ヒスイ
私の名前はヒスイ。竜族よ。何歳かはもう忘れた。2000を超えた辺りから数えるのを止めてしまった。あ、一応言っておくけどただの竜族じゃないわ。数千年生きているめちゃくちゃ偉い竜で、竜族の長。人間達にはよく覇竜とか言われるわ。
「なんなのよ・・・」
そんなめちゃくちゃ偉い私は今、生命の危機に晒されている。
私達竜族は浮遊島列島を縄張りとしている。そして基本的にそこから出ない。別に出ては駄目という決まりがあるわけではないけど、数百年食事しなくても生きていけるし、めんどくさいんだもん。
竜族は強大な力を持っているせいで、どの種族からも恐れられている。特に人族には天災とまで言われる。だから気まぐれで人族の街に散歩なんかした日には大騒ぎになる。別に人族なんかペチっと殺してしまえばいいんだけど、五月蠅いのは嫌い。私は平穏に暮らしたいだけだからこの浮遊島でのんびり惰眠を貪る毎日。
・・・のはずだった。あのアマネとかいう鬼人族の女が来るまでは。
あの日の悪夢は今でも鮮明に思い出せる。
数年前、私がいつものようにのんびり浮遊島周辺を飛んでいたら、あのアマネとかいう女がいきなり殴りかかってきた。吃驚したけど、すぐに応戦したわ。さくっと殺して格の違いというのを見せつけてあげるつもりだった。
でも現実はその逆。あっさりと格の違いを見せつけられた。
何なのあの化け物。私は竜族。この世界最強の種族なのよ。それなのに蠅を叩き落とすかのようにペチっと地面に落とされ、ボコボコにされた。あまりにも容赦がなくてちょっと泣いたのは内緒。
『ここをわらわの別荘にするのじゃ!』
そしてあの女はそんな事を宣言した。当然私に拒否権なんてあるわけもなく、首を縦に振るしかなかった。
それから暫くは平和だった。アマネがヨギリとコハルとかいう2人の女を連れて戻ってくるまでは。
もちろんボコボコにされた。
だからなんなの!あの化け物達は!腕試しだと言ってたけど、私をそんな事に使わないで欲しい。その日は結構泣いた。これも内緒。
そしてさらにそこから数年後・・・
「なんでまた来てるのよ・・・しかも大勢で・・・」
せっかく静かに寝てたのに。やっと平和になったと思ったのに。
それになんか今回は馬鹿でかい屋敷まで持って来てるじゃない。私の浮遊島にそんな変な物を持ち込まないで欲しい。まあそんな事言える度胸ないんだけど。
「あれ・・・でも今回は珍しいのがいるわね。普通の人族?なんであんなのがいるの?それにあの3人以外の子達はそれ程でもないわね。」
とはいっても数人でかかって来られたらやばそう。人畜無害なのはあの人族の男だけね。何か場違いな気がするんだけどどういうことなの。
気になるし、ちょっと様子見ね。私の浮遊島で変な事されても嫌だし。
それから数日間、私は彼女達の会話に耳を傾けつつ、監視を続けた。まあ向こうも私の存在には気付いているだろうから、下手に隠れず、堂々と監視した。とはいっても実際気付いていたのはアマネ、ヨギリ、コハルだけだったみたい。
そして今。
「なんでこんな事になってるのよ!?」
あの子達の会話を聞いていて分かったのは、あの人族の男がアマネ達に可愛がられてると言う事。そして何故か竜族に会いたがってると言う事。
でも出ていくのは嫌。何されるかわからないし。
だから私は黙って見ている事にしたのだけど・・・
「ドラゴンさーん!!!どこですかー!!!」
あの人族の男は私が出ていかなかったのが気に食わないのか、今日になっていきなり湖の畔で私を呼び始めた。そして彼の周りにはアマネ達がいて、彼の事をしっかり護衛してる。
「なんで呼んでるのよ!?私に何をする気なの!?これは罠!?」
出ていくのが正解なのか、このままそっと逃げるのが正解なのか・・・何が正しいのかわからない。アマネ達がいなかったら竜族を呼び出そうとする不敬な輩なんてカプッっと食べてやるのに。でもあの子達がいるからそれをしたら多分私が酷い目に合わされる。いや、絶対ボコボコにされる。
「どうしよ・・・ってひぃいいいい!?なんか殺気飛ばされてるんだけど!!!」
私は慌てて周囲を見回す。
あ・・・アマネとヨギリとコハルがこっちを睨んでる。怖い。
「えっと・・・なになに・・・『姿を見せてやれ、なんかしたら殺す・・・?』ってなんでよ!?『早くしろ・・・?殺すぞ?』どのみち殺すの!?・・・あーもう!わかったわよ!行けばいいんでしょ!行けば!」
はあ・・・なんでこんな事に。
「とりあえず人化した方がいいわね。あの男を怖がらせてもきっと殺されるし・・・」
よし・・・!うじうじしてても仕方ない。私は偉い竜。覇竜よ!だ、大丈夫。きっと大丈夫・・・
「よし、あと1回叫んでダメなら諦めよう・・・ドラゴンさーん!!!」
「うるさーい!!!あなたは一体なんなのよ!!!」
掴みは完璧ね。これくらいならきっとあの子達も怒らない。大体竜族を呼び出すなんてありえない。文句の一つくらいは言わせてもらうわ。
「・・・」
あらあら、私の事そんなにじろじろ見て・・・ふふ、私の美貌に見惚れてるのね?人族のくせによくわかってるじゃない。そこは褒めてあげる。
「竜族の方ですか!!!」
「え、えぇ・・・そ、そうだけど・・・ってなに手を握ってるのよ!!!」
ちょっと!?この子はなんで急に私の手を握ってきたの!?待って!私そういうのした事ないんだから!
「すいません、興奮してしまって。」
うぅ・・・男の人に手を握られた・・・恥ずかしい・・・
2000年生きてるけど恋愛経験なんかないんだから止めてよね。あ、でもそういうのに興味がないわけじゃないの。恋愛とかしてみたいとは思うわ。でも私に見合う人なんていないんだもん。竜ってだけで大抵の種族は逃げてくし、同族は・・・碌なのいないし。
だから男の人に手を握られたの初めて。ちょっとドキドキしちゃった・・・
・・・って私はなに照れるのよ!人族なんかに手を握られたのよ・・・!これはもう殺すしかないわ!カプって食べちゃおうかしら・・・ってひぃいいいい!?殺気が飛んできた!!!
うん、わかったわ。余計な事考えたら私は殺される。今ので凄くわかった。
「あの!まずはお名前を!俺はハルと言います!」
「え、ええ・・・そうね。私はヒスイよ。」
ハルね。覚えたわ。こんな危険人物絶対忘れないわ。この子に手をだしたら竜族は絶滅する。ちゃんと後で同族にも伝えておかなきゃね。
「あ、あ、あああの!ヒスイさん!お、お願いがありまして・・・!!!」
今度はなんなの。私もう疲れたから早く帰って寝たいんだけど。でもこれ断ったらまた殺気が飛んできそうだし、とりあえず聞くだけ聞こうかしら。
「・・・とりあえず言って見なさい・・・」
「ひ、ひ、ひひひ一目惚れしました!!!ヒスイさんはとても綺麗で!美しいです!だから!その!!!」
あらあら、慌てちゃって。ちょっと可愛いわね。
でもなるほどね。私の美貌にやられたのね。まあそれは仕方ないことよ。だって私は美しいもの。今までも色んな連中に言い寄られたわ・・・竜の姿を見せたら逃げてったけどね。
あれ?でもハルは私が竜族だって知ってるのよね?それなのに言い寄ってくるのは珍しい・・・いえ、初めてね。
でも所詮は人族。私には釣り合わないわ。残念だけど諦めなさい。
「う、うちの店の娼婦になってください!!!」
・・・・はい?
「な、なななんでよ!!!なるわけないでしょ!!!」
生娘の私に何を言ってるの!?告白ですらないじゃない!いやもう色々すっ飛ばしたとかそういう次元じゃない!恋人ですらないんだけど!なんで娼婦なのよ!?
「間違えました!!!」
「どういう間違いよ!!!!」
うぅ・・・もうなんなの・・・。お家帰りたい。泣きそう。




