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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第一章 胡蝶編
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今後

「ユイカ、戻ったで・・・ってみんな帰ってるやん。」

 

 ヨギリやサクヤ達がゴミ掃除を終わらせ胡蝶に戻ると、アマネやコハルを含め、ほとんどの嬢が既に待合室に揃っていた。


「うむ、連絡を受けての。急いで戻って来たのじゃ。」

「そうよ。ハルさんが起きたらお説教しなきゃいけないしね。」


 どうやらヨギリ達だけでなく、アマネやコハル達もハルに文句を言いたいらしい。まあそれも当然だろう。アマネ達があれほどハルに1人で出歩くなと言ったのに、勝手に出かけた上、袋叩きにまであっていたのだから。


「それにしても・・・まだユイカが介抱してたんですね。てっきりアマネ姐さん辺りがやってると思ったのですが。」


 ユイカに膝枕されながらすやすやと眠るハル。それを見たサクヤは意外ですと驚く。


「わ、わらわに譲ってくれんのじゃ・・・」

「えぇ・・・そこそんなに凹むとこですか・・・?」


 悔しそうに呟くアマネにサクヤは呆れ顔だ。


「ハ、ハルさんは・・・私が・・・面倒見ます・・・」

「ユイカがずっとこんな感じなのよね。どうも責任を感じてるみたいなの。」


 諦めたように肩を竦めるコハル。きっと彼女も代われとユイカに散々言った後なのだろう。


「それを言うなら私もなんですけどね・・・」

「まあそれはしょうがないのじゃ。サクヤだけじゃなくマシロ、ユキ、そしてサラも責任を感じておろう。ハルを殴ったのはお主らの客じゃしな。」

 

 もう気にするなとサクヤ達を励ますアマネ。


「とりあえずハルが起きるまで話の続きをするのじゃ。」

「そうね、そうしましょ。」



 * * * 



 アマネ達は早速秘密の会議を再開する。勿論「秘密」とは「ハルに対して秘密」という意味だ。


 実はハルが飲食街へと出かける前、嬢達は全員アマネの部屋に集まっていたのだ。鍵をかけ、防音魔法までかけて。まあそれが裏目に出てしまったのだが。仕事が終わり自室へ引き上げたハルがまさか外出するとは誰も思わず、アマネ達は彼の監視を疎かにした。そのせいでハルが出かけた事に気付くのが遅れたというわけだ。


「わらわのミスじゃ。すまんのハル・・・」

 

 アマネがボソッとハルに呟く。


「それを言うなら私もよ。ねえヨギリ?」

「せやね。先の事ばかり心配して目の前の事忘れてもうたわ・・・」


 コハルとヨギリも後悔混じりに溜息を吐く。


 アマネ達が集まって話していた事は勿論「ハルの噂」についてだ。それを全員で議論していたら、いつの間にかハルの気配がしないと気付き、アマネ達は大慌てで街へと飛び出した。


「サクヤ・・・わらわはどこまで話したかの?」

「はい、月次報告会議の内容を教えて頂いたところです。ハルさんが『噂は大して気にする必要はない』と言い、姐さんが『それでいい』と言ったところだったかと。」

「そうじゃったな・・・」


 なら続きを話そうとアマネが咳払いを一つする。


「せや!なんでアマネはあそこで否定せんかったんよ!」

「そうよ!ちゃんと言ってればこんな事になってなかったもしれないわ!」


 ヨギリとコハルはアマネがあの時ハルの認識を改めなかった事が不満らしい。


「お主ら少し冷静になるのじゃ。否定してもこうなっておったじゃろ・・・」


 そう、ハルが襲われたのは偶々だ。偶々ハルの顔を知っていた冒険者が、偶々あの噂を信じてしまい、偶々通りかかったハルを見つけて袋叩きにした。偶然が重なっただけ。噂は確かに想像以上に拡散しているが、まだ信じてない者の方が多い。だからハルの言う通り、まだ大騒ぎする必要はなく、無視するのが一番だ。


「街の噂については放っておいてよかろう。わらわ達がしっかりハルを守ってやればよいのじゃ。まあ・・・今日はやらかしたがの・・・」


 アマネ達がハルに「ご飯はどうする?」と聞いてあげればよかっただけ。それを全員が忘れていたからこの状況を招いたと言ってもいい。


「せやね、勝手に外出したハルもアホやけど・・・うちらもアホやわ。」

「私達の方がお姉さんなのにね・・・ダメね。」


 ヨギリとコハルがうな垂れる。


「まあ過ぎた事を悔やんでもしょうがないのじゃ。今後はちゃんと守ってやろう。」


 アマネの言葉に嬢達全員が力強く頷く。


「では話の続きをするぞ。わらわがハルの認識を正さなかった事についてじゃが・・・」


 ハルは自分の噂が為政者達の耳に届いている事をさほど重要視はしていなかった。普通の為政者であれば確かにその認識で問題ないだろう。


「だがお主らも知っての通り、この国の連中は阿保ばっかじゃ。国王を筆頭にな。あやつらがこの噂を聞いてどんな暴挙にでるか・・・わらわにも想像つかん。」

「では何故ハルさんに言わなかったんですの!?」


 納得がいかない様子のコハル。


 ハルはこの世界、この国の事を全く知らない。国王が愚王だと言う事も、側近連中が役立たずだと言う事も知らない。まあそれはアマネ達が教えていなかったからという理由もあるのだが、それは今はおいておこう。


「コハルよ、言ったところでどうなるのじゃ。何も変わらんじゃろうが。」

「そ、それは・・・」


 アマネはハルに余計な心配をさせたくなかった。だから言わなかった。


 為政者達は暴挙に出るかもしれない。ハルを抹殺しようと動くかもしれない。だがハルがそれを知ったところで何が出来ようか。戦闘能力もない魔法も使えないハルに出来る事なんて何一つない。


「不安だけ与えてどうなるというのじゃ・・・」

「せやけど・・・!うちらがついてるって安心させればええんちゃうんか!?」

「ならそれだけ言ってやればよかろう。何も怖がらせる事はあるまい。」


 正論だ。アマネの言う事は正しい。その証拠に、ヨギリとコハルだけでなくサクヤ達も、一言もアマネに反論しない。全員ちゃんとわかっているのだ。結局自分達でハルを守ってあげるしかないと。


「よいな。全員いつも以上にハルの事を気にかけておくのじゃ。それに後少しじゃ・・・。後少しで目標も達成できる。そしたらこんな国ともおさらばじゃ。」


 アマネの言葉に頷くサクヤ達。


 そう、後少し。後少しで解放される。


「ねえ・・・ちなみにその時が来たらハルさんはどうするのかしら?」


 コハルがどこかソワソワした様子でアマネに尋ねる。


「当然つれてくのじゃ!!!ハルにはわらわがいないと駄目じゃからの!!!」


 うんうんと満足気に頷くアマネ。


 当然それに納得するわけがないコハルとヨギリ。


「あら、アマネは好きに生きていいのよ?ハルさんは私が引き取ってあげるわ。」

「何言うてんねん。ハルはうちが引き取るって決まっとるんよ?」


 2人が同時に発言する。


「はぁ!?」

「なんやて!?」


 一瞬にしてコハルとヨギリが火花を散らし始めた。


「お主らは何をいっておるのじゃ!ハルはわらわと来るのじゃ!2人は仲良く余生を過ごすがよい!」


 自分とハルの邪魔をするなとアマネが叫ぶ。


「はぁ!?なんで私がこんな狐なんかと余生を過ごさないといけないのよ!」

「うちかて願下げやわ!ハルはうちと過ごすねん!あんたらはどっか消えてや!」


 そんなアマネ達の様子に「また始まった」とサクヤ達は呆れ顔だ。


「だからその阿保みたいなの止めてくださいませんか。私達の可愛い『弟』を今の姐さん達のような人に任せたくないんですが。」


 サクヤの言葉に「そうだそうだ」と口を揃えて同意する嬢達。


「ん・・・うるさいな・・・」

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