休暇
「サクヤ!おかえり!」
声がした方を見ると、丁度胡蝶の玄関からサクヤ達が出て来たところだった。ノテーファル王国での後処理を終え、戻ってきたらしい。うん、確かに3時間くらいだったな。
「ご苦労じゃったの。首尾よくいったか?」
「はい、特に問題なく終わりました。」
「うむ、それはよかったのじゃ。」
サクヤが簡単にアマネに報告する。
そう言えばサクヤ達はこの別荘地に来た事があるのだろうか。少し気になり、俺は彼女達を見渡す。
うん、まったく景色に感動する気配がない。どこか懐かしい目をしている子達もいる。これは多分あるな。
「でも胡蝶の中にいないと思ったら何故外に?ハルさんを案内してたんですか?」
「そうじゃの。ハルはここに来るの初めてじゃしの。」
「なるほど。絶景ですもんね。ところでその地図は?」
「うむ!ハルに『常識』というものを教えておったのじゃ!」
「ああ・・・ハルさん常識ないですもんね・・・」
おい、待て。サクヤもその認識なのかよ。
「それ酷くね?なあユイカ、そう思うよね?」
いつの間にか俺の隣にいたユイカに聞いてみた。
「・・・?」
やめて。「え?こいつ何言ってんの」って目で見ないで。大人しいユイカにその目を向けられるのは心に来るんだから・・・
「ハルさん、諦める。みんなそう思ってるんですよ。」
「ですです。ハルさん常識ないですよー。」
マシロやサラまでそんな事を言ってくる。
うん、まあ分かってる。俺がこの世界の常識をそもそも教えて貰おうとしなかったのが全て悪い。ほんとに基本的な事しかアマネから聞かなかったし。でもしょうがないじゃん。仕事に必要ないんだもの。
「よーしよし、おねーさんが色々教えてあげますからねー」
ぐずる子供あやすようにサクヤに頭を優しく撫でられた。
なんか悔しい。嬉しいけど。
「サクヤ!こ、子供扱いするな!」
「はいはい、ハルさんは大人ですもんね。」
「もういいから!そうだ!アマネ!こ、この浮遊島列島ってどの辺にあるんだよ!」
恥かしくなってきたので俺は慌てて話題を逸らす。顔には出てないとは思うが、大丈夫だろうか。少し頬が熱い。
「くく・・・」
「笑ってないで教えてってば!」
「やれやれ仕方ないのう。うーん、まあハルならいいじゃろ。ここじゃ。」
そう言ってアナトリカ大陸の中心から少し北を指差すアマネ。
「え?そこって人が立ち入れないような場所なんじゃ?」
「うむ。それもあってここを知る者はそうはおらんのじゃ。」
なるほど・・・人が立ち入る事が出来ないような場所の遥か上空にここは存在しているのか。うん、それは無理だ。しかもその上空は竜族の縄張り。
ならアマネはどうやって・・・
いやもうそれを考えるのは止めよう。どうせ飛行魔法とかわけのわからない魔法を使い、竜族を蹂躙し、辿り着いたに違いない。
アマネ達がやる事に対しては考えるだけ無駄な気がしてきた。
「ハルよ、誰にも言うんじゃないぞ?」
「でも言ったところで辿り着けないだろ?」
「そうなんじゃが、竜族に迷惑が掛かるかもしれん。まあそれで竜族が怒ってもわらわらの敵ではないが・・・面倒な争い事は避けるに越したことはないのじゃ。」
「なるほど!それは駄目だな!」
竜族に迷惑をかけるのは駄目だ。仲良くなりたいしな。普通なら絶対に無理なんだろうけど、アマネ達がいてくれたらイケる気がする。
「で!竜族どこ!アマネ!どこ!」
「こら!落ち着かんか!だから鬱陶しいと言っておるじゃろ!」
テンション上がりまくりの俺をサクヤ達が呆れた目で見つめてくる。
(ヨギリ姐さん、アレなんなんですか)
(なんかハルは竜族に会いたいらしいねん)
(アホみたいにはしゃいでますね・・・)
(せやな・・・でもまあ可愛いやん?)
(ええ、それは同意です)
何かヨギリやサクヤ達がヒソヒソ話してるが関係ない。俺は絶対竜族と友達になってやる。そう、絶対だ。
「アマネー!竜はー!」
「ええい、黙れ!今日はもう寝るのじゃ!」
アマネは俺の首根っこを掴むと、そのまま胡蝶にある俺の部屋まで引きずっていき、ベッドに無理矢理寝かしつけられた。
「寝ろ!」
「えー・・・」
「寝ろ!と言っておるのじゃ!」
「はーい・・・」
まあ今日は色々あった。処刑されそうになり、アマネ達に助けられ、何があったかを聞いて、転移し、絶景を見てで騒いだ。目まぐるしい一日だったし、まだ夕方だが確かにもう寝てもいい気がする。
きっと俺が精神的にも体力的にも疲れていると心配してこういう行動に出たのだろう。なんだかんだでアマネは優しいからな。
そしてそれからの一週間、俺はアマネ達と目一杯この浮遊島を満喫した。
アマネと湖畔を散歩したり、ヨギリと草原でお昼寝したり、コハルとたわいもない話に花を咲かせたり、サクヤと一緒に料理をしてみたり、ユイカとチェスのようなゲームをしたり、普段あまり話さない嬢と交流を深めてみたり・・・
この1年まったく遊ばなかったからか、その分を取り返すかのように羽を伸ばした。アマネ達も嫌な顔一つせず、我儘を言う俺に付き合ってくれた。
正直めっちゃ楽しかった。
「ハルさんは幸せものね?私達のような最高級の娼婦を独り占め出来て。」
「何言ってんだ、コハル。今は娼婦じゃないだろ。」
「え・・・あ、うん、そ、そうね。」
揶揄うような笑いを浮かべていたコハルだが、俺の言葉を聞くと、どこか恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう。
「でもこんなに遊んでていいのかな。」
「ええんちゃう?ハルはずっと頑張ってたんやし。」
「うむ。明後日からは候補地を下見にいくんじゃ、気にするでない。」
まあ確かに明後日からは、アマネ達と新天地の候補として挙げられている5ヶ国巡りがあるので、忙しくなりそうだ。
そしてその後はどの国に胡蝶を再建するか議論し、国から営業許可を取り、花街に溶け込めるように走り回らなければならない。他にも周囲の娼館の調査、それに伴う値段設定、上客になるだろう権力者とのパイプ作りなど、やらなけらばならない事は山積みだ。勿論全部俺1人でやるわけではないが、支配人になる以上、俺が中心となって動く事になりそうだ。
「なんか難しい顔をしておるの。そんな考えんでよい。休暇を楽しみつつのんびりやればよいのじゃ。」
「ああ、うん。ありがと。」
「そ、それはそうとじゃな・・・ハル・・・」
待合室のソファーに腰掛けたアマネがどこか気まずそうな表情で呟く。
「ん?」
「いや・・・そのな?今日は少し・・・わらわ達の秘密を話しておこうかと思っての・・・ダメか?」
そう言えば、ノーテファル王国を発つ際、少しくらいは話すと言ってくれていた。
なるほど、だから今日はずっと胡蝶の待合室に全員がいるのか。俺が遊びに誘おうとしても、外に出ようとしても、止められたのを不思議に思っていたが、この為か。
「ダ、ダメじゃない。聞かせてくれ。」
いよいよアマネ達の事が聞けるかと思うと、どこか緊張してしまう。ちょっと声が上ずってしまった。
「うむ・・・それでわらわ達なんじゃが・・・」




