審問官~sideハル~
「あの、どちらへ行くんでしょうか。」
「うるさい!お前は黙ってついて来ればいいんだ!」
ラフェルとかいう審問官の男に思いっきり蹴飛ばされる。
「す、すいません。」
質問すら駄目なのか。まあいつもコハルに蹴られてるおかげでこいつの暴力なんて屁でもない。だが扱いが完全に犯罪者なのはどういう事だ。胡蝶から出た瞬間から俺に対する扱いが粗暴になりやがった。
きっとアマネ達の前だったから大人しくしていたのだろう。この男はアマネに相当惚れている。だから彼女を不機嫌にするような真似はしたくなかった。そう言う事か。
(胡蝶を出れば関係ないってことか・・・まあそうだよな)
俺は小声で呟く。
結局、胡蝶で暴れている客と同じように、この男は俺が気に入らないのだ。こいつもあの下らない噂に踊らされている人間の1人なのだろう。
「あ?なんか言ったか!この愚図が!さっさと歩け!ったく・・・なんでこんなのがアマネ嬢のお気に入りなんだか!気に食わねえ・・・」
どうやら噂云々じゃなく、アマネの側にいる俺が単純に嫌いらしい。
だがこっちは仕事でアマネ達といるだけだ。なのに何故嫉妬されなきゃいけないんだ。アマネ達とデートしていたとかなら嫉妬するのもわかる。だが俺はそんな事は絶対にしない。逆恨みを避ける為、アマネ達とはプライベートで付き合わないようにしているのだから。
想像だけで逆恨みしやがって。俺の努力を返せ。
「いえ、私はただの従業員でして・・・お気に入りというわけでは・・・」
「うるせえっていってんだろうが!どうせアマネ嬢と食事とか行ってんだろ!」
だから行ってないんだ・・・と否定したいが、最近はやたらとアマネ達が誘ってくるので、完全には否定出来ないところが悔しい。ただそれでも出掛ける際は周囲にバレないよう、細心の注意を払っていたから問題はないはずだ。
「いえ、そんな事はありません。」
「嘘つけ!アマネ嬢に可愛がられてあんなことやこんなことを・・・!」
ねえよ。こうなるのが嫌だからしないんだよ。
そもそもアマネ達に手を出すなんてもってのほかだ。彼女達は俺なんかが釣り合うような女じゃない。あれは高嶺の花だ。側にいられるだけで満足すべきだし、それ以上の望みなんて抱くだけ無駄。俺を弟のように可愛がってくれているだけで十分に幸せだ。
「糞が。歩けってんだろ!」
そう言ってラフェルは俺の事を再度蹴飛ばしてくる。
でもこいつにはそんな事言うだけ無駄だろう。何を言ったところで信じはしない。恋は盲目とはよく言ったものだ。
「はい。」
しかしこっちはちゃんと歩いてるのだから八つ当たりしないでもらいたい。
それから30分くらいは歩かされただろうか。俺は街の外れにあるとある場所に連れて来られた。薄汚い塀が何らかの施設を取り囲んでいる。ただこの辺りは来たことがないから土地勘が全く無い。これが何の施設なのかはさっぱりだ。
「ここだ。さっさと入れ。」
塀の一部に作られた扉に入るよう命令される。
「あの、ここは・・・?」
「あ?監獄兼処刑場に決まってんだろ!」
そう言って俺の背中を殴るようにして中へ押し込まれる。
監獄兼処刑場だと・・・。つまり俺はここに収監され、取り調べの結果次第では処刑されるという事なのか。まだ何の弁明も弁解もしていないのに、この扱いはなんなんだ。だがここで取り調べをすると銘打たれた以上、何も言えない。
「わ、わかりました。それで取り調べは・・・いつやるんですか?」
「あ、しらん?おい、そこの兵士!こいつを牢屋にぶちこんでおけ!」
なんだそれ。俺は今日中に胡蝶へ帰らないといけないんだよ。
「あの・・・早く身の潔白を証明して帰りたいのですが・・・」
「お前の取り調べは特別に宰相殿がやるんだとよ。だが宰相殿は今夜は胡蝶でお楽しみでな、取り調べは明日じゃないと無理だ。諦めろ。」
ラフェルがにやにや笑いながら教えてくれた。どうやら俺を絶望させて楽しもうとしているのだろう。
しかし人を冤罪で取り締まっておいて自分は娼館遊びとは一体どういう了見だ。大体宰相が一般市民の俺を取り調べるのがそもそもおかしいだろう。
「宰相殿が早く来るよう牢獄で祈っておくんだな!」
俺はそのまま衛兵らしき兵士に身柄を引き渡され、地下にある牢獄へと連れていかれた。どうやら今日は人生最大の厄日らしい。




