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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第一章 胡蝶編
42/106

表裏

 誰かの声が聞こえた。そして同時に体を抱きかかえられる。


 どこか懐かしくて優しい香りがする。俺は気力を振り絞って顔を上げる。するとそこには薄水色のショートヘアの女が優しく微笑んでいた。


「・・・ユイ・・・カ・・・?」

「は、はい。ユイカです。」


 ああ、なるほど。ユイカが俺を抱きしめてくれているのか。


「だ、だいじょうぶです・・・?」


 さっきまで痛みで意識が飛びそうだったのに、今はどんどん痛みが引いていく。ユイカが治癒魔法をかけてくれてるのだろう。


 彼女の腕の中がとても心地いい。このままユイカに全てを預けてしまいたい。


「いいです・・・ハルさんはこのまま・・・寝てて。」


 何故だろう。ユイカの声を聞いていると不思議と眠くなってきた。とても落ち着く優しい声だ。


 でも本当に寝ていいのか。こんな状況なのに。


「いいから・・・寝ててください。」


 そっか、いいんだ。


 じゃあ後はユイカに任せよう。



 * * *



「ユイカ、寝ましたか?」

「は、はい・・・サクヤさん。」


 ハルを抱きかかえたユイカに尋ねるサクヤ。


「魔法で?」

「はい。」


 ユイカは治癒と同時に催眠魔法もかけていた。彼女に抱えられ、安心したというのもあるだろうが、ハルが眠くなったのは魔法のせいだ。


 とりあえず間に合ってよかったとサクヤが胸を撫で下ろす。


「しかしユイカが見つけるとは思わなかったでありんす。」

「ユイカさんは責任感じてましたしね。」


 そう話しているのはヨギリとマシロ。2人もどこか安堵の表情を浮かべている。


 今ここにはヨギリを含めサクヤ、マシロ、ユイカがいる。ハルが胡蝶からいなくなってると気付いたアマネ達。すぐに手分けして彼を探した。そしてユイカがハルを見つけ、近くにいたマシロ、サクヤ、ヨギリが駆けつけたというわけだ。


「勝手に出歩いて・・・主さんはあとでお説教でありんす。」

「そうですね、今回は私も混ぜてもらいましょう。」


 サクヤも一言言いたいと不機嫌そうに呟く。


「でも・・・ご飯の事忘れてた私達にも責任ありますよ?」


 マシロの指摘に気まずそうな顔をする2人。


「それに内緒会議してたから・・・」

「わ、わかってるでありんす!ハルの説教は程々にしておくでござりんす!」


 ヨギリは明らかに説教を建前にハルとお話したいだけだろう。そんなヨギリに呆れ顔のマシロ。まあヨギリとコハル、そしてアマネはハルの事が大好きなのだから仕方ないと言えば仕方ない。


「それよりヨギリ姐さん、ゴミはどうします?」

「このまま処理してもいいでありんすが・・・話くらいは聞くといたしんしょう。」

「そうですね、それがいいでしょう。」


 サクヤが同意する。処理するのは簡単だが、理由をちゃんと確認しておかないとアマネに怒られる。


「ではヨギリ姐さん、空間魔法を解除してください。」

「ようざんす。」


 そういってヨギリは軽く腕を振る。



 * * *



「な、なんだ!?何が起こった!?」


 急にヨギリ達が目の前に現れ、驚きを隠せない冒険者達。


「気にしないでおくんなまし。」


 ヨギリが使った魔法は空間魔法の一種。指定した空間の時間を止める事が出来る。ちなみにサクヤやマシロでは使う事が出来ない最上位クラスの空間魔法だ。


「だ、誰だお前ら・・・!」

「あ・・・マシロちゃんじゃん!」


 マシロに見おぼえがあったのか、冒険者の1人が声を上げる。


「ガゼル、お前知ってるのか?」

「ああ、俺が胡蝶で買った嬢だよ。マシロちゃん、俺の事覚えてる?」


 ガゼルという男の問いかけにマシロは嫌悪感丸出しの表情で頷く。


 彼女達が客の顔を忘れるというのはありえない。1度でも買われた客の顔は必ず覚えている。何故ならこれもハルが考案した接客の一環だからだ。まあハルは客の為を思って提案してきた事だが、彼女達がそれを受け入れた理由は少し違う。こういった状況になった時、きっちりと報復する為だ。もちろんハルには内緒だが。


「こ、胡蝶の娼婦だと!?でも確かに可愛い!もしかして他の女たちもか!」

「ああ!あの水色の髪の美女は知らないが・・・あの金髪と黒髪の狐人族・・・あれはサクヤとヨギリだ!胡蝶で狐人族といったらその2人しかいない!」

「ナンバー3と4じゃん!どうりで絶世の美女だと思ったぜ!」


 彼らは胡蝶の人気嬢であるサクヤとヨギリにテンションがあがってしまっているようだ。まあヨギリ達にとってはもの凄くどうでもいい事なのだが。


「ヨギリさん!俺絶対にヨギリさんを買いにいくから!待っててくれよな!」

「あら、主さんはわっちを気に入ってくれたでありんすか?」

「おう!あとサクヤさんも気に入ったから絶対買う!」

「ふふ、それは光栄ですね。」


 ヨギリとサクヤはくすくすと笑う。そんな彼女達の笑顔に男を虜にしてしまう魅力があるのは今更言うまでもないだろう。


「くぅ・・・可愛い!マシロちゃんとあの水色の髪の少女も可愛いけど、ヨギリとコハルは確かに別格だな・・・!」

「ああ、これは金貯めないと!死ぬまでに絶対買いにいかなきゃな!」


 彼らのやり取りに対してボソッと呟くヨギリ。


「それは無理でありんすね・・・」

「ヨギリさん、何か言っ・・・」


 言葉を発した冒険者の首が飛ぶ。


「なっ!?何が!?」


 さすがに冒険者を生業としているだけあって、目の前で人が死んだくらいでは取り乱さない。だが十分に緊張感を与える事は出来たようだ。残った連中は剣を抜いて身構えている。


「あんたらはここで死ぬんよ?だから無理や言うただけやで?」


 ヨギリが先程と同じようにくすくすと煽情的に微笑む。


「な、なにをした!どういうことだ!?」

「質問は1つにして頂けませんか?まあいいでしょう。」


 サクヤがわざとらしく溜息を吐く。


「私達の可愛い弟に手を出したあなた達はここで死ぬんです。」

「は・・・はぁ!?なんでだよ!」

「人の話聞いてました?『私』の可愛い『弟』を苛めたからです。」

「お、おかしいだろ!俺らはサクヤさんを助けようと・・・!」


 サクヤは優しく微笑みながら首を傾げる。


「いやだから!その男にお前らが乱暴されてるから俺らが代わりに・・・!」

「あはっ・・・なるほどそれが理由ですか。」

 

 不気味な笑い声がサクヤから漏れたことにたじろぐ男達。


「ヨギリ姐さん、もういいんじゃないですか?」

「せやね。もうええわ。」


 彼らと話す価値はないと頷くヨギリ。


 すると次の瞬間、背後から不気味な声が聞こえてきた。


「アハハ、モウコロシテイイノ?」


 ヨギリとサクヤは溜息を吐く。あの子の悪い癖が出たと。


「な、なんだ!?誰だ!?」


 冒険者の男達が身構える。この世の物とは思えないおぞましい声だ。


「ワタシダヨ」


 ユイカがハルを抱きかかえたまま、ニタァと不気味な笑いを浮かべている。


「はぁ・・・ユイカはハルを連れて先に帰り。ここはうちらがやっとくわ。」

「ナンデ?」

「いや、ハル放置してどないすんねん。あんたが守ってやらなあかんやろ。」

「ソウダッタ・・・か、可愛い弟は私が・・・守るのです。」


 いつの間にかいつもの華憐な微笑みに戻っているユイカ。そしてハルをそっと抱きかかえ、姿を消す。


「ほんまにあの子は・・・まあしゃあないか。」

「そうですね。大目にみましょう。ハルさんも寝てたことですし。」


 とりあえずユイカがハルを胡蝶へ連れて帰ってくれたので、これで安心して処理が出来る。まあハルは睡眠魔法にかかってるのであと数時間は目を覚まさないのだが。


「うちらもはよ帰りたいねん。あんたらもういらんわ。」

「そうですね、ゴミ処理してさっさと帰りましょう。」

「もう・・・私だけ蚊帳の外だったじゃないですか。私も1人やらせてくださいよ。」


 マシロが不機嫌そうに会話に入って来る。


「な、なんだ・・・何を・・・言ってんだよ!」

「お、おいガゼル!どうすんだよ!」

「さっきの見てただろ・・・!逃げるぞ!」


 残された3人の冒険者達は踵を返し、一目散に駆けていく。


「逃げられるわけあらへんやん。」


 ヨギリ、サクヤ、マシロがそれぞれ腕を振る。それと同時に冒険者達の首が飛び、血飛沫が上がる。


「ハルは許してもうちらは許さんへんねん。覚えときや。」

「姐さん、覚えるもなにももう死んでます。」

「う、うるさいわサクヤ!ほら、はよ帰るで!」


 決め台詞を台無しにされたヨギリが恥ずかしそうに叫ぶ。 


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