竜族
――休日最終日。
明日からは候補地の国々を巡るので、ゆっくり休めるのは今日が最後。というわけで、やり残したことをやらなければ。
勿論あれだ。
俺は胡蝶の外に出て、湖の畔で全力で叫ぶ。
「ドラゴンさーん!!!どこですかー!!!」
* * *
「サクヤ、どないしたん?」
私が不思議そうな顔をしていたのに気づいたのか、ヨギリ姐さんが聞いてくる。
「いやいや、ハルさんのアレ。一体何してるんですか・・・?」
私は呆れ顔で尋ねる。ハルさんは「今日はどうしてもやりたい事がある」と言って外に飛び出していった。そんな彼が何をするのか気になり、私を含めた全員が、ハルさんをこっそり見守っているのだけど・・・急に叫び始めたので吃驚した。
「なんか竜族に会いたいらしいのよ。」
「相変わらずアホやなぁ・・・絶望的な存在やって説明したのに。」
「わらわ達がおるから安心しておるんじゃろ。」
「あら、じゃあ竜族が出て来ても助けなかったらどうするのかしら。」
「あ、それおもろいな。ふふ、ハルの怖がるとこ見られるかもしれへん。」
「くくく、それはありじゃな!」
やれやれ、この人達は何を言ってるんだろう。アマネ姐さん達にどうせそんなのは無理。ハルさんが危険に晒されたら真っ先に飛び出していくの知ってるんだから。まあ私もそうなんだけどね。可愛い弟が虐められるのは許せません。
とはいっても流石に私では竜族に勝てない。アマネ姐さん達であれば余裕でしょうが。でも私は無理。ユイカ達と協力し合えばなんとかと言ったところ。
「でも竜族って耳いいですし、アレ聞こえてるのでは?」
狐人族である私も、人族に比べ耳は良い。集中すれば数キロ先の物音くらいはわかる。だが竜族の聴力はそれを遥かに凌駕する。数十キロ先の話声すら正確に聞き取れるという。私の比ではないだろう。
さらには聴力だけでなく、気配察知も優れている。だから竜族がハルさんの存在に気付いていないわけがない。
「当然じゃな。むしろすぐに近くにおる。というかわらわ達がこの島に来てからずっと様子を伺っておるぞ?」
「ですよね。じゃあなんで出てこないんでしょう。」
「サクヤは『狐人族さん尻尾をモフモフしたいので出てきてくださいー!』って叫んでる奴がおったら出ていくのか?」
「・・・いきませんね。むしろ殺しますね。」
うん、確かにそうですね。ハルさんが叫んでたら私は喜んで出ていくでしょう。でもハルさんと赤の他人である竜族にしてみたら「何言ってんだあいつ、殺すぞ」にしか聞こえない。
「危なくないんですか・・・」
「わらわ達がおるから動くに動けんのじゃろ。以前軽くしばいたったからな。出て行ってハルを食い殺したいけど、わらわ達がおるから動けない。くくく、頭を抱えてそうじゃ。」
アマネ姐さんが楽しそうに笑う。
笑いごとじゃないんですけど・・・それにアマネ姐さんの軽くは絶対軽くじゃない。少し竜族に同情してしまいます。
「でもまあハルが会いたがってるし会わせてやろう。可哀そうになってきた。」
はぁ・・・こうなりますよね。アマネ姐さんはハルさんに甘々ですから。惚れた弱みというやつでしょうか。まあ私も可愛い弟の為なら頑張っちゃうから人の事はあまり言えないんですけどね。
「せやね、でもどうするん?」
「とりあえず無差別に殺気を振りまいたらどうかしら?」
「そうじゃの。さっさと出てこいとプレシャーをかけるか。」
そう言って全力で殺気を巻き散らすアマネ姐さん達。
本当に竜族が可哀そうになってきた。この3人の殺気を受けて平気でいられるわけがない。ハルさん以外は・・・
「なんでハルさんは姐さん達の殺気にたじろぎもしないんでしょう・・・」
「確かにの・・・でもだからこそお主らはハルを気に入ってるんじゃろ?」
「せやね。うちらの事全然怖がらんもん。」
「鈍感だからかしら?でもそう言うとこが可愛くていいんだけどね。」
アマネ姐さん達がきゃぴきゃぴガールズトークを始めました。ちょっと乙女っぽくて可愛いんですが、そんな悍ましい殺気を放ちながらする事ではないと思います。
でもその気持ちはわかる。ハルさんは私達に平気な顔で接してくる。どれだけ殺気を放っても、平然として「尻尾触っていい?」とか言ってくる。そこが可愛い。しょうがない手のかかる弟みたいで庇護欲を掻き立てられる。
「あ、観念して出て来たのじゃ!」
アマネ姐さんが指差した先に人影が見える。人化した竜族でしょうか。
「よし、もう少しハルに近づいておくのじゃ。」
「はい、わかりました。」
ハルさんに何かあったらいけないので、私達はすぐに動ける位置に移動する。竜族とハルさんを取り囲むようにして身を潜める。
うーん、この状況、やっぱり竜族には少し同情してしまいます。
* * *
「ドラゴンさーん!竜族の方ー!!!」
うーん、ダメだ。さっきから必死に叫んでるが全然姿を見せてくれない。俺の声が聞こえないのだろうか。竜族は耳がいいと聞いた事があるからこれで行けると思ったのに。
「アマネ達にも来て貰えばよかったなー・・・」
1人で飛び出してきたのは失敗だった。
「よし、あと1回叫んでダメなら諦めよう・・・ドラゴンさーん!!!」
「うるさーい!!!あなたは一体なんなのよ!!!」
「うわぁ!?」
急に背後から声がしたので慌てて振り返る。
するとそこには・・・白いワンピースのようなドレスを着た美少女がいた。
その美少女は綺麗なコバルトブルーの長い髪をしており、前髪にワンポイントで白い花の髪飾りを付けている。瞳は薄い翡翠色。顔立ちも非常に整っている。身長は150cmくらいだろう。幼女ではないが、どこか幼さが残る少女と言った感じだ。
しかし息をのむ美しさとはまさにこんな感じに違いない。アマネ達に勝るとも劣らない美しさについ見惚れてしまう。
俺がこうして誰かに見惚れるというのはかなり珍しい。何故なら絶世の美女であるアマネ達がいつも側にいるからだ。それに俺は慣れてしまっている。そんな俺が目を奪われると言う事は・・・この女がかなりの美少女であり、そして好みのタイプだと言う事に他ならない。
「なに驚いてるのよ!呼んでおいてその態度は失礼じゃないの!?」
そんな事言われても後ろから急に声をかけられたら誰だって驚くだろう。
っていうか誰だよ・・・
あれ?そういえば今「呼んでおいて」と言ったか?
つまり、まさか、竜族?
「竜族の方ですか!!!」
「え、えぇ・・・そ、そうだけど・・・ってなに手を握ってるのよ!!!」
竜族の美少女は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
あ、しまった。つい興奮して手を握ってしまった。でも仕方ないだろう。待ちに待った竜族との邂逅なのだから。
でも手を握られたくらいで赤面するとかこの子は初心なのか?俺の中では竜族は何千年と生きていて、貫禄のあるイメージなのに。
「それで一体なんなのよ!!!」
「・・・?」
「なに首を傾げてるのよ!私を呼び出した理由よ!!!」
「ああ!俺は竜族に会いたかったんです!」
「はぁ!?・・・ってだから手を握るな!あと近い!顔が近いわよ!!!」
また顔を真っ赤にしながら叫ぶ竜族の女の子。
おっと、またやってしまった。俺は彼女の手を離し、数歩下がり、ゆっくりと深呼吸する。よし、落ち着いた。
「すいません、興奮してしまって。」
「はあ・・・まあいいわよ・・・で?」
「あの!まずはお名前を!俺はハルと言います!」
「え、ええ・・・そうね。私はヒスイよ。」
瞳の色が翡翠だからヒスイなのだろうか。しかしいかにもな名前で感動した。
「いい名前ですね!!!ヒスイさん!!!」
「え?そ、そう?あ、ありがと。」
(ってなんで私はお礼言ってるのよ・・・もう殺そっかなぁ・・・ひぃ!嘘です!殺しませんから殺気飛ばさないで!)
「なんか言いました?ヒスイさん?」
「な、なんでもないわよ!」
(言えるわけでないでしょ!さっきから殺気を飛ばされまくってるって!完全に囲まれてるんだけど!なんでこの子はこの殺気の中平然としてるのよ!?)
なんかヒスイが浮かない顔でぶつぶつ言ってるだが大丈夫だろうか。呼び出したのが不味かったのかな。でもせっかく出てきてくれたんだし、これは竜族と友達になる絶好のチャンス。
「あ、あ、あああの!ヒスイさん!」
「はぁ・・・なに?」
「お、お願いがありまして・・・!!!」
「・・・とりあえず言って見なさい・・」
ああ、緊張する・・・友達になってくれるかな。
えっと、それで・・・なんて言えばいいんだっけ・・・?まずは褒めた方がいいのか?・・・うん、そうだ、それがいい。少しでも印象をよくしてから友達になってくれとお願いしたほうが上手くいくかもしれない。
「ひ、ひ、ひひひ一目惚れしました!!!ヒスイさんはとても綺麗で!美しいです!だから!その!!!」
よし、ここだ。友達になってくださいって言うんだ。
「う、うちの店の娼婦になってください!!!」
――あれ?




