかい。頭から尾までどれくらいあるのかわからない。翼だけみても数十メートルはあるだろう。
「そ、そう・・・?」
竜なので表情はよくわからないが、どこか照れ臭そうに返事をするヒスイ。
「あと綺麗!竜の姿になってもヒスイは美人なんだね!」
先程見たヒスイの人型の面影がどこか残ってる。この竜の姿を先に見ていたとしても、きっと俺は美人だと言っただろう。アマネ達は竜は絶望的な存在だと言っていたけど、全然そんな気はしない。目の前にいるヒスイはただただ綺麗で美しい。
「そ、そうかしら!人族のくせによくわかってるじゃない!」
口では冷静を装っているが、尻尾や翼を忙しなくバタバタさせているし、めちゃくちゃ喜んでるのがわかる。なんか可愛い。
「ハルさん!騙されちゃだめよ!こんなのはただの大きなトカゲよ!私のほうがもっともっと綺麗よ!」
「騙すってなんだよ!っていうかヒスイは綺麗だろうが!竜族を馬鹿にするな!」
「だ、だってー!」
コハルはコハルで当然綺麗だ。でもそもそも種族が違うんだから競っても仕方ないだろう。っていうか何故張り合う。
(あのコハルが引いたわ!やっぱハルには敵わないのね!でもこの私の竜の姿を見てもこの子は全然怖がらないのね。アマネ達が彼を気に入ってる理由がなんとなくわかる気がするわ・・・うん、悪い気はしないわね)
「ハル、ありがとう。褒めてくれて嬉しいわ。今度特別に背中に乗せてあげてもいいわよ?」
「ほんとに!?」
「ええ・・・ってひぃいいい!?」
「・・・?ヒスイ、どうしたの?」
「な、なんでもないわ!うん!」
うーん、どうしたのだろう。なんかヒスイが怯えてる気がするのだけど。
アマネ達が何かしたのかと思い、後ろを振り返るが、彼女達はニコニコと笑っているだけだった。気のせいかな。
「あ、人の姿に戻ってもらっていい?」
「いいわよ。話しにくいものね。」
眩い光が再びヒスイの体を包み、彼女は少女の姿で現れた。
「それでもう1つのお願いなんだけど・・・」
「ああ、2つあるって言ってたわね。なに?」
「友達になって欲しい!」
よし、やっと言えた。
「え?友達?誰と誰が?」
「俺とヒスイが!」
やっぱり駄目だろうか。竜族はプライドの高い種族だと前の世界の小説ではよく描かれていた。人族の俺なんかが友情を迫っても断られるのが関の山なのかもしれない。でもせっかく竜族に会えたんだし、是非お知り合いになりたい。
なんたって竜はかっこいい!!!
「ふーん・・・友達、友達ね・・・」
「ダメかな・・・?俺友達いないんだよね。」
もしヒスイが頷いてくれたら、この世界で初めての友達だ。ずっと独りぼっちだった俺にもついに友達が出来る。
「え?じゃあアマネ達はなんなの?」
「みんなは家族みたいなものだから友達とは違うよ。」
アマネ達は俺を可愛がってくれるお姉さん。いつも俺を守り、面倒をみてくれ、支えてくれるお姉さん。この世界での俺の家族。そんな存在だ。
「えーっと・・・と、友達でいいの?」
「はい!」
ヒスイが難しそうな顔で唸っている。
「でもほら私って美少女でしょ?」
「え?ああ、うん、美少女だと思うけど?」
「あなたもさっき見惚れてたでしょ?」
「ま、まあ確かに見惚れてたけど・・・それが?」
ヒスイは何が言いたいのだろう。
「だから・・・その・・・と、友達だけでいいの?なんなら・・・その・・・こ、ここここ恋人でもいいのよ?ど、ど、どどどうかしら!?」
・・・まさか友達をすっ飛ばして恋人を提案されるとは思わなかった。
「恋人・・・?」
「そ、そうよ!なによ!い、嫌なの!?」
顔真っ赤にして何言ってんだ、このドラゴン。いやまあ美少女なのは確かだし、見惚れてたのも確かだ。こんな美少女が彼女ならそりゃ嬉しい。でもそんな赤面するくらいなら言わなければいいのに。
「と、友達で・・・」
だがさすがにここで首を縦に振る度胸は俺にはなかった。人生初の彼女も悪くないと一瞬思ったが、ここで「はい」と答えたら人生も終わってしまいそうな気がしたからだ。何でかはわからないけど、そんな悪寒がした。
「じ、じゃあこ、こ、ここ恋人候補ってことでどうかしら!!!」
だからなんでそんなに恋人を推してくるんだ。
「まあ候補なら・・・」
「ありがと!!!」
あとなんで俺が礼を言われてるのだろうか。友達になってと頼んだのは俺だし、礼を言うのはこっちな気がする。
うーん・・・なんかこのドラゴン、ポンコツっぽいな。
――ブチッ・・・
何かが切れた音がした。いや、した気がする。
「くぉおおらあ!!!何寝惚けた事いっておるんじゃ!ぶち殺すぞ!!!」
「このトカゲ!!!生意気な事言うてからに!!!ぶちのめしたるわ!!!」
「ハルさん!待っててね!!!今日はドラゴンステーキよ!!!」
ああ、アマネ達か。
なるほど・・・さっきの悪寒もこいつらのせいだったのか。しかもいつの間にか力を解放した時の姿になってるし。
そもそもなんでアマネ達が切れてるんだ?俺に友達、もしかしたら恋人、が出来るんだからむしろ祝って欲しんだが。
「ひぃいいいいい!?ハルうううううう!!!」
っていうかヒスイが怖がってるからやめなさい。
* * *
「・・・なにあれ。」
ヒスイをボコボコにしようとするアマネ達。
それを必死に止めるハル。
そしてハルの背中に隠れて震えるヒスイ。
サクヤやユイカ達は遠巻きにそれを眺めていた。
「っていうかあの竜、なんで恋人なんですかね?」
「見ればわかるでしょ。ハルさんを味方につけようとしてるのよ。」
「ああ、アマネ姐さんらにびびってますもんね。」
「ハルさんと恋人になれば姐さん達に仕返し出来るとか思ってるんじゃない?」
「でもあの竜、恋愛経験ないでしょ。あんなに顔真っ赤にして。」
「ないわね。お色気作戦するならハルさんに抱き着くくらいしなきゃ。」
「でもあんなのに騙されるアマネ姐さん達って・・・」
「あの竜も、姐さん達も初心なのよ。」
「しょうもない争いですね・・・」
当然サクヤ達はヒスイの企みには気付いている。そしてそれにアマネ達が引っ掛かるだろうと言うことも。ただ全員それをわかっていて放置している。
だって面白いから。
「それにしてもハルさん、昨日といい今日といい、ちょっとはしゃぎすぎでは?」
「昨日まで獣人好きっていうの隠してたからじゃない?色々我慢してたんでしょ。」
「まあバレバレでしたけどね。何故あれで隠せてると思ってたのが不思議です。」
「でも私達の事、すんなり受け入れてくれたよね。」
「うん、あれは嬉しかった。可愛いって言ってくれたし。」
「でもやっぱり最近のハルさん、ちょっと欲望に忠実すぎよね。」
「ずっと仕事で休む暇なんてなかったでしょ?溜まってるんだと思うわよ。」
「ああ、それはあるかも。でもあんなに子供っぽいとは思わなかった。」
「でもあんなハルさんも・・・」
「うん、そうね・・・」
「ええ・・・」
「「「「「可愛いなぁ・・・」」」」」
結局どこまでも可愛い弟が大好きなサクヤ達なのだった。




