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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第一章 胡蝶編
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救出

 ――コツコツ


 複数の足音が近づいてくる。


「時間か・・・」


 俺は牢の床に寝転がりながら小さく溜息を吐く。

 

「・・・」


 足音がしなくなった。兵士が牢の前まで来たのだろう。だが起き上がって確認するのも面倒だ。どうせ無理矢理連れて行かれるのだからこのままでいい。


「ハァ・・・。お主、なにしておるんじゃ・・・?」

「・・・!?」


 溜息と共に聞き覚えのある声色が地下牢に響く。


「え・・・?ア、アマネ?」


 鉄格子に背を向けていた俺は慌てて声がした方へと顔を向ける。


「ハル!助けにきてやったのに何故こっちを見んのじゃ・・・!!!」

「え!?だ、だって・・・!あれ!?あ、ヨギリも!?」

「こら!うちはついでかいな!」


 アマネの隣にヨギリもいる。もの凄く不機嫌そうだが。


 でもなんでだ。なんでここにいるんだ。俺は見捨てられたんじゃないのか。


「な、なんで?」

「は?なんでとはどういうことなのじゃ?」

「いや・・・俺はてっきり見捨てられたのかなって・・・」

「だから不貞腐れておったのか・・・?」

「う、うん・・・そ、そうだけど・・・」

「こんの・・・アホ!お主をわらわが見捨てるわけないじゃろうが!!!」


 めっちゃ怒鳴られた。


「正座じゃ。」

「え・・・?」

「そこに正座じゃ!!!」

「は、はい!」


 あれ・・・?何故俺は正座させられてるんだろうか。何故牢に閉じ込められたまま説教されてるんだろうか。こいつら俺を助けに来てくれたんじゃないのか・・・?


「アマネ・・・早く助けてよー・・・」


 俺は涙目でアマネを見つめる。


(ぐ・・・っ・・・そ、その目を卑怯なのじゃ・・・!)


 何かぼそぼそと呟いているアマネ。何を言っているのかは聞こえないが、早く助けて欲しい。早く帰りたい。


「し、仕方ないの・・・ヨギリ。」

「ん。ちゃちゃっとやるで。」


 ヨギリは手に持っていた扇子を軽く振る。すると目の前にあった鉄格子が一瞬にして塵と化した。


 凄い。さすがヨギリ。何したのかまったくわからない。何らかの魔法を使ったのだろうが俺にはさっぱりだ。


「ヨギリ・・・」


 俺は残された力を振り絞って立ち上がり、ふらふらとヨギリの胸へ飛び込む。


「頑張ったな、ハル。遅うなって堪忍な?」

「うん・・・」


 ヨギリがそっと俺を抱きしめ、頭を撫でてくれる。


「あ、ごめん・・・俺、汚い・・・」

「ええんよ、そんなん気にせんでええ。」


 落ち着く。なんか泣きそうだ。


「・・・なんでヨギリなのじゃ・・・そこはわらわの方に来るところじゃろ・・・」


 なんか隣でアマネがぶつぶつ言っている。


「アマネ、なんか言った?」

「な、なんも言っておらんのじゃ!と、とにかく無事でよかったのじゃ!」

「うん、来てくれてありがと。」

「当然なのじゃ!」


 ギリギリだった気もするが、きっとそれもアマネ達の計画だったのかもしれない。このタイミングで俺を助けたのには何か意味があったのだろう。彼女達が俺を無駄に焦らす事なんてしないはずだ。


「アマネやヨギリに慕われててよかったー・・・」

「「なななななっ!?」」


 顔を真っ赤にしてわけのわからない言葉を叫ぶアマネとヨギリ。


 一体何をそんな驚いているのだろうか。


「どしたの?」

「い、いや・・・!わらわがお主を慕ってるって・・・!?」

「ん?アマネやヨギリと友達だから助けてくれたんでしょ?嫌われてたら助けにこないだろうし。だから仲良しでよかったなーって。」

「「はぁあああああ!?」」


 だから何をそんなに驚いているのか。


 そしてなんか怖い。めっちゃ睨んでくる。


「えっと・・・」

「「正座。」」

「えー・・・?」

「「正座!!!」」

「は、はい!」


 あれ?なんで俺はまた正座で説教を受けているのだろう。


 いい加減帰りたい。


 でもなんかいつも通りの2人を見ていたら落ち込んでたのが段々と阿保らしくなってきた。感動の再開すらどっか飛んでった。


 まあこれがある意味俺達らしいのかもしれない。


「あはは・・・」

「何がおかしいのじゃ!」

「何がおかしいんや!」

「なんか2人がいつも通りだから・・・ちょっとホッとした。」


 俺がそう言うと、アマネとコハルもくすくすと笑いはじめる。


「くくく、そうじゃな。」

「ふふ、やっぱハルはおもろいなぁ。」

「そうかな・・・?それより、帰ろう?」

「うむ!」

「せやね!」


 早く胡蝶に帰ってご飯が食べたい。風呂に入りたい。ベッドでゆっくり寝たい。さすがに疲れた。


「・・・ととっ」


 俺は立ち上がろうとするが、足に力が入らずよろけてしまう。どうやら色々限界のようだ。


「大丈夫や、うちに任せとき。」

「ち、ちょっと、ヨギリ!」


 よろけた俺をヨギリがそっと受け止め、抱きかかえる。


 うん、いわゆるお姫様抱っこだ。なんでこうなった。


「は、恥ずかしいから、下ろせって!」

「う、うるさいわ!黙ってうちに抱かれとけばええんや!」


 おかしい。女に言われてみたいセリフの1つなのに全くときめかない。というかそのセリフはもっと違うシチュエーションで言われたかった。


 だがまあ・・・今日は彼女に甘えるとしよう。


「うん、わかった。ごめんな。」

「ん・・・ま、まあ今日は特別やし。」

 

 どこか嬉しそうな顔で呟くヨギリ。


 その一方で何故かアマネがぐぬぬと歯を噛みしめ睨んでくる。今にも歯ぎしりが聞こえてきそうで怖い。


(ヨギリ・・・お主はまた・・・許さんのじゃ・・・!)


 ぼそぼそと独り言も言っているし、なんであいつはあんなに怒ってるんだ。


「アマネ、どうした?」

「な、なんでもないのじゃ!」

「そうなのか?めちゃくちゃ怒ってるように見えたんだけど・・・」

「そ、そそそれはあれじゃ!ハルをこんな目に合わせたのが許せんだけじゃ!」

「あー・・・そういうことか。」


 兎にも角にもこれでひと段落だろう。


 助けてくれたアマネやヨギリには感謝しかない。

 

 ん?・・・あれ?


 というかさっきから1人足りなくないか?


 この2人が居て、あいつが居ないというのは絶対におかしい。


「えっと、あのさ・・・」

「ん?どないしたん?」

「どうしたのじゃ?」

「・・・コハルは?」

「「・・・あっ。」」


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