接客2~side胡蝶~
「こんばんは、お久しぶりですわね?」
私は彼に最高の笑顔を作る。
「コハル嬢は人気だから中々予約が取れないんですよ。やっと会えました。」
「ふふ、私も貴方様に会いたかったですわ。」
今夜の客は王宮勤めの貴族。大臣の元で事務次官をしている男爵だ。つまりこの国の為政にある程度の発言権がある。きっとアマネやヨギリも自分の客に探りを入れてるはずだし、私も少しやっておきましょう。
「相変わらずお美しいですね。娼婦にしておくのがもったいない。」
「ふふ、お上手ですこと。」
私はそう言ってドレスの隙間からさり気なく足を露出させる。彼はいつも私の足や胸を見てくる。ならばその武器をここで使わない手はない。
「ど、どうですか。やはり私の妻に・・・」
やはり見てるわね。私の足がそんなにいいのかしら。
「駄目ですわ。私はここの娼婦ですもの。」
「どうしてもですか?」
「ええ、ここでないと叶えられない夢があるんですのよ。」
「ああ言ってましたね、どんな夢なんですか?」
「だからそれは内緒ですわ。」
くすくすと笑って適当に誤魔化す。ハルにすら言ってないのに、貴方にその理由を教えるわけないわよ。
「それより・・・胡蝶の大事な従業員が国に連れていかれたんですの。彼が居ないと私の夢の達成も危ういんですわ・・・。何かご存知ですか?」
そろそろ良い頃合いだろう。少しハルの事について探りを入れて見よう。
「ああ・・・小耳に挟みました。国家反逆罪だって王宮で騒いでおりましたよ。」
「ええ、貴方のお力でなんとかなりません?」
上目遣いでおねだりするように彼を見つめる。この技を使えば大抵の男なんて思い通りに 出来る。男ってほんとに馬鹿なんだから。でも何故かハルには「これ」通用しないのよね・・・。なんでかしら。
「そ、そうですね・・・コハル嬢が困っているのであれば力になるのは吝かではありませんが・・・」
もう一押し必要のようね。
「貴方様が助けてくださるなら・・・今夜は私、沢山・・・あっ・・・いえ何でもないです・・・」
頬を染め、俯きながら彼を誘惑する。
「わ、わかりました。何とかしてみましょう。でもコハル嬢の為にですからね?その男の事なんて私は正直どうでもいいんですから。むしろコハル嬢の側からいなくなってせいせい・・・あ・・・失言でした、忘れてください。」
あら、何でそんなに怯えているのかしら。でもよかったわ。それ以上言ったら殺してしまうかもしれないもの。
「ふふ、ありがとうごうざいます。よろしくお願いしますわ。」
「は、はい。コハル嬢の為なら喜んで。その分今日は・・・」
「ええ、わかっておりますわ。さあ、おいでくださいませ。」
そう言って私は両手を軽く広げる。
私の役に立ってくれるんですもの。一夜の恋愛ごっこくらいには付き合ってあげましょう。でも貴方が私に触れられると思わないことね。私に触れていいのはハルだけよ。
* * *
「さてユイカよ。ハルの様子はどうなのじゃ?」
アマネが尋ねる。
胡蝶の営業が終わり、嬢達待合室に集まっている。いつもの終礼の為ではない。全員がハルの事が心配だからだ。
「は、はい・・・その・・・えっと・・・」
ユイカがチラチラとコハルの方を見ながら口籠る。何か彼女に言うと不味い事でもあるのだろうか。
「どうしたの?私なら大丈夫よ、ユイカ。」
「せやで、ハルの状況、教えてや。」
胡蝶の営業が終わったと言う事は、ハルが連れていかれてから一夜過ぎたと言う事だ。つまりハルは昨晩の内に釈放されなかった。一夜を国の施設で明かしたのだ。
「えっと・・・その・・・ 身体がこう・・・ムズムズするのです。ハルさんの様子を『見てる』と・・・」
「どういう事かしら。ちゃんと説明してくれない?」
よくわからないとコハルが首を傾げる。
「あの・・・ハルさんが監禁されてるお部屋は・・・汚くて・・・む、虫がいっぱい・・・」
「・・・い、い、い、いやあああああああ!!!!」
虫と聞いた瞬間コハルが叫ぶ。
「ヨギリ!このアホを抑えるのじゃ!」
「わかっとるわ!アマネも手かしてや!」
こんなところで消滅魔法とか発動されては不味い。慌ててコハルを取り押さえるアマネとヨギリ。
「ここには虫はおらん!だから消滅魔法はやめるのじゃ!」
「はぁ・・・はぁ・・・そ、そうよね。うん、そうよね。ごめんね、ちょっとだけ取り乱してしまったわ。」
どこがちょっとだと呆れ顔のサクヤ達。
「ほんまコハルはアホやな・・・でもまあハルの状況は許せんわ・・・!」
「そうよ!む、虫と一緒にハルさんがいるなんて・・・ダメ!今すぐ助けにいかなきゃ!」
胡蝶を飛び出そうとするコハルをアマネが首根っこを掴んで止める。というかコハル1人で行かせたら、ハルが囚われている部屋に辿り着くまでに国の施設ごとハルを消滅させかねない。
「ええい、落ち着くのじゃ。ユイカの報告を聞くのが先じゃ。」
とりあえず続きを話せとユイカを促すアマネ。
「は、はい・・・えっと・・・ハルさんが帰れなかったのは取り調べが・・・未だだからです。」
ハルが連れて行かれたのは胡蝶が開店する少し前。つまり夜の7時過ぎだ。そんな時間に役人連中が当然働いているはずもなく、取り調べは今日かららしい。
「あと・・・取り調べは宰相が・・・でもいなかったらしいので・・・」
「ああ・・・あの阿保はわらわの昨夜の客じゃったからの。胡蝶にいるんじゃから取り調べなんぞ出来ん。」
アマネは溜息を吐く。
「そういやそうやったわ。そいつはハルについてなんか言ってたん?」
「うむ・・・どうやらわらわ達の為にハルを処理しておくと言っておったのじゃ。」
そもそも宰相が取り調べをするのが異常だ。普通であれば審問官がする事だろう。それ程までにハルを処分したいのか。
「そいつ殺しましょ。生きてる価値ないわ。」
「うん、それがええわ。そんな阿保と同じ空気吸ってるだけでも嫌やわ。」
コハルとヨギリが即断する。過激な意見だが、他の嬢達も異論は一切唱えない。つまり全員同じ気持ちと言う事だ。
「まあ殺すにしろ、先ずは取り調べの内容を聞いてからじゃな。ユイカ、引き続き監視は頼んだのじゃ。」
「はい・・・任せてくださいっ・・・!今もばっちり『見て』ますっ・・・!」
ユイカが可愛らしくガッツボーズする。
「そういえばヨギリ姐さん達も客と何か話したんですか?」
サクヤが思い出したかのように尋ねる。ちなみにサクヤ達も自分の客にそれぞれ探りを入れたらしい。
「もちろんやよ。うちの客にはハルの事を何とかしてやって頼んだんや。」
「私もよ。だけど昨日の今日じゃまだ無理よね。」
ヨギリとコハルが客との一部始終を説明する。
「ふむ・・・そいつらに多少は期待してみるとするかの。」
あの宰相は使えなかったが、ヨギリ達の客が動くというのであれば引き続き様子見でいいだろう。今からアマネ達が乗り込んでハルを助けてもいいが、それをするともうこの国にはいられなくなる。
「わらわ達が動くのは最終手段じゃ。ハルには悪いがもう少し辛抱してもらうのじゃ。」
「ちなみにハルさんは・・・案外大丈夫です。ぐっすり寝てます・・・」
ユイカがハルの状況を説明する。
何でもハルは牢獄の衛生状態なんて全く気にする様子もなく、すやすやと寝ているらしい。
「なんていうかハルは凄いわ・・・ようそんな状況で寝れるわ。」
ヨギリが呆れ顔だ。
「ほんとよ・・・何でそんな環境で熟睡出来るのよ。頭おかしいわよ。」
虫がいる中で寝るなんてコハルにとってはありえない事なのだろう。戦々恐々といった表情を浮かべている。
「アマネ姐さん達の魔法のおかげでしょう。それでもハルさんの神経の図太さには呆れますけどね・・・」
さすがのサクヤも複雑な表情だ。
「まあ前住んでた場所で慣れてるんじゃろ。それにずっとわらわ達と一緒に胡蝶を切り盛りして来たんじゃ。ちょっとやそっとの事で動じるやつではないしの。」
アマネの言葉にそれもそうですねと納得するサクヤ達。
「ではユイカ、また今夜にでもハルの状況を教えてくれ。それまでしっかりと体を休めておけ。では解散じゃ。」




