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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第二章 新天地編
71/106

進化

「アマネ、それで他に何を教えてくれるの?」

「うむ。わらわ達の本当の姿をみたじゃろ?それに繋がる事なんじゃが・・・ハルはわらわ達の実力についてどう思う?」


 ふむ・・・アマネ達の実力か・・・


 正直に一言で言うなら規格外。特にアマネ、ヨギリ、コハルの3人はそれで間違いない。サクヤ達についても人の域を出た実力者だと思う。ただ俺はこの世界の冒険者の一般的な実力を知らない。魔法についてもどの程度使えるのが「普通」なのかさっぱりわからない。転移魔法や収納魔法が一般的な魔法なのかもさっぱりだ。もしかしたらサクヤ達は普通くらいなのだろうか。


「アマネは元トップランクの冒険者だと言ってたよね?だからアマネ、ヨギリ、コハルは規格外なんだと思う。サクヤ達については・・・正直わからない。俺からしてみれば凄いと思うけど、それが普通なのかどうかはわからない。」

「なるほどの。サクヤ達の実力か。うーん・・・そうじゃの・・・あ、ハルよ。サクヤ達がやった『後処理』というのは何のことかわかるか?」


 サクヤ達がノテーファル王国に残ってやってくれた後処理の事か。俺はてっきり噂が広まらないように色々と情報操作を行ってくれたのだと勝手に思い込んでいたが違うのだろうか。

 

「ちょっと違う。あの国で何があったかを隠すのは無理じゃ。誰がやったかをある程度隠す事は出来るがの。そして勿論その情報操作はやってもらった。だがそれだけではないのじゃ。」

「じゃあ他には何を?」

「う、うむ・・・落ち着いて聞くのじゃぞ・・・?サクヤ、言ってやれ。」


 え、何をやったの?サクヤ達何をしてきたの?アマネの口調からして聞くのが怖いんだけど・・・


「アマネ姐さん・・・そこで私に丸投げなんですか?まあいいですけど。ハルさん、簡単に説明すると私達がやったのは3つです。それは・・・」

「そ、それは・・・?」

「1つ。愚王を暗殺しました。」

「はぁ!?」

「2つ。王族関係者を全て暗殺しました。」

「なんで!?」

「3つ。おまけに爵位を持つ連中も全て暗殺しました。」

「暗殺しかしてない!?」


 しかもおまけってなんだよ!


 だがまあつまりそう言う事なのだろう。


 サクヤ達も規格外。


 一国の王だけでなく、全ての貴族を暗殺するなんて普通じゃない。やれと言われても普通じゃ絶対無理だ。それをサクヤ達は何でもないような顔で平然とやってのけた。アマネが「後処理を頼む」と言った際、彼女達は表情一つ変えず「わかりました」と言ったのが何よりの証拠だ。


「ふふ、ハルさんのその驚く顔、私は好きですよ?」

「そんなとこ褒められても嬉しくないんだけど。とりあえず後処理ってのはあれか?『国を潰した』って事でいいんだな?」

「ええ、そう言う事ですね。一般人には手を出してませんが、国政に関わる者達は全て始末しました。今後あそこがどうなるかは私にもわかりません。『ハルさんに手を出したから私達が何かした』という噂は流れるかもしれませんが、それこそ噂程度。直ぐに忘れられるでしょう。」


 まあ胡蝶が消えたわけだしな。勘のいい奴なら胡蝶絡みだとすぐにわかるだろう。だがさすがにアマネ達だけで国を堕とせるなんて誰も思わない。言っても信じないだろう。つまり噂は噂で終わるというわけだ。


「確かにそうだね。アマネ達が凄いとは思ってたけど、ちょっと強いくらいにしか思ってなかったもん。俺を助ける為に大隊1つ消し飛ばしたあの惨状見るまではね・・・」

 

 今思い返してもあれは凄かった。何も残ってなかった。完全な更地。どんな魔法を使えばあんなことが出来るのだろうか。


「そういうことじゃ。わらわ程ではないがサクヤらも十分に規格外と言う事なのじゃ・・・自分で言うのはこそばゆいがの・・・」

 

 恥かしそうに頬を染めるアマネ。こうやってしてるとアマネは本当にただの幼女だ。とても国を堕とせるような人外には見えない。


「俺にとってはただのロリババアなんだよなぁ・・・」

「だからロリババア言うな!!!」

「可愛いってことだよ。」

「ぐっ・・・な、なら最初からそう言うのじゃ!このアホ!」


 やはり俺にとってアマネは些細な事で一喜一憂するただの幼女だ。280歳には見えないし、化け物でもない。


「アマネはアマネだな。」

「そうか・・・。じゃがここからが本題なのじゃ。わらわらがそのような力を持っておるのには理由があっての。それをお主には教えておく。」

「理由?」

「うむ。わらわも一応その・・・別の姿というものがあっての?人化の術を使ってるわけではないんじゃが、力を解放するとな・・・?」


 真の姿というのが別にあると言う事か?第二形態とかそういう感じか?


 何それかっこいい。小説みたいでちょっとわくわくする。


「それを見せてくれるのか?」

「う、うむ・・・ハルじゃからな!特別じゃ!よし、ではヨギリからじゃ!」

「はあ!?な、なななんでうちなん!?」

 

 自分が先陣を切る事になるとは思わなかったのか、ヨギリが慌てふためいている。


「だってハルは獣人好きじゃから!ショックが少ないと思って!」


 やめて。獣人好きとか大声で叫ばないで。事実だけど恥ずかしいから。


「ま、まあ確かに。一理あるわ・・・」


 あるのかよ。そこで納得すんなよ。


「色々言いたい事はあるが・・・わかった。じゃあヨギリからお願いします。」

「う、うん・・・でも吃驚せんといてな?」

「だから今更だって。ヨギリはヨギリだろ。」

「わかった・・・ほないくで・・・」


 そう言うとヨギリは目を瞑り、深呼吸する。


 すると次の瞬間、ヨギリの漆黒の髪が一瞬にして金色に変わった。瞳の色も琥珀色から燃えるような紅色になっている。目も少し細くなり狐っぽさが増し、可愛い髭も左右に数本ずつ生えている。

 

 これが・・・ヨギリの本当の姿。


「あのさ・・・ヨギリ・・・」

「ど、どしたん・・・?」

「尻尾!尻尾!が増えてる!!!ふぉおおおおおおお!!!」


 まさか尻尾が増える思わなかった。髪が黒から金色に変わったように、尻尾もそうなのかと思って確認したら、まさかの増殖。美しい金色の尻尾がモコモコっと何本も生えているではないか。


「え、えぇ!?け、結局そこなんかい!?」

「当たり前だろ!で、これ何本あるの!!!」

「う、うん、うちの尻尾は九本あるんよ?」


 九本だと・・・そうかここが天国か。


「ヨギリ!!!」

「はいはい、やっぱそうなるんやね。うん、わかってる。ええよ。」


 ヨギリが溜息を吐きながら尻尾を差し出してくれた。


「いやっほおおおおお!」


 もちろん全力で飛び込んだ。アマネ達にもの凄く呆れた目で見られている気がするが関係ない。俺は今この瞬間をおもいっきり楽しむんだ。獣人好きと宣言したからにはもう遠慮しない。欲望のままに生きるまでだ。

 

「はぁ・・・ほんまハルは・・・まあ嬉しいんやけど。うちのこの姿みても怖がるどころかこんなにはしゃいでんねんもんなぁ・・・」

「もう最高・・・でヨギリはこれ九尾ってことでいいの?」

「あ、知ってるんや。せやで。狐人族が進化すると九尾になるねん。」


 なるほど、進化か。ヨギリは普通の狐人族ではなかったのか。ヨギリが何故進化したのかは知らないが、彼女の尋常じゃない力は九尾だからこそなわけだ。


「つまりアマネやコハルもそうって事だよな?」

「せやで。でもユイカ達もそうなんよ?まああの子らはここまでではないけど。それでも多少なりの進化はしてるから力が異常なんよ。」


 アマネ達との差はそこって事か。ユイカ達は見た目が変わる程の進化はしていない。だからアマネやヨギリには及ばない。なるほど、やっと理由がわかった。


「そう言えばサクヤはどうなるの?」

「せやね。サクヤ、見せたったら?」

「はい。私もハルさんに見てもらうつもりでしたし、そうします。」


 サクヤは軽く手を振る。すると彼女の金色の髪が黒に変わり、紅色の瞳が琥珀色に変わった。見事にヨギリと逆だ。


「ふふ、どうです?」

「うん、黒髪のサクヤもいいな・・・俺は好きだよ。」

「あら、嬉しいです。あ、ちなみに尻尾は5本ですよ?」


 そう言ってサクヤはモフモフの尻尾を左右に揺らしながら俺に見せてくれた。


「・・・五尾?」

「はい。ふふ、そんな顔しなくてもわかってます。ハルさん、いつでもどうぞ?」


 もちろん全力で飛び込んだ。


 さすがにヨギリの9本には負けるが、十分にモフモフだ。


「生きててよかった・・・」

「今日のハルさんはちょっと欲望に忠実過ぎる気もします・・・ふふ、まあそんなハルさんもハルさんですからね。可愛い弟です。」


 サクヤがどこかホッとした表情で呟く。


「せやね。怖がられたらと思ったけど杞憂やったわ。」

「あ、ヨギリ。でも1つだけいいか?」

「うん・・・?こ、この姿になんかある?」

「出来たら尻尾をあと30本くらい増殖してくれ。頼む。」

「・・・・・・・・・は?」


 長い沈黙の後、ヨギリが大声で怒鳴る。


「アホなん!?それこそ本当にただの化け狐やんか!?」


 どうやら俺の素晴らしい提案は納得いかないらしい。何故だろう。


「いい案ではない?」

「どこがええ案なん!?そんなん邪魔くさいだけやんか!尻尾が増える=進化ちゃうねんで!?9本で十分やん!?」


 ダメらしい。残念。


「ヨギリ姐さん・・・ハルさんのコレはもう病気と思って諦めましょう。」

「はぁはぁ・・・せやね。そうしよか。」


 酷い言われようだ。欲望に忠実な真っ直ぐな人間と言って欲しい。


「じゃあ次はコハルやね、もうさくっとやったら?」


 ヨギリは溜息を吐きながら、コハルに話を振る。


「そうね。心配してたのが馬鹿みたい。はい、ハルさん、私はこれよ。」


 コハルが軽く指を鳴らす。すると彼女の桃色の髪が白に染まった。そして彼女の透き通るような白い肌は色味を帯び、褐色になる。瞳は水色から翠色に。エルフの特徴である長い耳もさらに長くなった気がする。


 これはもしかして・・・


「ダークエルフ?」

「あら、知ってるのね。」


 知識としては知っていた。ただエルフが進化するとダークエルフになるとは思わなかった。まあ俺の知識は全て小説からなので、間違っていても仕方がない。そもそも前の世界ではエルフとかダークエルフとかいなかったし。


「でもそれだけ?」

「え?そ、そうよ?これだけだけど・・・」


 もっと劇的に変わると思っていたから正直拍子抜けだ。髪や肌の色は変わったけど、見た目はいつもの美人なコハルのまま。


「俺はてっきり筋肉隆々のごついおっさんみたいになるのかと・・・」


 ――バキィ!ドコォン!


「コハル!い、痛い!・・・だからお前はなんですぐ殴るんだよ!」

「うるさい!黙って殴られなさい!私をなんだと思ってるのよ!」


 黙って殴られろとか、こいつ俺をサンドバッグか何かだと思ってないか?


「だってコハルは武器とか持たないRPGで言うところのモンクタイプだと思ってたから・・・進化したらごつくなると思っていた。ごめん。」


 だってこの子普通にナックルダスターとか持ってそうだもん。


「うん。RPGが何かはわからないけど、ムカつく事を言われてるのだけはわかるわ。覚悟しなさい。」


 その後何があったかは言うまでもないだろう。俺の名誉の為に割愛する。ちなみに2割増しで痛かった。ダークエルフになってるからなのだろうか。


「はぁ・・・酷い目にあった。」

「自業自得じゃ。」

「あ、次はアマネの番?」

「まあそうなんじゃがな・・・なんかもう今まで言わなかったのが阿保しい。わらわ達がどんだけ悩んだか!お主!わかっておるのか!」


 俺の反応が不満らしい。でもそんな事言われても困る。むしろ彼女達の見た目が多少変わるくらいなんだと言うのだ。この世界の価値観は知らないが、俺にとってこういうファンタジー的な要素は大歓迎だ。


「でも最後はアマネってことで期待してるぞ!アマネだもんな!凄いに違いない!」

「・・・は!?」

「あ・・・!なるほど!そうか!俺が会いたがってた竜だな!きっとアマネは力を解放すると竜の姿になるんだな!!さすがアマネだ!!!」

「え・・・いやその・・・まって・・・あの・・・まって・・・」


 結局数日間浮遊島にいたが、竜族には会えなかった。いつ会えるんだと毎日毎日期待していたのに、会えなかった。だがアマネは「すぐに会えるじゃろ」と言っていた。つまりそう言う事に違いない。アマネが竜族なのだ!


(コ、コハル!これどうすればいいんじゃ!)

(知らないわよ。竜になってあげればいいんじゃないの?)

(なれるか阿保!!!わらわは鬼人族じゃ!!!)

(でも見なさいよ。あのハルさんの期待に満ち溢れた目)

(知らんわ!期待されても困るわ!!!)


 わくわく。


「アマネ早く!早く!」

「ぐっ・・・わ、わかったのじゃ・・・じゃが!期待するなよ!」


 アマネが「えぃ」と呟く。するとアマネの姿形が少しずつ変わっていく。


 しかし力の解放のやり方って色々あるんだな。ヨギリは目を瞑り、コハルは指を鳴らした。アマネのは何か可愛いかった。


 そして肝心のアマネの進化した姿は・・・


「・・・えっと・・・竜は?」

「なれるわけないじゃろ!!!」

「えー・・・」

「文句いうな!そもそもわらわは鬼人族じゃ!知っておるじゃろ!」


 竜にはなれないらしい。残念。


 でもまあよく考えらば当然か。鬼人族が竜になるとか、それはもう進化じゃない。種族が変わっちゃってるし。変なテンションのせいでちょっと冷静じゃなかった。


「それで!わらわのこの姿を見た感想はどうなのじゃ!」


 まあアマネの進化した姿にはちょっとだけ吃驚した。何故なら幼女ではなくなってたからだ。見た感じ25~6歳だろうか。身長も伸び、俺より背が高い。180cm以上はあるだろう。鬼人族の特徴である角も長くなっている。


 そして何より只ならぬ威圧感を放っている。何もしてないのに、そこにいるだけで恐ろしい。少しでも逆らったら一瞬にして消し炭にされる。そう思えるくらいに空気がピリピリしている。


 うん、これは凄い。アマネを知らない普通の人間なら間違いなく足が竦む。


「でも俺にとってはいつものアマネだからなぁ・・・。髪の色も目の色も別に変ってないし、むしろ竜になると思ってたから・・・俺的にはちょっとがっかり?」

「何故じゃ!?がっかりするのはおかしいじゃろ!!!ないすばでぇになったんじゃぞ!どうじゃ!色々と大きくなったじゃろ!!!」


 アマネがくねくねと体をよじらせ、セクシーポーズを決めようとしてくる。俺の反応がいまいちだったのが相当気に入らなかったらしい。でもなんか色々台無しだからセクシーアピールをするのはやめて欲しい。


「何が大きくなったって?ぺったんこのままだけど?」

 

 色々大きくなったのは事実だ。胸以外は。俺がアマネの胸部を凝視しながらはっきりとそう言うと、アマネからピキィという音が聞こえた気がした。


 あ、青筋浮かべてる。怖い。


 そんなアマネは無言のまま近くにあった柱にそっと右手を添える。


 ――ベキィ!


「なんて言ったのじゃ?もう一度言うがよい。」


 おい、握力で柱がえぐり取られたたんだけど。なんだその桁外れの力は・・・


 あと胡蝶を破壊するのはやめろ。俺が悪かったから。


「アマネの色気に俺はメロメロだと言いました。」

「ふんっ・・・ならいいのじゃ。」

 

(あの姿のアマネにあれだけ暴言吐くとかハルさんはバカなの?)

(逆に凄いんちゃう・・・?)

(まあそうね・・・凄いわね・・・)


 おーい、コハルにヨギリよ。今のはさすがに聞こえたんだけど。馬鹿とか言わないで。褒めるんならちゃんと褒めて。


「それに怖がる要素なんて別にないし。何回も言ってるけど、アマネはアマネ。」


 他人からアマネのこの姿がどう見えるのかなんて知らない。恐怖の象徴として見られてるのかもしれない。だが俺にとってはいつものアマネだ。見た目がちょっと変わっただけ。


「そ、そうか・・・その・・・ありがとなのじゃ・・・」


 アマネが恥ずかしそうに俯く。


「おう。これからも頼りにしていいんだよね?」

「うむ!もちろんなのじゃ!」


 結局その後、みんなはいつもの姿に戻った。力を解放した姿を維持するのも大変なんだとか。そしてユイカ達においては人化の術を使っているほうが落ち着くらしい。まあ人型のほうが屋敷で生活するには絶対便利だしな。

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