変化
俺の袋叩き事件から数日が過ぎた。当然胡蝶は変わりなく営業中だ。
「やばい、俺の自由がないぞ・・・!」
あの事件以降、嬢達の護衛と言う名の監視が凄い。出掛ける時は必ず2人体制で護衛されるし、胡蝶でも常に誰かしらが俺の側にいる。
「あら、こんな美人が側にいてあげているっていうのに文句あるのかしら?」
喜びなさいとコハルが睨んでくる。
まあ感謝はしている。ただそれを素直に認めるのはなんか癪だ。
「コハル・・・それ自分で言ってて恥ずかしくないの?」
「う、うるさいわね!!!この!この!」
照れ隠しなのか知らないが、コハルが蹴飛ばしてくる。
「だからお前!そのすぐに蹴る癖を治せ!」
先も言ったように、側にいてくれるのは嬉しい。護衛についても感謝している。だが俺に対する暴力が最近酷い。特にコハル。
「あとなんでいつもいつも俺の部屋に来るんだよ!?」
何故か最近はずっとアマネ達が我が物顔で俺の部屋に居座っている。部屋までついて来なくてもいいのに、アマネ達が俺の言い分を聞いてくれる分けもなく、ここ数日は寝る時くらいしか1人の時間がない。
今日ももうすぐ胡蝶開店の時間。それまで自分の部屋でだらだらしようと思ったのに、こいつらのせいでゆっくりできない。というか俺が起きたら既にアマネ、コハル、ヨギリの3人がソファーで寛いでいやがった。
「そもそもお前らいつきたんだよ!?」
「少し前じゃ。可愛い寝顔じゃったぞ?」
「せやで、ハル可愛かったわぁ。」
アマネとヨギリは嬉しそうだが、俺はまったく嬉しくない。
前言撤回だ。どうやら寝てる時ですら俺に1人の時間はないらしい。
「勝手に入って来るなよ!俺もアマネやヨギリの部屋にも入るぞ!いいのか!?」
「ん?別にええで?」
いいらしい。
どうやらこいつらには乙女の恥じらいという物がないようだ。さすが数百年も生きてる化け物・・・
「ふんっ!」
もの凄い形相のコハルに蹴られた。
「おい!だから蹴るなって言ってるだろうが!」
「ハルさん、今何考えたの?怒らないから正直に言ってみなさい。」
「・・・コハルは乙女の恥じらいを忘れたババアだなって。」
「死になさい!今すぐ死ね!」
「お、怒らないって言うから言ったのに・・・!」
コハルが本気で鳩尾に膝蹴りをいれてきた。
「それは・・・ほんとに・・・い、いたい・・・から・・・」
俺は痛みのあまり蹲る。
そして今度は蹴りが飛んできた。
「お主には教育が必要なようじゃな!!!」
「誰が化け狐や!?覚悟しいや!」
コハルだけじゃなく、アマネやヨギリまで蹴ってくる。
「・・・痛い、痛いから!・・・ほんとに!!!」
こいつら何なんだ。なんで俺は身内から袋叩きにあってるんだ。
もう1回言うが、本当に最近俺に対する暴力が酷い。
「それはわらわ達のセリフじゃ!」
「そうやで!あんたのうちらに対する扱いが酷いからやで!」
まあ・・・確かにそれは一理ある。
「最近よく一緒にいるからかな。」
「そうね。ちょっと前までは仕事以外でほとんど話さなかったもの。ハルさん仕事終わるとすぐ帰っちゃうんだもん。」
コハルの言う通りだ。嬢達のプライベートを邪魔するのもどうかと思い、仕事が終わったらすぐに帰るようにしていたのだ。だからアマネ達とこんなに話すのは初めてかもしれない。
「せやね。でもサクヤらは掃除の日にこーへんから余計ちゃう?」
「確かにそうだな。」
アマネやヨギリ達は俺が彼女達の部屋を掃除する日にも必ず胡蝶に来る。だから月1くらいで多少の雑談はしていた。だがさすがにサクヤ達は来ない。だからほとんど話す機会は無かったのだ。
「でも常に俺の護衛にはついてたんだよな・・・?」
「うむ。だからわらわ達はお主のこと色々知っておるのじゃ。」
「ああ・・・道理で・・・」
全ての謎が解けた。「ハルさんはあそこの料理好きなんですよね?」とか俺の趣味趣向をサクヤ達に言い当てられたりしてずっと不思議に思っていたのだが、こう言う事だったのか。つまりだらしない格好で家へ帰るところとか、1人寂しくご飯を食べるところとか、それを全部見られてたと言う事だ。
もの凄く恥ずかしい。
「あ・・・俺が寂しそうにしてたからコハルは声かけてきたのか?」
「・・・そうよ。だって寂しいじゃない。」
そういうことか。どうやらコハルは俺がずっと1人で過ごしていたから、気遣って食事に誘ってくれたのだろう。アマネ達に怒られるのを覚悟の上で俺と食事をしてくれた。
「さすがコハル姉さん。ありがとね。」
「うふふ、そうよ。もっと褒めてもいいのよ?」
一緒に食事なんて何事かと思ったが、今思うとコハルには感謝だ。おかげでアマネやヨギリ、そしてサクヤ達とすっかり打ち解けられた。まあ元々仲良かったし、みんな優しかったが、色々と話を出来るようになったのは間違いなくあれが切欠だろう。
「ハル、騙されたらあかんよ。コハルは我慢でけへんかっただけや。」
「そうじゃぞ。こやつは隠れて護衛するのが嫌だっただけじゃ。」
「まあ・・・そうだったとしてもありがたいよ。胡蝶での仕事が楽しくなった。勿論今までも楽しかったけどね。」
「そうなの?ふふ、それなら私としても嬉しいわ。」
この世界に来て初めて出来た俺の居場所。それが胡蝶。アマネに拾われ、ここで働き始めてからは毎日が楽しい。どんなトラブルに見舞われても、アマネ達と仕事が出来るからいつも充実している。
「だからここ数日は余計楽しいんだよね。」
「くく・・・お主はほんとに面白いやつじゃの。」
アマネが苦笑する。
「ハル・・・殴られるのが好きなん?うちが殴ったろか・・・?」
「変態だったのね・・・私ももっと蹴った方がいいのかしら。」
やめろ。そんな優しさは要らない。
「そういう意味じゃない。俺を蹴るのはやめろ。」
「わかっておるのじゃ。毎日あんな目に合ってるのに、楽しいと言えるハルが凄いという事じゃ。」
まああの事件の日以来、俺は毎日客に殴られているしな。
「せやで、うちらのせいやのに・・・かんにんな。」
「ハルさんごめんね?」
アマネ達は申し訳なさそうにしているが、俺は本当に全く気にしていない。確かに殴られるのは痛いし、不当な噂には不満しかない。だがすぐにコハルやヨギリが駆けつけて魔法で癒してくれる。それに皆必死に噂を鎮静化させようと動いてくれている。感謝はすれど、文句なんてあるはずがないだろう。
「噂もすぐ無くなるだろ。だからアマネ達は何も気にしなくていいぞ。」
「ん・・・まぁ・・・そうか・・・そうじゃの。」
どこか歯切れの悪いアマネ。
「どうした、アマネ。何か心配事でもあるのか?」
「あ、いや・・・なんでもないのじゃ!」
「・・・そう?それならいいけど。」
何か隠している気がしなくもないが、アマネが何でもないというなら気にしなくてもいいか。大体娼婦の仕事の気苦労なんてわからない。俺には想像も出来ないような事が沢山あるのだろう。
「では・・・そろそろ開店ですね。それではアマネさん、コハルさん、ヨギリさん、本日も宜しくお願いします。」
俺はソファーから立ち上がり、口調を切り替える。
「うむ。まかせておくのじゃ。」
「ええ、もちろんですわ。」
「わっちらの心配はいりんせん。いつも通りでありんす。」




