傭兵
アマネ達を落ち着かせ、ヒスイを慰め、俺達は一度胡蝶の待合室へと戻ってきた。もうめちゃくちゃ大変だった。サクヤ達は遠巻きで見てるだけで全然助けてくれないし。俺がアマネ達を止めなければ本当にヒスイはステーキになってたと思う。
でも一触即発の状況はまだ続いている。何故ならヒスイが俺の側から離れようとしないからだ。彼女の言い分としては「ハルから離れたらステーキになっちゃう!」って事らしい。
「なんでアマネ達はヒスイをそんな目の敵にしてるのさ。」
「お主こそなんでそのトカゲを庇うのじゃ!!!」
ヒスイをもの凄い目で睨むアマネ。うん、確かに俺がいなければ、この竜は確実に今晩の食卓に並ぶことになりそうだ。
「だって竜族だし!!!」
「なんでハルさんは竜族がいいのよ!そんなのただのトカゲじゃない!そもそも何で会いたかったのよ!」
「だってかっこいいじゃん!!!」
「・・・え?ね、ねえ、ハル?私に会いたかった理由ってほんとにそれなの?」
ヒスイが嘘でしょと言う目で見つめてくる。
いや、本当だけど。だって竜ってかっこいいし。空飛べるし。強いし。男の子であれば竜に憧れるのは普通だと思うんだが、この世界ではそうでもないのだろうか。
「ハルさんの気持ちはわかったわ。でもそのトカゲは止めなさい。お姉さんが別のトカゲを見つけてきてあげるから、それはポイしなさい。」
子供からおもちゃを取り上げる母親のようにヒスイを渡せと迫ってくるコハル。
「悪い事は言わないわ。そのトカゲは反抗的過ぎる。ハルさんのペットには相応しくないわ。だからこっちに渡しなさい。すぐに美味しいステーキにしてあげるから。」
「ひぃいいいいい!?ハル!助けて!!!」
だからヒスイを怖がらせるのはやめろ。
「大丈夫だから。ペットにする気はないから。友達になりたいだけだから。」
俺はよしよしとヒスイを慰める。
しかしこのドラゴン、やっぱりポンコツらしい。まあそれもこれも元凶は全部アマネ達なんだけど。さっきヒスイに「アマネ達はすぐに私をボコボコにしようとするの」って言われた。どうやらアマネはこの浮遊島を見つけてから、ヨギリやコハルを連れて暇つぶしにちょくちょく竜族をボコりに来てるらしい。そして他の竜では全くアマネ達の相手にならないらしく、本当にステーキにされかねないので、毎回ヒスイが仕方なく戦ってたんだと泣きながら説明された。可哀そうすぎる。
「っていうかコハル!ヒスイを苛めるな!こいつはもう俺の友達だ!!!」
「ハル、ありがとおおおお!!!」
アマネ達から守ってやったせいか、なんかめちゃくちゃ懐かれた。今では本当に俺のペットのようになっている。竜族ってプライドないのかな・・・
「そこのトカゲ!!!なにしてんねん!!!しばきまわすで!!!」
「落ち着け。なんで俺がヒスイと友達になるのは駄目なんだよ。」
「だ、だってあれやん!ハルのこ、こ、ここ恋人になろうとしたやん!そのトカゲが調子にのってるからしばかなあかんねん!!!ハルそこどき!」
うん、俺がどいたらお前絶対こいつ殺すよね。まあ俺がいようがいまいが、ヨギリが本気でヒスイを殺そうと思えばいつでも殺せるはず。あくまで俺がお願いしてるから殺さないだけだろう。
しかし何故それほどまでにヒスイを敵視するのか。
「ねえ、俺に友達が出来たんだから喜んでくれてもいいんじゃないの?」
「よ、よろこんでるわよ!でもそのトカゲはだめよ!」
「恋人になろうとしたから?でも恋人くらい作った方がいいって言ったのコハルじゃん。アマネやヨギリだって友達作れってずっといってたし。」
「そ、それはそうだけど違うのよ!わかるでしょ!!!」
まったくわからん。ちゃんと説明してくれれば納得するかもしれないのに、アマネ達はさっきからずっとこの調子だ。「とにかくダメ!」としか言わない。
ヒスイに何か問題でもあるのだろうか。確かに少しポンコツだとは思うが、とてもいい子だと俺は思う。だって俺の事を殺そうとしなかったし。頼んだら竜の姿も見せてくれた。友達にもなってくれた。心優しい竜族だと思うんだが。
「ハル!騙されてはダメじゃ!そいつはお主を殺そうとしてたんじゃぞ!」
「せやで!最初は食べようとしてたんやで!」
ヒスイは危険な竜だから今すぐ始末すべきなのだとアマネとヨギリが説明してくる。もしかしてアマネ達がいたから言う事を聞いていただけで、ヒスイは本当は俺の事を殺そうとしてたのだろうか。でもそれなら辻褄が合う。アマネ達がここまで必死になる理由もわかる。
「そうなの?ヒスイ?」
「う、嘘よ!私はハルの事殺そうとなんて微塵も思ってないから!竜をかっこいいって言ってくれる優しい人族だなって思ってるもの!!!」
「このトカゲ!!!口から出まかせ言うてからに!!!」
「嘘じゃ!ハル!わらわの言ってる事が真実なのじゃ!」
「ハルさん!私を信じてくれるわよね!」
うーん、どっちが本当の事を言ってるのか俺では判断つかない。まあアマネ達が俺の事を心配して言ってくれてるのはわかる。彼女達は無意味な嘘はつかないからな。
「信じるなら当然アマネ達なんだけど・・・」
「やった!さすがハルなのじゃ!」
「ハル!信じてたで!」
「あとでご褒美上げるわ!」
「ステーキはいやよ!!!いやあああああ!!!」
アマネ達は勝ち誇った顔を浮かべ、ヒスイは半泣きだ。
「でもヒスイを苛めるのはダメ。」
「ハル!!!私、信じてたわ!!!」
嘘つけ。お前今絶望して悲鳴上げてただろうが。
しかしどう収集をつけたらいいものか。アマネ達が本当に嫌がるなら、ヒスイと友達になるのは諦めようとは思う。俺にとっては知り合ったばかりのヒスイより、アマネ達との関係の方が大事だ。さすがに殺されるのは可哀そうだから、そこは庇うが。
そんな事を考えていたら、サクヤがすいませんと手を挙げる。
「折衷案があります。」
さすがサクヤ。頼りになる。むしろアマネ達よりずっと頼りになる気がする。アマネ達が言い争っていても、臆する事なく会話に入っていくし、もうサクヤが胡蝶の支配人でいいのではないだろうか。
「ヒスイさんにはハルさんの護衛をお願いしてはどうでしょう。」
「どういうこと?」
「ハルさんは胡蝶の支配人としてこれから色々動く事になると思います。私達が側にいられればいいですが、常にというのは難しいでしょう。娼婦としての仕事がありますしね。ですので護衛としてヒスイさんを雇うのはどうです?」
「え?胡蝶?娼婦?あなたは一体なんの話をしてるの?」
わけがわからないとヒスイが首を傾げていると、「実は・・・」とサクヤが説明を始めた。胡蝶とは何か、自分達に何があったのか、そしてこれから何をするつもりなのか。ヒスイにそんな事を話してもいいのかと一瞬思ったが、サクヤが大丈夫だと判断したのなら俺が口出す事ではない。それに俺も知らない秘密、胡蝶とアマネ達の目的、は伏せてるみたいだし、いざとなったらアマネ達もサクヤを止めるだろう。
しかしサクヤの案は一理ある。アマネ達は俺の身を案じてくれ、いつも影から護衛してくれていた。いくらアマネ達が気にしてないと言っても、それは間違いなく彼女達の負担になっていたはずだ。
まあ百歩譲ってそれはいいとしても、胡蝶が営業している最中の護衛はこれからは必要だ。今まではあくまで従業員として働いていたが、これからは支配人になるのだから。営業中も色々と想定外のトラブルが起こるだろう。その際アマネ達に護衛を頼むのは難しい。彼女達は娼婦としての仕事がある。
それに今まで胡蝶は傭兵の1人も雇っていなかった。アマネ達がその役割をしてくれていたからだ。だがいつまでもアマネ達に頼るのも正直どうかと思っていたし、専属で傭兵を雇えるならそのほうが何かといいだろう。
「ヒスイがいいなら俺は賛成かな。アマネ達の負担が減るし。」
「負担じゃないのじゃ!ハルはわらわが守る!!!」
「そうよ!私がいれば大丈夫よ!」
「せやせや!うちもおるしハルには指一本触れさせん!」
アマネ達は反対らしい。
「何言ってるんですか。説得力ありませんよ。アマネ姐さんらも仕事があるわけですしずっと一緒にいられるわけじゃないでしょう?前だって私達の不注意で色々あったじゃないですか。もう忘れたんですか?」
あったな。お腹が空いて1人で街に出たら袋叩きにあった。あの時はヨギリ達が駆けつけてくれて事なきを得たが。
「ぐっ・・・そ、それはそうじゃが・・・!」
「確かにハルさんの護衛をするのは私達の密かな楽しみでした。捨て犬のようにトボトボ帰るハルさんは見てて可愛かったです。」
ちょっと!なに言ってくれてんの!?それ今言う必要ある!?ないよね!!!恥ずかしいからやめて!!!
「せやな。あれは可愛かったわ。」
「そうね。可愛かったわね。」
もうやめて!恥ずかしくて死んじゃうからやめて!
「あれがなくなるのは寂しいです。だからその分ハルさんで・・・コホン。ハルさんと遊ぶ時間を別に作る事にしましょう。それにハルさんの安全が第一です。」
俺で遊ぶと言いかけたな、このやろう。しかも絶対わざとだ。わざと言い間違えやがった。こっちみてニヤニヤ笑うな。この性悪狐。
「ハルさん、ダメですか?」
「・・・まあいいけど。俺もアマネ達とは遊びたいし。」
文句の1つも言いたかったが、サクヤが急に真面目な顔で聞いてきたので、俺は適当に相槌を打つ。
「そう言う事です。どうですか?姐さん方?」
「まあ・・・それならええけど・・・」
「そうね、それなら・・・」
「仕方ないの・・・」
凄い。あのアマネ達をあっさり説き伏せやがった。
「もうサクヤが支配人でいいんじゃない?」
俺より明らかに適任な気がする。
「あら、ありがとうございます。ふふ、でも私じゃダメなんです。ハルさんじゃないと胡蝶の支配人は務まらないんですよ?」
「そんなことないだろ。」
「そんなことあるんです。」
「・・・なんで?」
「それは・・・内緒です。」
天使のような微笑みを浮かべ、可愛らしく首を傾げるサクヤ。まあ俺にしたら天使じゃなく悪魔の微笑みだが。あの笑顔で言われたら俺はこれ以上何も聞けない。そしてサクヤもそれをわかっていてあの笑顔を俺に向けている。
「参りました。」
「はい、よろしい。」




