尋問~side ハル~
「がっ・・・かはっ・・・」
殴られた痛みで床に蹲っていたら、追い討ちをかけるように蹴りを入れられた。
「早く『私がやりました』と言え。楽になれるぞ?」
そんな俺の姿を見た宰相であろう男が豪華な椅子に座りながらせせら笑っている。
現在、俺は取り調べの真っ最中。
牢屋にぶちこまれてから一夜が明け、太陽が昇って数刻経った頃、俺は宰相らしき人物の前に連れていかれた。
取調室は豪華絢爛とまではいかないが、俺が夜を明かした牢とは雲泥の差だ。容疑者である俺がこんな部屋に通されるという事は、取り調べをする相手が相応の地位だというのはすぐにわかった。多分あんな汚い場所で尋問なんてやりたくなかったのだろう。
そして俺は部屋に入るなり、挨拶代わりと言わんばかりに顔面を殴られた。寝ぼけ眼だった目が一気に覚めた。
殴って来たのは昨晩俺を牢にぶちこんだ兵士。まああの偉そうに椅子にふんぞり返っている宰相に殴るよう命令されているのだろう。
そんな俺が床でのたうち回っているのを見て満足そうに笑ったその男は、自分が宰相のアーウィンだと名乗ってきた。国王の命にて俺を取り調べるだのなんだの長い口上を述べてきたが、ほとんど覚えていない。本人も面倒くさそうにしていたし、きっと形式的にやらなければいけない事なのだろう。
ちなみにアーウェンと名乗ったこの男、筋骨隆々で誰もが羨むような二枚目・・・というわけではなく、中肉中背で頭の毛が少し寂しい中年男。アマネの客でなかったら、地位の高い人物だとは思わなかっただろう。ましてやこいつが宰相だとは絶対に誰も思わない。アマネ達が醸し出すような風格なんて全くないし、威厳も何もない。ただただ態度と口が偉そうなおっさんだ。
そしてその後、取り調べと言う名の暴力が始まったというわけだ。弁解できる時間など与えて貰える訳もなく、ひたすら「やったと言え」と殴られ続けている。
「一言いうだけじゃないか。『私がやりました』そういえばいい。」
何を馬鹿な事を・・・そもそも俺は何もやっていない。無実だ。やってもいない罪も認めるわけないだろう。だが罪を否定するわけにもいかない。今弁明しても暴力が酷くなるだけ。だからここは黙秘するのが最善だ。
きっとそのうち弁明出来る時は来る。その時までは黙って殴られるしかなさそうだ。幸いにも最近は客から暴力三昧の日々を送っているので、殴られるのにも少しは慣れた。アマネ達の治癒魔法が無いのは辛いが、何とか耐える事は出来る。
「ほう・・・思ったよりしぶといな。あっさり認めると思ったのだが。なら少し本気でやるとしようか・・・おい、やれ!」
どうやら俺の地獄はまだまだこれかららしい。
結局あれから数時間、アーウィンは飽きる事なく、兵士に俺をいたぶらせ続けた。
「いい加減吐いたらどうだ?お前と違ってこっちは暇じゃないんだぞ。」
さすがにそろそろ飽きて来たのか、苛ついた口調で怒鳴るアーウィン。だがそれは俺のセリフだ。数時間も俺を殴らせ続け、それをずっと見ているお前の方が暇だろうが。そう言ってやりたい。
「宰相殿・・・まだ罪人と決まったわけではないのにこれは・・・」
さすがの兵士も良心が痛んで来たらしい。俺の代わりにアーウィンを諫めてくれようとしている。
「何を馬鹿な事を!こいつは胡蝶の女を使って国家を転覆させようとしたんだぞ!あと胡蝶の嬢達と好き放題やってるんだ!」
なんだそれは。後者についてはただの私怨じゃないか。大体俺がアマネ達を好き放題していたとしても、それは何の罪にもならんだろうが。
そもそもなんで国家反逆罪が確定しているんだ。俺はまだ容疑者の段階だろう。何故反逆者という前提で話が進んでいるのか。納得がいかない。いくわけがない。
「なっ・・・そ、そうなんですか!そ、それは許せん!貴様!俺の稼ぎじゃ胡蝶に行けないんだぞ!」
同情してくれていた兵士が逆上して蹴飛ばしてくる。こいつも結局はそれかよ・・・。しかしやはりうちの嬢達の人気は凄い。国に仕える兵士ですらこの有様だ。
「この屑が!」
「かはっ・・・」
痛い・・・一応「取り調べ」だから多少の手心は加えてくれているのかもしれないが、それでもさすがに数時間もこれに耐え続けられるわけがない。床に転がって必死に意識を保っているのがやっとだ。
「おい、お前。何も言う事はないのか?」
アーウェンが尋ねてくる。
やっと弁明する機会を与えてくれた。口を動かすのも正直しんどいが、俺はなんとか言葉を吐き出す。
「俺は・・・何もしてません・・・アマネさん達もそう証言・・・」
「嘘を吐くな!本当の事を言え!」
嘘も何もない。噂に踊らされてるのはお前らだろう。ちょっと調べれば
すぐに全て嘘だとわかるはず。
「本当です・・・嘘じゃ・・・」
「ええい、埒があかん!お前は反逆者だろうが!さっさと認めろ!」
理不尽過ぎる。これでは弁明も何もない。
きっと俺が認められる唯一の発言は「俺がやりました」だけなのだろう。だがそれは絶対に言っては 駄目だ。下手したら処刑されてしまう。
「まだ言わんか。なら白状するまで痛めつけてやろう。」
俺を殴るよう命令するアーウェン。
だが兵士が拳を振り上げた瞬間、取調室の扉が開いた。
「宰相殿、よろしいですか。」
「む・・・どうした。」
入って来たのは俺を連行した審問官の男、ラフェル。
「はい、大臣達がその男の釈放を求め下ります。」




