審問官 ~side胡蝶~
「アマネ姐さん、何故ハルさんを行かせたのですか。」
サクヤは納得のいかない表情でアマネに問う。いや、アマネだけではない。ユイカやサラといった他の嬢達も、ハルを審問官に連れて行かせたのには納得していない様子だ。
「仕方なかろう・・・ハルにああ言われてはな。」
それに・・・と言葉を続けるアマネ。
「あの男の言う通り、すぐに釈放されるならそれが一番じゃからの・・・」
勿論アマネだってハルの事が心配だ。絶対に行かせたくなかったし、最後までラフェルに抵抗していたのが何よりの証拠。ただもう少しで胡蝶の目標が達成されるのに、騒ぎを起こしたくないという気持ちがアマネにはあった。平和的に解決できるのであればそれにこしたことはない。
「そうですよね・・・すいません、つい感情的になってしまいました。」
まあそんな事はアマネが説明するまでもなく、サクヤ含めた嬢達全員が分かっている事だ。アマネに苦言は呈したものの、彼女達だってをハルを引き留めなった。力ずくでラフェルを始末する事だって難なく出来ただろう。だが誰もそれをしなかった。その時点で全員が同罪だ。
「でも万が一が・・・と思うと心配でありんす・・・」
「そうですわね、あの時止めてればなんて後悔したくないですもの。」
ヨギリやコハルもアマネの決断に異論はない。ハルを審問官に同行させ、様子を見るというのが最善だというのはわかっている。ただやはりハルが心配だ。
「まあ愚王じゃしの・・・何があるかわからんのじゃ。」
「ではどうするんですか?まあ聞くまでもないんですが・・・」
サクヤが一応教えてくださいとアマネに尋ねる。
「うむ、当然やることは決まっておる。・・・ユイカ、わかっておるの?」
「は、はい・・・す、既にハルさんに『目』はつけてあります。大丈夫です・・・!」
「何かあったらすぐに報告するのじゃぞ。いざという時はわらわ達が動けばよい。」
アマネが指示するまでもなく、既にハルの監視は万全らしい。
「まあここはユイカになりますわね。」
「そうでありんすね。しかしユイカのそれは本当に便利でありんす。」
コハルとヨギリがどこか安堵の表情を浮かべている。
「そ、それはあの・・・私の種族の特性です・・・から。」
「そうじゃの。ユイカ、頼りにしておるぞ。しかしハルがお主の種族を知ったらどんな反応するか楽しみじゃな。」
アマネが楽しそうにくくくと笑う。
こんな時に冗談なんてアマネらしくないが、きっと彼女なりに嬢達の緊張を解そうとしているのだろう。一番気が気でないのはアマネのはずなのだから。
「き、嫌われたり・・・しちゃいますか・・・?」
「大丈夫ですよ、ユイカ。私達の可愛い弟はそんな人ではありません。」
「そ、そうですよね!」
サクヤの言葉によかったと微笑むユイカ。
「そういえばヨギリ姐さんやコハル姐さんもハルさんに何かしてましたよね?」
「当然でありんす。」
ハルがすぐに帰って来られるのなら必要ないが、そんな保証はどこにもない。あらぬ疑いをかけられ保釈されない場合に備え、ヨギリとコハルは最低限の補助魔法をハルにかけておいた。
「わっちがハルにかけておいたのは体温調整補助魔法でありんす。」
ハルが夜を明かす場所が快適だとは限らない。むしろ牢獄などに監禁されそうだとヨギリは予想し、ハルが風邪などひかぬようにとこの魔法をかけた。寒くもなく、暑くもなく、丁度いい気温で過ごせるようにする為の魔法。
「まあ既に国家反逆罪があらぬ疑いなんでありんすけどね・・・」
「本当ですわよ。・・・あ、ちなみに私は基礎代謝の魔法ですわ。」
そしてコハルがハルにかけたのは、体内の代謝を下げる魔法。この魔法をかけておけば、数日飲まず食わずでも空腹を感じる事はない。さらには生命維持もばっちりで、1週間程度なら栄養失調や脱水症状の心配もない。
「ハルさんは碌に食事もとらせてもらえないでしょう。それにどうせ与えられるご飯も衛生状態はよくないですわ。」
「そうですね。さすが姐さん達です。安心しました。ちなみにアマネ姐さんは?」
アマネも何かしらの魔法はかけているはずだと予想するサクヤ。
「当然じゃ。わらわがハルにかけておいた魔法は衛生魔法じゃな。」
アマネの魔法は、簡単に言えば、病気にかからないよう体に付着する菌や体内に侵入する菌を滅菌する魔法だ。風呂に入らなくても全く臭わないし、衛生状態もばっちり保てる。
「どうせハルが監禁される場所は汚いのじゃ。それにハルが帰ってきた時・・・臭かったらいやじゃしの。」
「ああ、帰ってきてすぐに抱きしめられるようにですね?」
「ち、ちがうじゃ!そういう意味ではないぞ!!!」
サクヤの指摘に顔を赤くして必死に否定するアマネ。
「相変わらず可愛いですね、アマネ姐さん。」
「う、うるさいのじゃ!悪いか!ハルが心配なんじゃからいいじゃろうが!」
「冗談です。でもこれでハルさんが万が一戻れなくても大丈夫ですね。」
アマネやヨギリ達の過保護ぶりには呆れるが、今回ばかりはそんな彼女達に感謝だ。可愛い弟がちゃんと守られているのであればサクヤ達も安心できる。
「まったく・・・とりあえずハルが何事もなく今日中に戻ってくるといいのじゃが。もし戻って来なかったら・・・」
アマネの表情が一変する。そしてヨギリとコハルもこの世の物とは思えない恐ろしい形相を浮かべている。
そう、この国の為政者達はまだ知らない。絶対に敵に回してはいけない者がこの世にはいると言う事を。そしてその者達の宝物を彼らは奪っていったと言う事を。ハルの扱いを一つ間違えれば・・・
「ふぅ・・・いかんの。つい感情的になってしまうのじゃ。ひとまずわらわ達は娼婦の仕事をするとしようかの。」
「そうでありんすね。とりあえず様子をみるといたしんす。」
「ええ、問題が起こったらまた考えればいいですわ。」
アマネ達は表情を和らげ、深呼吸をする。
「はい。ハルさんが帰ってきた時の為にまたご飯でも作っておくとしましょう。いいですね、みなさん?」
サクヤがそう提案すると、ユイカやサラ達が元気よく賛成と声を上げる。
「ではそろそろ開店するのじゃ。今日もよろしく頼むぞ。」




