前夜~sideハル~
「あはは、お前の人生最後の夜だ。思い残す事のないようにしろよ。」
五月蠅い。余計なお世話だ。俺は兵士を睨みつける。兵士はそれを鼻で笑い、さっさと地下牢から姿を消す。
「拷問を受けて時間稼いだ方がよかったのかな・・・でもさすがに無理だって・・・俺には無理だ・・・」
兵士が見えなくなった瞬間、俺は牢の床に倒れ込む。意地であいつの前では倒れたくなかった。でもさすがにもう立ってられない。何かをする気力もない。
アマネ達の助けがくるまで時間を稼ごうと思っていた。その為にも拷問を受けるべきだっただろう。だが爪を剥がれるとか絶対無理。1つ剥がされた時点で罪を認めてしまう。俺の根性なんてその程度。そんなのはわかっている。
「アマネ・・・」
だがタイムリミットは明日。
本当にアマネ達は助けに来てくれるのか・・・
「あー・・・しかし・・・お腹空いたな。」
俺は何気なく呟く・・・がすぐにそれがおかしいと気付く。
「え・・・?俺は今なんて言った?」
お腹が空いた。俺は間違いなくそう言った。
だがアマネ達がかけてくれたであろう魔法で俺は今まで空腹を感じる事はなかった。それなのに何故俺は今お腹が空いたと言ったのだ。
「まさか魔法の効果が切れたのか?」
胡蝶を出てから5日。そろそろ魔法の効果は終わりだと言う事なのだろうか。俺は汚い牢の床を指でなぞってみる。だが指に汚れはつかない。
「一応・・・まだ汚れないな・・・」
こちらの魔法はまだ大丈夫のようだ。きっとアマネ達は俺に複数の魔法を施してくれている。ただ空腹を感じる時点でこちらもそろそろ切れると考えた方がいいのかもしれない。
「やっぱり・・・見捨てられた・・・?」
いや、まさか。そう決め付けるのは早計だ。まだそうと決まったわけではない。
俺は必死にそう自分に言い聞かせる。
「助けにきてくれるよな。ヨギリ、コハル・・・」
俺は祈るように呟く。
アマネ達に見捨てられたら、俺にはもう処刑される運命しか残っていない。罪を認めてしまった以上、それが変わる事は絶対にない。そして俺の力では現状をどうする事も出来ない。
俺にはアマネ達が来てくれる事を祈るしかない。
「もう寝てしまおう・・・」
これ以上起きてても最悪な考えが頭を過るだけ。明日にはきっとアマネ達がひょっこり現れて「ハル、さっさと帰るのじゃ」と言ってくれる。
俺はそう信じて最後の夜を明かす。
「朝か・・・」
ここには窓が無いから太陽は見えない。だが牢の中が少しだけ明るい。夜だと本当に真っ暗になるから、少しでも明るいと朝が来たとわかる。
「あ・・・手が・・・」
いや、手だけじゃない。よく見ると体もすっかり汚物で汚れている。寝てる間に牢の汚れが体についたようだ。
「そうか、タイムリミットか・・・」
虫が足にたかっていたので、手で振り払う。どうやらアマネ達がかけてくれた魔法の効果は完全に切れたらしい。
「はは・・・コハルなら・・・泣き叫んでるな・・・」
走馬灯のようにアマネ達との記憶が蘇ってくる。
「死にたくない。でもまあ・・・この世界での1年は楽しかったしいいか・・・」
この世界に来てから約1年、色々あったがアマネ達と過ごせた日々は楽しかった。俺はついそんな感傷に浸ってしまう。
「あとは処刑の時を待つだけか・・・」
階段から足音が聞こえたら、それが俺の人生が終わる合図。
俺はもう完全に諦めた。夜のうちにアマネ達が助けに来てくれたらと思っていたが、それもなかった。今更あいつらが来るとも思えない。
もう諦めた。
「まあ・・・アマネ達が無事なら・・・いいか・・・」
彼女達に見捨てられた事は悲しいが、決して恨んではいない。アマネ達が俺を拾って助けてくれたから、今までこの世界で生きてこられたのだ。
ただ欲を言うなら・・・もう少し彼女達と過ごしたかった。
「・・・あと最後に『ありがとう』って言いたかったな。」
俺はボソッと呟いて、床に寝転がる。魔法の効果は切れているから体は汚れるし、虫もたかってくるが、もうそんな事はどうでもいい。どうせあと数時間で死ぬんだ。じたばたしても仕方ない。
今か今かと不毛な時間を過ごすくらいなら寝た方がましだ。もう二度寝してしまおう。俺は半ばヤケクソに目を閉じる。
「最後くらいいい夢みれるといいな。」




