消滅
「・・・何がどうしてこうなった!?」
ヨギリに抱きかかえられ、俺は地下牢を出た。
するとそこには凄い光景が広がっていた。もう何ていうか凄かった。
「何ここ、核爆弾でも落ちたの・・・?」
「なんじゃ?か、かくばくだん?」
「あ、いや、何でもない。これアマネ達がやったのか?」
「ま、まあそうじゃの。」
辺り一面焼け野原。人の気配もなければ、収監施設があった形跡すらない。しかも匂いが酷い。これは人間が焼ける匂いか?だが死体はどこにも見当たらない。
なるほど、皆殺し・・・というわけだ。
「えっと・・・警備兵はどれくらいいたんだ?」
「1000人くらいかの?」
嘘だろ。そんなにいたのか。
俺がここに連れてこられた時は数十人しかいなかった。てっきりその程度だと思っていたのに。
いや重要なのはそこではない。
アマネ達はそんな戦力すら覆せるくらいに規格外ということだ。彼女達なら国を乗っ取れると言ったが、あれはあくまで彼女達の人脈を使って色々暗躍した場合で、本当に武力だけで滅ぼせるとはさすがに思わなかった。
一騎当千という言葉がある。だがそれはあくまで諺。アマネ達がどれだけ凄かったとしても、せいぜい数十人を圧倒する程度だと俺は思っていた。まさか本当に言葉通りだったとは。しかもそれらを一人残らず、跡形もなく・・・皆殺し。
「アマネ達ここまで凄かったの・・・?」
「ま、まああれじゃ!ち、ちと本気を出してしまっただけじゃ!」
「別に凄いことちゃうで!普通や普通!」
「そうよ!私は優しいお姉さんよ!怖くないわよ!」
そんなわけあるか。本気を出しても普通ここまで出来ない、絶対無理だ。明らかに人間の域を超えている。
あ・・・そういえばこいつらは人間じゃなかった。
「わ、わらわ達が怖いか・・・?」
アマネがどこか寂しそうな目で見つめてくる。
「ううん。平気。別に怖いとは思わない。」
「ほ、ほんまに?」
「うん、頼りになる姉さん!って感じ。」
これは本当だ。こんな桁外れの力を見たら普通は恐れるものなのかもしれない。だがアマネ達がその力を自分に向ける事は無いと信じている。それに理不尽な暴力をこの子達が絶対にしないのもわかっている。だから恐れるなんて何もない。
「そうなのね・・・よかった。ふふ、ちょっと安心したわ。」
「でも俺を助ける為だけにこんな事して大丈夫なの?」
「あー・・・そうじゃな、その辺の話は胡蝶に戻ったらするのじゃ。」
大丈夫ではなさそうだ。まあ当然だろう。国家反逆罪で投獄されていた俺を助ける為、施設ごと消し飛ばしたのだ。全員が死罪になってもおかしくはない。
「このまま歩いて帰るのか?」
「さすがにそんな時間はないの。転移魔法で戻るとするのじゃ。」
「え!?そんな魔法あるの!」
知らなかった。そんな便利な魔法があるなら普段から使えばいいのに。
「うむ。じゃが長距離移動する時くらいしか使わんのじゃ。わらわ達は基本ずっと胡蝶におるからの。ハルが見た事ないのも仕方なかろう。」
「なんであんまり使わないの?」
「運動不足になるからじゃ!」
そんな理由かよ。
「とりあえず帰るのじゃ!ヨギリ!」
「ん、じゃあいくで。」
次の瞬間、ヨギリを中心に光り輝く金色の魔方陣が展開された。
「おお!凄い!」
「ふふ、よく見ときや?」
これが転移魔法か。実際に魔方陣を見るのもこれが初めてだ。アマネ達はいつも腕を振るだけで魔法を発動させてしまうからちょっと感動した。
「いくで!」
ヨギリがそう叫ぶと同時に目の前が暗転した。
「うー・・・気持ち悪い。」
頭の中がぐるぐるする。転移魔法を経験したのは初めてだが、あまり気持ちいいものではない。脳をおもいっきり揺さぶられた感じだ。
「くく、慣れるまではみんなそうじゃ。」
「それよりみんな待ってるんちゃう?はよいき。」
ヨギリが俺の背中をポンっと押す。
転移した先は胡蝶にある俺の部屋だった。そしてサクヤ達は1階の待合室にいるらしく、早く行って顔を見せてやれとの事だ。
「サクヤ達もハルさんの事心配してたもの。ただいまって言ってあげなさい。」
「うん。」
俺は早速、自分の部屋を出て階段を下る。
「「「「ハルさん!」」」」
待合室に着くや否や、サクヤ達に囲まれた。
「みんな、ただいま。」
「おかえりなさい、ハルさん。」
「お、おかえりなさいです・・・!」
「おかえりなさい!」
「おかえりです!」
サクヤやユイカを皮切りに、嬢達が口々におかえりと言ってくれる。それを聞いた俺はどこかホッとする。無事に帰って来たんだなと改めて実感したからだろう。
「ごめんね・・・俺のせいでみんなに迷惑・・・」
「ハルさん!違います!謝らないでください!全部私達のせいですから・・・!ハルさんは何も悪くありません!ほんとごめんなさい!」
そしてサクヤにおもいっきり抱きしめられた。
こんな彼女は初めてだ。いつもは冷静で余裕のあるサクヤ。だが今日はどこか落ち着きがなく、激しく動揺している。いやサクヤだけじゃない。他の嬢達も似たような感じだ。
「でも俺のせいで迷惑かけちゃったのは事実だし・・・」
「いいんです!でも無事で本当によかった・・・」
「でもサクヤみたいな美人さんに抱きしめて貰えるなら捕まった甲斐あったかな?」
「ふふ・・・そうかもしれませんね?」
どこか照れ臭そうに笑うサクヤ。
「あと心配してくれてありがと。」
「あ・・・うーん・・・そうですね・・・?」
何かを思いついたのか、サクヤが逡巡するように呟く。
この表情はあれだ。
絶対何かよからぬ事を考えている気がする。
「どうした?」
「いえいえ、ふふふ・・・『大好き』なハルさんを心配するのは当然ですからね?」
そう言ってサクヤは意地悪な笑みを浮かべる。
ああ、なるほど。俺を勘違いさせて揶揄おうという腹か。
だがその手にはのらん。既に似たような事をされたし、今更勘違いなんてしない。
「それは嬉しい。ありがと、サクヤ。」
「む・・・思ったより動揺しませんね・・・」
目論見が外れたのが不満なのか、頬を膨らませる。
「だってそれさっきコハルにも言われたしね。」
「え・・・!?そ、そうなんですか・・・!?」
急に歯切れが悪くなった。笑顔が引き攣っている。
「うん。『大好きな弟を心配するのは当然』ってことだろ?」
「・・・は?・・・え、ええ?まあ・・・はい、そうですけど・・・」
やはりそうか。サクヤもハルより年上だ。いつも弟のように俺の事を可愛がってくれている。出来の悪い弟を持った世話好きな姉と言ったところだろう。そんな感覚に違いない。
(はぁ・・・どうせ慌てて誤魔化したんでしょうね・・・ほんとにこのヘタレ年増エルフは・・・)
サクヤがコハルを睨みつけながらボソボソっと呟く。
「サクヤ、なんか言った?」
「いえ、何でもないですよ?気にしないでください。」
「んー・・・なんか気になるんだけど。」
睨まれたコハルが冷や汗をだらだら流しているように見えるし、めちゃくちゃ気になる。一体どうしたというんだ。
「ほら!それよりハルさんが無事に帰って来てくれて本当によかったです!お腹空いてますよね?ご飯用意したので食べませんか?」
サクヤがそう言うと、嬢達が料理をテーブルに並べ始めた。何か上手く話題を逸らされた気がしなくもないが、確かに腹ペコだ。
スープにサラダ、肉料理に魚料理。どれも美味そうだ。
「食べる。お腹すいた。」
「でしょう、いっぱい食べてくださいね?」
「これ、誰が作ったの?」
「ユイカ、マシロ、ユキ、サラ、そして私です。」
「ん・・・?それってもしかして・・・」
「はい、私達の客が一番ハルさんに迷惑かけてたので・・・そのお詫びも兼ねて5人で作りました。」
なるほど。確かに審問官に連れて行かれる前、この5人の客に一番殴られてた気がする。とは言え別に彼女達が悪いわけではないのだが。
「が・・・がんばりま・・・した!」
「美味しいかは分かりませんが、心を込めて作りました!」
「作りました!」
「いっぱい食べてくださいね?」
数日振りの食事だ。心配しなくとも間違いなく美味いだろう。それに以前作ってくれた料理もレストランで食べるよりも数段美味かった。しかしこの子達は娼婦なのに女子力がめちゃくちゃ高い。いや、娼婦だからこそ高いのかもしれない。
「いただきます!」
俺は早速料理を頬張る。うん、美味い。
「ハルよ。」
「・・・ん?どうしたアマネ。」
「そのままでいいから聞いてくれ。事の顛末を話すのじゃ。」




