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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第一章 胡蝶編
58/106

結果~side胡蝶~

「お主らに集まって貰ったのは他でもないのじゃ。」


 あれから数日後、アマネは嬢達を待合室に集めた。


「どないしたん?なんかハルの事で進展あったん?」


 待ちきれないのか、身を乗り出してアマネに尋ねるヨギリ。


「うむ、先程ユイカから報告があっての・・・」


 アマネの口調が暗い。間違いなく良くない事だ、嬢達は瞬時にそれを理解する。


「ユイカ、説明するのじゃ。」

「は、はい・・・!えっと・・・ハルさん・・・は明日処刑されます・・・!」


 ユイカが一部始終を報告する。


「・・・というわけです。」


 ハルが連行されてから5日。ユイカは毎日報告してくれていたが、この数日は何もなく、安心していた。だがどうやら今日宰相が戻ってきた事でハルの取り調べが再開されたらしい。


「ふざけてるわね・・・」

「うちも堪忍袋の緒が切れてもうたわ。もう我慢でけへん。」


 コハルとヨギリが怒りを露わにする。今すぐハルを助けに行こうと提案する。


「ヨギリ姐さん、コハル姐さん、まずは話を聞きませんか?」


 サクヤが待ってくださいと2人を落ち着かせる。


「私達を集めたのはその為なんですよね、アマネ姐さん?」


 サクヤの言葉に頷くアマネ。


「そうじゃ。まあヨギリとコハルの意見は分かった。ちなみにサクヤ、お主はどうするべきじゃと思う?」

「・・・質問を質問で返して申し訳ないですが、アマネ姐さんはどうされたいのですか?どうするおつもりなのですか?」


 胡蝶の経営者であり、サクヤ達の指導者的立場のアマネ。まずはそんなアマネの考えを聞かせて欲しいとサクヤが問う。


 するとアマネは目を伏せ、淡々とサクヤ達に告げる。


「うむ・・・正直なところ・・・ハルを見捨てるのが一番理に適ってると思うのじゃ。わらわ達はあの目標の達成が最優先じゃ。『かの地』で待たせてるあやつらの為にもな・・・。」


 ヨギリやコハルは不満そうな表情を浮かべる。だが反論はしない。いや、反論出来ないと言った方が正しい。何故ならここにいる全員がわかっているのだ。アマネの意見が正しいと言う事を。彼女達は「かの地」で待つ仲間の為、今まで娼婦として働いてきた。何を犠牲にしてでも、目標の為だけに今まで頑張って来た。いくらハルの事が大好きでも、ここは彼を見捨てるのが正しい。ハルを見捨て、胡蝶を続ける。そうすればあと数週間で夢が叶う。


「なるほど、そうですか・・・。アマネ姐さん・・・いえ『アマネ様』。本当にそれでよろしいので?」


 サクヤの雰囲気が変わる。姐さん姐さんと慕っているいつものサクヤではない。


 そんなサクヤに詰め寄られ、言葉を失うアマネ。必死に何を言おうか迷っている。何が正しいのか。何をするべきなのかはわかっている。でも・・・


「いやじゃ・・・よろしくない・・・のじゃ。わらわはそんな理性的に行動出来る人間ではない。・・・じゃからわらわはハルを助けたい。駄目か・・・?」


 静かに自分の想いを告げるアマネ。普段の凛としたアマネからは想像も出来ないくらいに弱々しい声だ。そして今にも涙が零れ落ちそうな悲しい目をしている。


「これは命令ではない、お願いじゃ。お主ら・・・わらわのわがままに付き合ってはくれんかの・・・?」


 アマネは祈るように呟く。


 するとその言葉を聞いたサクヤ達は一斉に跪いた。あのヨギリやコハルもだ。


 普段の胡蝶では絶対にありえない光景。ハルがみたら間違いなく目を見開いて驚くに違いない。


「畏まりました、アマネ様。」


 サクヤが頭を垂れる。


「うちも大丈夫や、アマネ様に従うで。」

「私もよ。問題ないわ。」


 ヨギリとコハルも目を伏せ、頭を垂れる。ユイカやサラ、そして他の嬢達も異論はないと全員が一斉に平伏し、アマネに敬意を示す。


「よいのか・・・?」

「むしろアマネ様らしくて安心したわ。それにハルを見捨てるとか言うたらうちがアマネ様をしばいたんねん。」


 ヨギリがくすくすと笑う。


「そうね。私もアマネ様を殺してでもハルさんを助けにいくつもりだったわ。あの地で待っている子達には悪いけど、わかってくれるはずよ。ねえ、サクヤ?」

「はい。むしろ家族であるハルさんを見捨てていたら私もアマネ様を許してはいませんでした。お忘れではないでしょう?家族の絆を大事にするのが我々の掟だという事を。あの地の者達もそれはわかっています。」


 コハルの言葉に同意するようにサクヤが頷く。そして最後に「彼はもう私達の家族なのですから」と付け加える。


「そうか・・・。しかし、くく・・・お主らでわらわに勝てるとでも?」


 ヨギリやコハル達が同意してくれた事で言葉遊びをする余裕が少しは出たのか、アマネがいつものように不敵な笑みを浮かべる。


「無理やろ。でも全員でかかれば足止めくらいは出来るんちゃうか?」

「ええ、刺し違えてでもアマネ様を足止めするわよ。そしてサクヤ辺りにハルさんを助けに行って貰うわ。」


 ここにいる全員合わせても、アマネに勝つ事は出来ない。ただ足止めくらいはしてみせる。その間に誰か1人がハルを助けに向かえばいいだけ。


「そうか・・・。感謝するのじゃよ。ここまで頑張ったのに・・・すまんの。」

「別にいいわよ。また1からやり直せばいいだけよ。そうでしょ、アマネ?」

「数年くらいうちらにとっては誤差や。せやろ、アマネ?」


 大好きなハルの為ならそれくらい構わない。むしろ今度は1からハルと一緒に頑張れる。だからむしろ楽しみだとヨギリとコハルは嬉しそうに笑う。


「そうじゃな。うむ・・・そうじゃ!ではわらわのハルを助けるのじゃ!!!」

「はぁ!?何言ってるのよ!ハルさんは私のよ!!!」

「ちゃうし!ハルはうちのや!!!」

「「「はぁあああ!?」」」


 元気になったと思ったらすぐさまいつもの言い争いを始める3人。


 そしてそんな姐達を心底冷めた目で見つめるサクヤ達。


「はぁ・・・もうハルさんが戻って来たら『姐さん達』は告白しましょう。そうしましょう。見てるこっちがむず痒いです。いいえ、鬱陶しいです。」


 サクヤがいつものように溜息を吐く。


「なんでじゃ・・・!そ、それとこれとは話が別なのじゃ!」

「せ、せや!そんなはしたない事でけへんよ!」

「そうよ!私達は女の子なのよ!だって・・・その・・・告白とか普通は男の方からでしょう・・・!」


 アマネ達は顔を真っ赤にしてそれは無理と拒否する。


「女の子って・・・姐さん達、歳を考えてください・・・」


 奥手にもほどがある。なぜこの姐達はこれほどまでに純粋なのだろう。これでよく娼婦なんてやってられると呆れるサクヤ達。まああまり人の事は言えないが・・・それでもさすがにこのアマネ達程ではない。


「う、うるさいのじゃ!ええい!計画を説明するのじゃ!」

「はいはい・・・ではお願いします。」

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