別荘
「うおおおおお!なにここ!凄い!アマネ!アマネ!あれ凄い!」
「ええい!落ち着かんか!鬱陶しい!」
纏わりつく俺を振り払うアマネ。
酷い。
だが俺が興奮するのも仕方ないだろう。アマネに連れてこられた「別荘」はあまりに美しく、この世の物とは思えない場所だったのだから。
ここは浮遊島列島。何十もの島が空に浮かぶまるでファンタジーの世界だ。そして空に浮かんでいる数々の島には自然が手つかずのまま残っている。色とりどりの花が咲き乱れる草原、荘厳な森、透き通った湖。島から島へ流れる不思議な川や滝もある。全ての島が見えない何かで繋がっているようでまさに絶景だ。
「うわー、地上が全然見えないんだけど・・・!!!」
「ここは雲の上にあるのよ。でもはしゃぐハルさん・・・可愛いわね・・・」
どうやらこの浮遊島は相当な高度にあるらしい。しかしそんな上空にあるのに息苦しさは一切感じない。何故だろうか。まあアマネ達に酸素が・・・とか聞いてもわからないだろうし、きっと俺が元いた世界とは常識が色々と違うのだろう。
そう思う事にした。深く考えても仕方ない。
「これどれくらいの島があるの?」
「んー・・・正確にはわからんなぁ・・・少なくとも数百はあるで。」
そんなにか。
ちなみにヨギリやコハルはここに来るのは初めてではないようで、平然としている。テンションが上がってはしゃぎまくっているのは俺だけだ。
いや、でもこれは仕方ない。
「本当に凄い・・・!」
アマネの言っていた別荘とやらがこんな場所だとはさすがに思わなかった。てっきり俺は観光地や人里外れた農村を想像してたのに、まさかの空飛ぶ無人島。というかそもそもこれのどこが別荘だ。街もなければ村もない。建物の一つもない。本当にただの美しい島。まあ胡蝶の屋敷ごと転移したから住む場所は一応あるが。
「くく、お主がそこまで気に入るとは思わんだぞ。」
うん、だが確かに最高に気に入った。
ちなみにアマネ曰く、俺達がいるこの島はアマネの所有物らしい。というよりアマネが勝手にそう宣言しただけ。そもそもこの地に辿り着ける者は滅多にいないらしく、どの島も無人。冒険者時代に偶然この浮遊島列島を見つけ、アマネが気に入って勝手に別荘にしたのだとか。
「他のもアマネのにすればいいのに。」
「そんなにあっても仕方なかろう。それに一応許可はいるのじゃぞ?」
「え、そうなの?」
あれ?勝手に宣言したのでは?
「領土という意味では勝手に宣言した。ただこの辺りは竜族の縄張りでの。縄張りに入るという意味での許可は必要なのじゃ。」
「――ドラゴン!?」
「う、うむ、いわゆるドラゴンじゃ。」
「どこ!?会いたい!?どこ!!」
「ええい!落ち着け!くっつくな!鬱陶しい!そのうち会えるじゃろ!だ、大体そこに食いつくのか!?」
そりゃそうだろう。竜族といったら何と言ってもカッコイイの一言。男であれば一度は憧れる存在だ。
「強いのか!?」
「まあ人にしてみれば絶望的な存在じゃろ。」
「おお!凄い!カッコいい!!」
「あほか!絶望的って言っておるじゃろうが!!!」
「でもアマネ達がいれば何とかなるんだろ?アマネ凄いもんな!」
「う、うむ・・・まあ大丈夫じゃが・・・ハルはわらわが守るしの・・・」
顔を赤面させて俯くアマネ。
「顔が赤いぞ?風邪か?」
――ゲシッ!
「・・・!このアホ!」
「痛っ・・・いたいから!アマネ!いたい!」
アマネに足蹴にされた。何故だ。
とりあえずここは竜族とやらの縄張りらしい。どこかの国の領地とかではなく、あくまで竜族の住処。昔アマネがここで竜とやり合い、和解した際に島を一つ割譲して貰ったのだとか。
「じゃあ滞在を許されてる俺達は特別ってことか?」
「――はぁはぁ・・・う、うむ、そうじゃの。」
普通の人間であれば、ここに到達する事すら不可能。大抵は辿り着くまでに竜族に殺される。それは獣人や他種族でも同じ。竜族に敵う者は基本的にいないらしい。
じゃあそれとやり合って和解したアマネって一体・・・
うん、考えないようにしよう。
「竜族もわらわが転移したのにはもう気付いておるぞ。」
「そうなのか・・・ちなみにヨギリやコハルは竜族に勝てるのか?」
「ハルさん、あんなのはただの大きな空飛ぶトカゲよ?」
「せやね、胡蝶の子らなら余裕ちゃう?」
おい、竜族に敵う者は基本的にいないのではなかったのか。
うん・・・やっぱこいつら凄い。っていうか怖い。
「とにかく俺はここでのんびりすればいいんだな?」
「そうじゃの、特に危険な魔獣もおらんし、好きにしてよいのじゃ。」
とはいっても島は結構広い。迂闊に出歩いたら迷子になってしまいそうだ。アマネが転移させた胡蝶の洋館は、島の中央付近にあった湖の畔に設置してある。それを見失わないよう散策する程度にするのがよさそうだ。
「いいね・・・本当にのんびり出来そう。最高だな・・・!」
「ふふ、ハルさんがここまで気に入るなんて思わなかったわ。まあでも確かに綺麗よね。私も好きよ、ここ。」
「ああ、本当に綺麗だ。ずっと見てられる。」
ここ1年、ずっと花街での生活を送ってきたから、自然に触れる機会なんて早々なかった。だからこそ余計にそう思ってしまうのかもしれない。
俺はそんな事を考えながらボーっと美しい浮遊島を眺める。
「ちょっと、ハルさん?こういう時は『コハルの方が綺麗だよ』って言うのがマナーよ?そんな事もわからないの?」
コハルが不機嫌そうに睨んでくる。
こいつは一体何を言ってるんだ。
「いやどう考えてもコハルよりこっちの景色のほうが綺・・・」
――ガッ!バシッ!ゲシッ!
「ちょっ・・・!いたいいたいいたいたい!お前今本気で・・・!」
「ふんっ!ふんっ!いい度胸してるわね!ふんっ!」
コハルに殴られ、蹴られ、さらに蹴られた。っていうか痛い。本気で痛い。今までで一番痛い。この脳筋エルフ、何すんだ。
「コハルさん・・・マジで痛いです・・・」
後美人が「ふんっ」とか言って蹴る姿はあまり見たくないです。
「ふぅ・・・こほんっ。ふふ、ハルさんがここまで気に入るなんて思わなかったわ。まあでも確かに綺麗よね。私も好きよ、ここ。」
まさかこいつ・・・やり直す気か。
「えーっと・・・」
俺が口籠ると何かめっちゃ睨んできた。
「ふふ、ハルさんがここまで気に入るなんて思わなかったわ。まあでも確かに綺麗よね。私も好きよ、ここ。」
「ソ、ソンナコトナイヨ、コハルノホウガキレイダヨ」
「もう、ハルさんたら!ふふ、お世辞でも嬉しいわ。」
「ソウデスネ」
何だこの茶番。でも逆らえない。コハル姉さん超怖い。
「ほんまに綺麗やね!なぁ、ハル?」
「そうじゃの!綺麗じゃな!」
おい、お前らもか。




