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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第一章 胡蝶編
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尋問2~sideハル~

「大臣達がその男の釈放を求めております。」


 ラフェルが告げる。 


「なんだと!?」


 これは・・・きっとアマネ達の仕業だ。彼女達が客を使い、なんとかして俺を釈放しようと動いてくれているに違いない。


 なら俺がすべき事は1つ。ひたすらこれに耐える事だ。そうすればアマネ達が必ず何とかしてくれる。俺の余計な弁解や釈明は逆効果だろう。


「だがな・・・!」

「お気持ちはわかります。ですがいくら宰相殿でも彼らの声を無視は出来ないでしょう・・・」


 審問官のラフェルが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。やはりこいつもアーウェンと同じで俺が嫌いらしい。まあ昨日連行された時の態度を見ればそんな事はわかっているが。


「ならどうしろというのだ!」

「そうですね・・・宰相殿が自ら彼らを説得してはいかがでしょう?」


 ラフェルが提案する。アーウェンは納得のいかない顔をしているが、他に良い案が思い浮かばないのか黙ったままだ。


「むぅ・・・面倒だが・・・それしかないか。」


 暫くしてアーウェンが呟く。


「仕方ない、とりあえずそいつを牢にぶちこんでおけ。俺は出掛けてくる。」


 そう言うと、アーウェンはラフェルを連れて部屋から出て行った。


 貴族達への説得がどう転ぶか俺には予想がつかないが、これで時間は稼げた。さすがアマネ達。数日あればアマネ達が次の策を講じてくれるだろう。


 俺はよかったと安心すると同時にちょっとだけ情けなくなった。何もかもが彼女達頼みだ。何も自分で解決できない。それでいいのかと自問自答するが、結局自分には現状を打開する策なんて何もない。戦闘では役立たずだし、策略家と言えるほど頭もよくない。


 俺が出来る事・・・それは胡蝶の仕事だけだ。本当にそれしかない。なら現状の事はアマネ達を頼って、後々俺に出来る事で恩返ししていくしかない。


 牢へ戻された俺は、殴られた痛みに耐えながらそんなことを考える。


「ああ・・・アマネ達の治癒魔法が欲しい・・・」


 いつもならすぐにアマネ達が治癒してくれていた。こうして痛みに苦しむ事は一度もなかった。だが今はそうはいかない。牢の床でのたうち回りながらひたすら痛みに耐えるしかない。


「うー・・・痛い・・・でもあいつらの魔法がなかったら感染症とかになってそれで死にそうだよな・・・」


 いや、間違いなくそうなるだろう。そう確信するくらいこの牢は汚い。というか大抵の収容者はそういった末路を辿る気がする。犯罪を認めれば処刑されるし、認めなくても暴行で出来た傷口からの感染症で死ぬ。もしかしてその為にこの牢は敢えて不衛生な状態にしているのだろうか。


 まあ真相なんてなんでもいい。どうでもいい事を考えて気を紛らわせていないと殴られた痛みで頭がおかしくなりそうだ。


「もうさっさと寝よう。起きたら痛みも少しは引いてるだろ・・・」






 あれから2日。俺は相変わらず牢にぶちこまれたままだ。


「暇だ・・・本当に暇だ・・・」


 殴られた痛みはひいてきたが、今度は暇で暇で死にそうだ。結局取り調べはあの1回以降全く行われていない。多分アーウェンが大臣達と俺の処遇について話しているからなのだろう。殴られたりされないから平和ではあるが、丸2日牢屋に完全放置されるのはそれはそれで辛いものがある。話し相手もいないし、暇をつぶせるおもちゃもない。


「ヨギリやコハルに弄られるのは鬱陶しかったけど、今思うとあれは楽しかったな・・・」


 しみじみと胡蝶での日常を振り返る。非日常の世界に放り込まれると日常のありがたみがわかるというが、本当にその通りだ。


「でも・・・俺ここで死んだりしないよな・・・?」


 アマネ達は上手くやってくれているのだろうか。というかそもそも彼女達は俺を助けてくれるのだろうか。


 よく考えればあの子達に俺を助ける義理なんてない。アマネの夢を叶えるのに俺は別に必要ない。アマネ達のあの美貌があれば、いつかは今と同じ立場まで上りつめていただろう。俺がやった事と言えば、それを少し早めただけ。それにそう言う意味でも俺の仕事はもう終わっている。すっかり胡蝶も有名になった。最早俺が胡蝶に存在する意味はない。


「・・・アマネに見捨てられたりするかな・・・いやいやそれはないよな・・・」


 多分。きっと。おそらく。


「何考えてるんだ・・・大丈夫だ。」


 余計な事を考える時間があるせいで思考が相当ネガティブになってきている。



 ――コツコツ。



 その時、誰かが階段を下る音が聴こえた。食事の時間だろうか。まあここの飯なんて食えたものじゃないので口を付けた事はないが。それにアマネ達の魔法の効力はまだ続いているから飢える心配はない。


「あ・・・この魔法・・・切れたら・・・その時は・・・?」


 俺はふと重要な事実に気付く。


 いくらアマネ達の魔法が凄いといっても、その効力は無限ではないだろう。いつかは切れる日が来る。もしその時までに俺が釈放されてなければ・・・俺は見捨てられたという事になる。


「うー・・・早く助けて・・・」


 ついつい泣き言を口にしてしまう。


 まだ数日しか経ってないのにこのザマだ。自分自身が女々しくて情けなくなる。でも俺は何も出来ないただの一般人。そんな俺にこんな状況で何が出来ようか。


「・・・い!・・・おい!貴様、聞いているのか!」

「・・・っ!」


 蹴飛ばされて俺は我に返る。


 どうやら兵士にずっと呼ばれていたらしい。自分の世界で最悪の妄想をしていたから全く気付かなかった。


 しかし飯の配給で声を掛けてくる事なんて今までなかった。


「宰相殿がお前の取り調べをするからさっさと出ろ!」


 なるほど、そう言う事か・・・


「早く帰りたい・・・ヨギリ・・・コハル・・・」


 そんな事を呟きながら俺は重い足取りで取調室へと向かう。

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