出発
「それはまだ内緒じゃ!」
偉そうに踏ん反り返るアマネ。
「えー・・・まだ内緒?」
どうやら教えてくれないらしい。この流れなら話してくれるかもと思ったが、甘かったようだ。
「心配するな。もうすぐ教えてやる。もうちょっとだけ待ってくれ。」
おお、まじか。
「うん、わかった。それでいいよ。」
俺がそう言うと、どこかホッとした表情を浮かべている。もしかしたら俺が根掘り葉掘り聞くとでも思ってたのかもしれない。
「安心した?」
「う、うむ・・・すまんの・・・」
「気にするな。今更アマネ達が娼婦している理由とか聞いたところで何も変わらない。俺は今まで通り手伝うだけだよ。」
「そうかそうか!・・・そうか!」
嬉しそうにうんうんと頷くアマネ。
だがすぐに頬を染め、恥ずかしそうにそっぽを向いて呟く。
「じゃが・・・あれじゃ・・・休暇中は暇じゃしな・・・少しくらいは話してやるつもりじゃ・・・」
「ほんとに?やった。ちょっと楽しみ。」
「た、楽しみにするような話じゃないのじゃ!過度な期待はするな!よし・・・!食べ終わったな!なら今すぐ国を出るのじゃ!」
アマネ達の事を知れるという意味で楽しみだったのに、どうやら別の意味で捉えられたようだ。話題を逸らすかのように、アマネが早くしろと急かしてくる。
しかし早くしろと言われても、何をすればいいのやら。
「えっと、荷物を集めればいいのか?まあ私物なんてほとんどないけどさ。」
「ん?そんな必要はないぞ?建物ごと転移させるからハルは適当に座ってればよいのじゃ。」
「はい?じゃあ何を早くしろって?」
「ほれ・・・あれじゃ、サクヤ達とはしばしの別れになるから挨拶するとよい。」
照れ臭そうに顔を逸らすアマネ。なんだ、そういうことか。なんともアマネらしい気遣いだ。
「でもサクヤ達と会えないのは確かに寂しいな。サクヤ、早く終わせて合流してくれ。待ってる。」
「あらあら、ふふ、嬉しい事を言ってくれますね。」
サクヤが嬉しそうに笑う。
「ハルさんは私達に会えないのがそんなに寂しいですか?」
「そりゃ当然だろ。だって数か月は会えないんだろ?」
毎日顔を合わせていたのに、急にもう会えないとか言われたら誰だって寂しい。それにサクヤ達はこの世界で唯一の知り合いだ。そして俺の事を大事な家族として扱ってくれる。
「・・・え?はい?」
「え?」
「ハルさんは何を言ってるんです?なんで何か月もハルさんに会えないんですか?可愛い弟にそんなに会えないなんて寂しくて死んじゃいますよ?」
「・・・え?いやいや、しばしってそのくらいの事を言うんじゃないのか?」
「いやいや。後処理にそんなにかかりませんよ。3時間くらいです。」
――え?
「はぁ!?なんだよそれは!アマネが今生の別れみたいな言い方をするから・・・!3時間なら別に挨拶するまでもないだろうが!!!・・・おい!アマネ!!!」
「くく・・・ハルはおもしろいのじゃ!さっきの寂しそうな顔は傑作じゃ!」
「ふふ、本当にハルさんは可愛いわね。」
「アマネがええ仕事したわ!」
こいつら・・・何してくれてんだ。ちくしょう。
「うっさい!おいアマネ!もう早く転移させろ!サクヤ達もさっさと行け!」
「恥ずかしさを誤魔化そうと必死ですね?」
「いちいち言わんでいい!それより3時間で終わる後処理ってなんなんだよ!」
「ふふ・・・内緒です。ではいってきますね。ハルさん遊びはまた後で。」
サクヤがにやにや笑いながら、スッと姿を消した。
くそ、完全に遊ばれた。
しかし急に姿が消えたのは転移魔法か?
「ハルさん・・・!また・・・あとで・・・です!」
「じゃあまたあとでね、いってきますー!」
ユイカやサラ達も一言ずつ言い残し、姿を消す。
おい、それ全員使えるのかよ。
「今の転移だよな?」
「ん?あやつらも確かに転移魔法は使えるが、あれはただの移動術じゃ。お主の目に追えんだけじゃな。」
なんだそれ。まあどちらにせよ凄いんだが。
「そうなのか。っていうかさっきから何時にも増して苛めが過ぎるんじゃないか・・・?お前らだけじゃなくサクヤ達までどうしたんだよ。」
アマネ、ヨギリ、コハルを筆頭に、サクヤ達は最近毎日のように自分を苛めてくる。胡蝶に住み始めてからは特にそれが顕著だ。まあ本人達に言わせれば「弟を可愛がってるだけ」らしいが。
そして今日はさらにそれが酷かった。
「それだけハルの心配してたってことや。なんだかんだいうて寂しかったんやろ。」
「そうね、数日ハルさんで遊べなかったし、溜まってたんじゃないかしら?」
ヨギリとコハルはそう言うが、俺からしてみれば酷いありがた迷惑だ。年上のお姉さんに遊ばれるのはなんか・・・こう・・・悔しい。
「でもハルはうちらに苛められるん好きやろ?」
「なんでだよ!!!」
誤解にもほどがある。
まあ・・・その・・・嫌ではないけど。
「あらあら、嫌じゃないけどって顔してるわね。ふふ、ハルさんはマゾなのね?」
「黙れ。さらっと人の心を読むな。」
「失礼ね、読んでないわよ。ハルさんは分かりやすいよの。すぐ顔に出るもの。」
え、まじか。全然自覚なかった。
「とにかくそれはもういい!っていうか2人はいかないのか!後処理とやらに!」
「勢いで誤魔化そうとしてるんバレバレやで?ほんまハルは下手やなぁ。」
「もういいから!話を!」
「ふふ、しゃーないなぁ。まあ、うちらが残ってるってのはそういうことやで。うちとコハルも先に転移する組やで?」
とりあえず別荘への先行組は俺といつもの3人と言う事らしい。まあ後処理にアマネ達の力は必要ないと言う事なのだろう。彼女達は俺を救い出すのが仕事。後処理はサクヤ達の役目。そう言う分担だったのかもしれない。
「ハル!わらわを無視するな!」
「うわ、びっくりした・・・いきなり隣で大声出すなよ。」
「お主が無視するからじゃ!」
「してないって・・・」
「まったく・・・そろそろ行くぞ?よいのか?」
アマネがさっきからしつこいくらいに確認してくる。さくっと転移するのかと思ったのに、何故そんなに聞いてくるのだろうか。
「なんでそんなに聞くんだ?まだ何かあるのか?」
「あー・・・ほれ、その、あれじゃ・・・この国にはもう戻れんのじゃぞ?」
なるほど。言われてみれば確かに。
だが正直それに関しては名残惜しいという感情は全くない。
「この国に思い入れなんて一切ないしな。アマネ達と出会えたことには感謝するが、それ以外で俺がこの国にいるメリットを感じた事はない。むしろとんだ濡れ衣きせられて酷い目に遭ったんだ。どうでもいい。」
「そ、そうかもしれんが・・・」
「国や街の名前すら憶えてないくらいだぞ?」
「あほか!そのくらいは覚えておけ!一般常識じゃ!逆に心配になるぞ!」
「大体アマネはさっきから気にし過ぎだ。」
アマネのせいで捕まった。アマネのせいで拷問された。アマネのせいでこの国から出る事になった。きっと彼女は俺が罪を着せられた事に誰よりも責任を感じているのだろう。
「アマネのせいじゃない。お前は何も悪くない。」
「ち、違うぞ・・・!全部わらわらが・・・!」
「アマネが愚王の事を教えてくれてたとしても、アマネが娼館の目的を教えてくれてたとしても、これは起こってた。だから誰も悪くない。」
そう言う事にしておいて欲しい。アマネは俺に気にするなと言ってくれた。だからお互い様だ。全員無事なのだからそれでいいじゃないか。
「う、うむ・・・ハル・・・ありがとなのじゃ・・・」
「いいって、それよりパパっと頼む。」
「う、うむ!ではいくぞ!」
そういってアマネは両手を前に突き出す。
すると先程ヨギリが転移魔法を発動させた時に見た金色の魔方陣が展開された。いや、あの時より遥かに複雑で遥かに大きい。
「おー・・・凄いな。」
「ノーテファル王国はフィオーラにもう言い残す事はないな?」
「え?そんな名前だっけ?」
「ほんとに覚えておらんかったのか!!!このアホ!」
「ハルさんの頭大丈夫かしら・・・?」
めちゃくちゃ酷い言われようなんだが。
「はぁ・・・次からは常識もちゃんと教えるようにしよか・・・」
おい、そこ。溜息を吐くのもやめろ。
「まあでもそうだな。今度はもっと色々教えてくれ。アマネ、コハル、ヨギリ、これからもよろしく頼む。」
「も、もちろんなのじゃ!」
アマネは嬉しそうに微笑み、転移魔法を発動させる。
新しい街、新しい店・・・楽しみだ。まあ俺はこれからも彼女達の側に置いて貰えるよう頑張るだけだが。ただ今まではちょっとみんなと距離を置きすぎていた。よかれと思ってやっていた事だが、余計みんなに気を遣わせていただけだ。これからはもう少し、アマネ達と仲良くしていこう。せっかく心機一転新天地に向かうのだから。
「いざゆかん!」
「アマネ、その掛け声ダサい。」
「うっさいのじゃ!!!」




