処遇~sideハル~
「来たか。よかったな、喜べ。」
取調室に入った途端、アーウィンが俺に不敵な笑みを浮かべる。
喜べだと・・・それはつまり釈放されると言う事なのか。それならさっきの被害妄想は全部杞憂になるから非常に嬉しいのだが。ただアーウィンがそんな事をわざわざ俺に言うだろうか。こいつは俺の事が嫌いなはずだ。
俺は黙ってアーウィンの言葉を待つ。多分余計な事を言ったら殴られるだけ。今までの流れからしてそれは間違いない。
「くくく、本当に喜ばないあたりよくわかってるな。」
やはりすんなりと「釈放」というわけではなさそうだ。
「とりあえず順を追って話してやろう。」
アーウィンは楽しそうに笑いながら椅子にふんぞり返る。さぞかし彼にとっては愉快な話なのだろう。
「大臣達はお前を釈放しろと訴えてきてな。アマネ嬢から頼まれたらしい。」
やはり全部アマネ達の差し金だったようだ。
「やつらは胡蝶に通えなくなることを心配しておったわ。」
きっとアマネ達は「お願いを聞いてくれないと嫌いになる」とか言ったのだろう。まあ胡蝶の嬢達にそんな頼まれ方をしたら断われる男なんていない。宰相のアーウィンとて例外ではないだろう。
彼女達の策は上手くいったのだろうか。だがそれならアーウィンがこんな愉快な顔で俺に説明してくるはずはない。
「だから言ってやったのだ。数日様子を見ればわかると。そしたらほれ、胡蝶は問題なく営業しておったわ!つまりお前はいなくてもいいということだ!」
なるほど、そうやって大臣達を説得したのか。確かに俺がいなくっても何事もなく営業してるのであれば、そう結論付けられても仕方ない。
アマネは俺が初日に戻らなかったら翌日以降は胡蝶を閉めると言っていた。だがどうやら営業する事にしたらしい。まあ当然の判断だ。驚きはしない、恨みもしない。アマネ達にはアマネ達の目標がある。それを俺のせいで妨げたくはない。
実際胡蝶は俺がいなくても大丈夫だ。主役は娼婦である嬢達なのだから、従業員の俺がいなくなったところでなんら問題はない。
「よってお前は反逆罪と言う事で明日処刑だ!何か言いたいことはあるか!」
「そ、そんな横暴な!」
待て、その結論はさすがにおかしい。
俺は慌てて反論する。そもそも俺はまだ何の弁解もしていない。罪を認めてすらいない。それなのに明日処刑なのはどう考えてもおかしい。そんなのに納得するわけがない。
「ああ?うるさい!おい、やれ!」
「はっ。」
アーウィンに命令された兵士が俺を殴る。
くそ・・・やっぱ結局はこうなるのか・・・
「がっ・・・けほっ・・・」
俺は床に蹲って体を丸める。必死に頭や腹を守る。
「あとはお前が罪を認めればいいだけだ。早くやったと言え。」
もしかしたら俺が認めない限りは処刑が出来ないのだろうか。だがアーウィンはそれを特に問題だとは思っていないらしい。適当に俺を痛みつければすぐ自白すると高を括っている。だが確かにこのままだといつか認めてしまう気がする。根性なしの俺がいつまでもこれに耐えられるとは思えない。
「宰相殿。この不届き者がいなくなって胡蝶は大丈夫なのですか?」
兵士が俺を蹴飛ばしながら尋ねる。まあ結局はそこだ。胡蝶が問題ないなら俺なんてどうでもいいと言う事だ。
「ふんっ。むしろこの男がいなくなったら・・・アマネ嬢は俺に感謝するだろうな。目障りなのがいなくなったと!」
「おお、さすが宰相殿です!では宰相殿はやはりアマネ嬢を妻にされるのですか?」
2人が会話を初めてくれたおかげで、俺への暴行が収まった。俺は黙って会話に耳を傾ける。あと今のうちに少しでも回復しておこう。俺は2人を刺激しないよう必死に息を殺す。
「ありえんな。アマネ嬢は確かに美しい。だが所詮は鬼人族だぞ?まあいいとこ妾だ。そのくらいわかるだろうが。」
「そ、そうでした。」
「ヨギリは狐人族でコハルはエルフ族だったか。あいつらの美貌に惑わされてそれを忘れてる連中が多いから困る。胡蝶に行く気ならお前も気をつけろよ?」
「はっ!ご忠告ありがとうございます!」
・・・一体どういうことだ。
今までこいつはアマネを嫁にするとかいいつつも、妾程度にしか考えてなかったと言う事なのか。それに何故アマネが鬼人族だと妻に出来ないんだ。そんな話し俺は知らない。しかもアーウィンの口ぶりからすると、ヨギリやコハルも妻としては不合格という事になる。兵士も当然ですねと言った感じだ。
これは俺の知らないこの世界の常識か何かなのか。
だが・・・アマネ達がそんな風に言われるのは不愉快だ。本当に不愉快だ。鬼人族だろうが狐人族だろうが、あの子達は一生懸命娼婦という仕事をしている。本気で求婚していたならともかく、妾程度に扱うつもりだったとか聞いていて気分がいいものではない。
俺は感情を抑えきれず、ついアーウィンの方を睨んでしまう。
「なんだその反抗的な目は!おい!手が止まってるだろうが、やれ!」
「はっ!申し訳ありません!」
しまった。
「ぐっ・・・」
「おい、早く認めたらどうだ?」
糞が。絶対認めてやるものか。そう簡単に首を縦に振ってたまるか。
「まあ認めたら処刑されるんだから当然だな。だが認めたほうが楽だぞ?」
「ど、どういうことですか・・・」
俺が恐る恐る尋ねると、アーウィンは不敵な笑みを浮かべる。嫌な予感がする。
「くく・・・死なない程度に拷問してやるという事だ。爪を剥いだり、指を切り落としたり、片目潰すくらいだ。そうだ・・・特別にお前に選ばせてやるとしよう。さあどれがいい?」
楽しそうに大声をあげて笑うアーウィン。
「そ、そんな・・・」
それはさすがに酷過ぎる。アマネ達の治癒魔法があったとしても、俺がそんな痛みに耐えられる気はしない。無理だ。それは無理。恐怖で寒気がしてきた。体が震える。殴られるだけでもこれだけ痛いのに、そんな拷問絶対に耐えられるわけがない。
「あの胡蝶の従業員ならそれくらい余裕で耐えられるだろ?」
怯えた俺を見てアーウィンがせせら笑う。
無理だ。耐えられるわけがないだろうが。前の世界で読んだ本では拷問に耐える描写もあった。だが現実ではそんなの無理だ。男らしくないと言われるかもしれないが、そんなものだ。拷問に耐えられるなんて特殊な訓練を受けた者だけだろう。なんの訓練も受けてない一般人の俺がそんな激痛に耐えられるわけがない。みっともなく泣き叫んで助けを乞う未来しか見えない。
「どうした?何か言いたい事でもあるのか?」
今認めれば、全てを認めれば・・・拷問されずに済む。でもそれを言えばこいつの思う壺。でも拷問は嫌だ。でもこいつの思い通りになるのも嫌。でも拷問はもっと嫌・・・どうすれば・・・
俺は心の中で葛藤を繰り返す。何が正しいのかわからない。永遠と同じ考えがぐるぐる回っている。
そして気付いたら、俺はその言葉を口にしていた。
「わ、私がやりました・・・アマネ達を使って国を乗っ取ろうとしました・・・」
「かはは!そうかそうか!やはりそうだったか!」
してやったりと言わんばかりにアーウィンが豪快に笑う。
悔しい。悔しいが、俺にどうしろうというのだ。しょうがないだろう。拷問された上殺されるなら、もうただ殺されるだけのほうが絶対にましだ。
しょうがない。しょうがないんだ。
「よし、なら処刑は明日だ。そいつを牢に戻しておけ。くく・・・いい夢みろよ?」
それだけ言うとアーウィンは愉快愉快と部屋を出て行った。




