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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第二章 新天地編
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種族

 さてマシロの次は誰だ。俺は嬢達を見渡す。するとサラが「私!私!」と手を挙げて飛び跳ねている。ちょっとした発表会のようで楽しい。


 そんなサラの種族は狼人族だった。それも完全な狼の姿だ。二足歩行だったのでワーウルフと言ったほうが正しいのかもしれない。


「私、怖くないですか?」

「うん。可愛いと思う。寧ろこっちの方が好きまであるぞ。」

「えへへ、やった!」


 俺がそう言うと、サラは嬉しそうに飛び跳ねる。

 

 ワーウルフと言えば体が大きく、毛深い。そして獰猛。でもサラの場合、そんな事は全くなく、とても愛嬌があった。人化の時の面影もどこか残っており、可愛いワンコという感じで愛らしかった。


 もちろんモフモフさせてもらったのは言うまでもないだろう。


 サラの次はユリ。彼女は夢魔族だった。可愛らしい悪魔の尻尾と角、そして羽が生えていた。しかし何より目を引いたのは、彼女の格好だった。何ていうかそれはもう凄かった。全裸でいるのとほとんど変わらない際どい服。布面積少なすぎだろとつい突っ込んでしまった。


「でもなんかユリはえっちぃ感じが全然しないよね。そんな格好だし、夢魔はそう言うもんだと思ってたのに、お淑やかであるとすら思えるな・・・ユリだからかな?」

「あ、そう言って貰えるのはちょっと嬉しいです・・・!」


 ユリは落ち着いた清楚系美女という感じの娼婦だったが、夢魔になってもそれは変わらなかった。服装はまあなんか凄いが、雰囲気はいつのもユリのままだ。


 もちろんユリの羽や尻尾もちょっとだけ触らせてもらった。


 結局その後数時間かけ、うちの嬢達の種族を一通り見せてもらった。妖精、ラミア、人魚、ハーピー、スライムなどそれはもう様々な種族がいて、驚きの連続だった。だが怖いとは微塵も思わなかった。みんながみんなそれぞれに美しかったり、凛々しかったり、可愛かったりで、驚きはしたが、怖くない。


 そして当然色々触らせてもらった。うん、最高。


「セーラは天使族なんだね。凄いな・・・」


 個人的にもっとも興味深かったのは天使族だった。純白の翼と頭上に輝く金色の輪。まさに天使だ。


「はい!あ、でも神の使者とかそういう天使ではないんですよ?」

「え、そうなの?」

「ええ、よく勘違いされるんですが、私達は単純に見た目が天使っぽいので天使族と名付けられたというか・・・それだけなんです。」


 そういうパターンもあるのか。勉強になる。


「えっと・・・じゃあその金色の輪っかはなんなの?」

「あ、これですか?これはですね・・・武器です!」


 そう言ってセーラは頭上の輪っかをおもむろに掴み、待合室の端に鎮座されていた壺めがけて投げる。すると壺は綺麗に真っ二つになり、金色の輪っかはヒュルルと風切り音をあげながらセーラの手元に戻ってきた。


 ・・・それチャクラム的な感じのモノなのかよ。


 ある意味一番驚いたわ。


「あはは、やっぱりそう思いますよね・・・。私も同じ気持ちです・・・」

「さすがにね・・・でもその姿は好き。翼触りたい。」

「え、あ・・・し、しょうがないですね・・・ちょっとだけですよ?」


 セーラの翼も触らせてもらった。うん、今日は本当に最高の1日だ。


 ちなみにお披露目に数時間もかかったのは、俺が毎回「触らせて!」「モフモフしたい!」と我儘を言ったからだ。


「ええい!お主はいちいち触らんと満足せんのか!!!」

「だって触りたいじゃん!」

「なら何故わらわの角は触らんのじゃ!」


 さっきから不機嫌そうにしてたのはそれが理由か。


 確かにアマネに角を触らせてと言ったことは一度もない。ヨギリの尻尾のようにチラチラ見る事もほとんどなかった。だがそれは仕方ないだろう。モフモフじゃないし。気持ちよさそうじゃないし。


「硬そうだし、痛そうだし。」

「くぉらあああ!それは思ってても口に出すな!!!」


 巻き舌で怒鳴られた。


「と、とりあえず・・・これで全員だっけ。」

「あ、あの・・・!私が・・・まだ・・・です!」


 ユイカが小さく手を挙げながらおずおずと前に出てくる。


「じゃあユイカ、お願いします。」

「は、はぃ・・・」


 彼女で最後か。果たしてユイカの種族はなんなのだろう。俺はワクワクしながら待つ・・・が、ユイカは一向に人化の術を解こうとしない。ずっともじもじしながら俯いている。


「ユイカ、どうしたの?」

「え・・・あの・・・その・・・私の種族はその・・・特殊で・・・」

「あ、なるほど・・・。ユイカ、大丈夫。さっきも言ったけど、今更だから。ユイカはユイカだし。弟の俺を守ってくれる優しいお姉さんだから。」

「は、はい・・・じゃあ・・・が、がんばります!」


 俺の言葉を聞いてやっと踏ん切りがついたのか、ユイカは「それでは」と前置きし、人化の術を解いてくれた。


「ん?これは・・・?」


 パッと見ただけではユイカが何の種族かわからなかった。


 っていうかこれはなんだ?


「あの・・・私はその・・・混血なのです・・・。母がメデューサ、父が吸血鬼バンパイアで・・・」


 なるほど、髪が蛇なのはメデューサの血を継いでいるからか。そして真っ黒な翼と牙は吸血鬼からだろう。ただユイカの場合、それだけじゃなかった。足はラミアのような鱗がついていたし、腕は獣人のように毛深かった。


 凄いな。何でそんなに色々混ざっているんだ・・・?


「・・・母もラミアとメデューサの混血で・・・父は犬獣人と吸血鬼の混血で・・・あのその・・・ふぇぇ・・・」


 ユイカが泣きそうになりながら必死に説明してくれる。


「なるほどね。でも大丈夫大丈夫、別に怖くないよ。さすがに色んな種族が混じっててびっくりはしたけどね?」


 怖くないのは本当だ。姿形は変われど顔はいつもの可愛いユイカのままだし、性格もいつも通りの恥ずかしがり屋で、「ふぇぇ」と半泣きでオロオロしているくらいだから、怖がる要素がどこにもない。むしろ可愛くて守ってあげたくなる。まあユイカもめちゃくちゃ強いので、守ってもらうのは俺なんだが。


「うぅ・・・はぃ・・・」

「あはは、ユイカはお姉さんってより妹って感じがするよね!」

「・・・!?・・・ち、ちがう!わ、わたし・・・はおねえさん!そして・・・ハルさん・・・は・・・弟!」


 妹扱いされたのが不満なのか、ユイカは目をカッっと見開いて抗議してきた。髪の蛇もシャーと威嚇してくる。でも全然怖くない。やっぱりなんか可愛い。


「えっと、ごめん。ユイカ・・・姉さん?」

「はい!それで・・いい!です!」


 満足してくれたらしい。


「そうだ、髪の蛇って触っても大丈夫?」

「ん・・・べ、別に大丈夫です・・・けど・・・怖くない?」

「全然、むしろちょっと可愛い。」


 俺がそう言うと、ユイカは嬉しそうに微笑む。俺が怖がらなかったから安心したのだろう。そして「どうぞ」と触りやすいよう頭をこちらに傾けてくれた。


「おぉ・・・」


 何か不思議な感じだ。蛇なんだけど、髪の毛・・・説明が難しい。


「でもユイカ最高!」


 ついでに吸血鬼の翼、ラミアの鱗、犬獣人の手もたっぷり堪能させてもらった。いい。実に素晴らしい。一粒で何度も美味しい感じが本当に素晴らしい。


「えへへ・・・人で・・・怖がらなかったの・・・ハルさんが・・・はじめて!」

「まあハルじゃしのぉ・・・」

「ハルさんだしねぇ・・・」

「ハルやしなぁ・・・」


 ユイカは嬉しそうにしているが、アマネ達の俺に対する評価がムカつく。何だその溜息は。俺が変人みたいに言うな。普通だ普通。


「普通なわけあるか!・・・それよりハル。ユイカには礼を言っておくのじゃぞ?お主が捕まってた時、常に監視の『目』を付けてくれてたんじゃからの。」

「え?そうなの?『目』ってなに?」

「えっと・・・ハルさん、これ・・・です。」


 口で説明するより見せた方が早いと、ユイカは髪の蛇を1つ切り離す。するとそれは極小の蛇となり、ハルの体を這い上がって手に乗ってきた。


「可愛い。ちっちゃい蛇?」

「はい・・・その蛇が視たものは・・・私も視れる・・・です。」

「なるほど・・・それで俺が無事かずっと視ててくれたの?」

「はい・・・!ずっと・・・視てました!メデューサと吸血鬼の特性・・・です!」


 ユイカの説明によると、髪の蛇はメデューサだが、切り離された蛇を使役し、視界を共有するのは吸血鬼の特性なのだとか。まあ種族特性とか正直俺にはよくわからない。だがこの能力は凄い、それはわかる。っていうか欲しい。めちゃくちゃ欲しい。


「それがあれば覗きし放題じゃないか!!!」


 ――バキィ!ボコォ!ベシッ!


「また!お主はそういう!破廉恥な!」

「ハルさん!何を言ってるのかしら!変態なのね!!!」

「せや!何を覗く気なんか言うてみい!ハル!」


 アマネ達に蹴られ、殴られ、床に転がされた。そして踏まれまくった。


 理不尽な暴力は止めて欲しい。


 男の子なんだからいいじゃないか。夢見たって。


「っていうか痛い!大丈夫!大丈夫だから!アマネやヨギリやコハルの裸なんて覗かないから!大丈夫だから!」

「な、なんじゃと!!!」

「私の裸は覗く価値もないっていうのね!?このっ!このっ!」

「ハル!あんたは!もう許さんで!」


 火に油を注いでしまった。


 でも違うから、そういう意味で言ったんじゃないから・・・といまさら弁解しても許して貰えるわけがなく、俺は暫くアマネ達に物理的にお説教されました。


「ユイカ・・・監視ありがと・・・ね・・・?」

「は、はい・・・それより・・・大丈夫・・・です?」

「なんとか・・・」


 ユイカは心配してくれたのか、ラミアの尻尾を使って俺に巻き付いてくる。相当加減してくれているのか、締め付けられている感じは全くしない。鱗がひんやりしていて心地いい。そして犬獣人の特徴であるモフモフの手でそっと撫でてくれた。肉球が気持ちいいです。


「アマネ姐さん達は・・・酷い・・・ですね?」

「うん、酷い。酷過ぎる。あれは酷い暴力女だ。」

「可哀そう・・・です!よしよし・・・です・・・!」


 まあ当然そんなユイカとのやり取りをアマネ達が黙って聞いているわけもなく、俺は再び3人に取り囲まれ、色々と「わからさせられた」。


 痛い。酷い。


 兎にも角にもこれでユイカ達の発表会は一通り終わった。胡蝶の目的やアマネ達の目的が何なのかはまだ教えてくれないからわからない。彼女達の秘密はまだまだありそうだ。でもとりあえず1つ知れたのは嬉しい。


「その・・・実はな・・・もう少しあるんじゃが、いいか?」


 まだおかわりがあるらしい。しかし変わり身早いな。さっきまで俺を殴ってたくせに、急にしおらしくなりやがって・・・


「もちろん。教えてくれ。」


 だがこんなに彼女達の事を教えて貰えたのは初めてだ。もっと色々知りたい。アマネが話してくれるなら俺は喜んで何でも聞く。

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