素顔
「ふぅ・・・いい湯だった。」
大浴場を使ったのは初めてだったが、かなり気に入った。どうりでうちの嬢達に人気のはずだ。あれは毎日でも入りたくなる。
「午後3時か・・・4時間くらいは寝れるな。」
思ったより寝られる。いつもの睡眠時間よりは少ないが、4時間も寝られれば十分だ。しかも職場はここ、通勤時間0分。ぎりぎりまで部屋でダラダラしていても問題ない。最高じゃないか。やはり引っ越したのは正解だったようだ。
とりあえずさっさと部屋に戻って寝るとしよう。
アマネ達もさすがにもう帰っただろう。
「なんでまだいるんだよ・・・」
部屋の扉を開けると、アマネ達が当然のようにソファーで寛いでいた。なんでこいつらは我が物顔でいつまでも俺の部屋にいるのだろうか。
「おかえりやで。」
「ハルさんの紅茶もあるわよ?」
「まあゆっくりするのじゃ。」
出迎えてくれるのは嬉しいが、色々とおかしい。っていうか出てけ。
「帰れ。俺はこれから寝るんだよ。」
「・・・?大丈夫よ?私達の事は気にしないで寝ていいのよ?」
何が問題なのとコハルが不思議そうに首を傾げる。本気でそう思ってるところが余計に質が悪い。
「あと・・・なんで着替えてんだよ!?」
俺が風呂へ行く前、こいつらは仕事着であるドレスや着物姿だったのに、いつの間にか部屋着になっている。まさか部屋まで戻ってわざわざ着替えてきたのか。
「ん?ちゃうで?うちらの服ここにあるし。」
「なんでだよ!なんでまだあるんだよ!?」
さっきは間違いなく片付いてた。一体どこからそんな服出て来たんだ。
「せや、言うてなかったわ。ハルが使っていいのはあそこのクローゼットだけやで?他はうちらの服が入ってるから開けたらあかんで?」
部屋の一角にあるクローゼットを指差すヨギリ。
「なんで!?」
俺の部屋なのに使用制限があるとか頭おかしいだろうが。
「な、なんでって・・・ハルはうちらの下着・・・みたいん?」
「やっぱり見たいのね!」
「お主!やはり変態なのじゃ!」
「お前らもうそっから離れろよ!?」
大体そういう「何で」じゃないだろうが。「何でお前らの服がまだこの部屋にあるんだ」ってことだろう。
「ここに置くなよ!自分の部屋に置けよ!」
「いやよ。だって自分の部屋においたら客に漁られるかもしれないじゃない。」
「そうなんよ。だからここに色々おいてたんよ?」
その理由はずるい。確かにプライベートな私物を客に漁られるのは嫌だろう。それを言われたら俺は許さないわけにはいかない。
「で、でもアマネのはないだろうが!?」
「何をいっておるんじゃ?ずっと前からあるんじゃが?」
あるのかよ。あったのかよ。全然気づかなかった。
「まあ・・・それなら・・・しょうがないか・・・」
「物分かりがいい子はお姉さん好きよ?」
くすくすと笑うコハル。
「・・・ん?いやまて・・・っていうか家に持って帰れよ!?」
危ない。上手く誤魔化されるところだった。
「はて、なんのことかの?」
「無理やでアマネ・・・さすがにハルも気付いてるわ。」
「ハルさん?勘のいい子はお姉さん嫌いよ?」
うるさい、黙れ。この確信犯共め。
「ああもういい!私物はいいからもう帰れ!」
「だからイ・ヤ・よ?」
・・・落ち着け。ここでムキになったらコハルが喜ぶだけだ。
俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
さてどうしよう。このまま問答を続けたところでアマネ達が素直に帰ってくれるとは到底思えない。だが居座れるのも困る。彼女達にお引き取り頂く良い方法はないだろうか。
そんな事を考えていたら、コハルが頬を赤らめながらこっちを見つめてくる。
「ハルさん・・・さっきからそんなに私の事を見つめて・・・エッチね?」
胸元を隠しながら煽情的に呟くコハル。
「黙れ、痴女。」
見つめてたのはお前だろうが。後、変な気分になるからそういうのはやめろ。
ちなみにコハルはネグリジェのような薄い生地のワンピースを着ており、非常に目のやり場に困る格好をしている。胸元や色んなところが今にもはだけそうでハラハラする。さっきから必死に見ないようにしている俺を褒めて欲しいくらいだ。
「・・・な、なんですって?」
「ふふ、そんな娼婦みたいな格好してたら痴女言われても当然やわ。」
ヨギリが全力でコハルを煽っていく。
いいぞ、ヨギリ。よくやった。コハルから蹴りが飛んできそうだったし彼女が喧嘩を売ってくれて助かった。
「はぁ!?ヨギリの格好だって十分はしたないわよ!」
「ち、ちゃうし!うちは清楚で可愛いやん!はしたなくないわ!」
まじでこいつら何言ってんだ。大体お前らは娼婦だろう。この2人の言い争いを聞いていると、こいつらの職業が本気で分からなくなってくる。清楚だとかはしたないとか娼婦がする会話じゃないと思うんだが。
「ハル!あんたはうちを清楚で可愛いと思うやろ!?」
やめろ。お前らのわけのわからない争いに俺を巻き込むな。
「知らん、俺に聞くな。」
ちなみにヨギリはモコモコのショートパンツとシャツを着ている。普段の着物姿の彼女とは雰囲気があまりにも違うので驚いた。
正直、ちょっと可愛い。
「ふふ、その顔はうちの事可愛いって思ってる顔やな!」
「ちょっとハルさん!私はどうなのよ!可愛いわよね!?」
だからやめろ。俺をこれ以上巻き込むな。
「お主らそこまでじゃ!ハルが困っておろう!」
さすがアマネ。やはり頼りになる。
「助かったよアマネ。飴ちゃん、食べるか?」
「こらっ!ハル!だからわらわを子供扱いするなというとるじゃろうが!」
アマネが文句を言ってきた。
だが仕方ないだろう。そんな子供扱いしたくなるようなパジャマを着ているほうが悪い。何だ猫の着ぐるみパジャマって。というか何故それを選んだ。
「なんで猫?アマネは鬼人族だろ?」
「ね、猫は可愛いじゃろ!」
「アマネいくつだっけ・・・」
「うるさいのじゃ!歳は関係ないのじゃ!」
アマネが地団駄を踏む。どうみても駄々をこねる子供にしか見えない。
しかし彼女達のこんな一面を見たのは今日が初めてかもしれない。いつもは仕事が終わって直帰していたから、アマネ達のプライベートなんて全く知らなかった。
国随一の娼婦であるアマネ達。時に優しく、時に厳しい。いつも凛としていていつも美しい。サクヤ達に姐さんと慕われ尊敬されているアマネ達はまさに十全十美な女だ。完璧で非の打ち所がないそんなアマネ達にもこんな素顔があったとは夢にも思わなかった。
「3人のこんな姿を見られるとは思わなかったな。引っ越してよかったよ。」
胡蝶に住むと決めてなかったら一生見る事はなかったかもしれない。
もしかしたらサクヤ達にもこんな素顔があるのだろうか。あるなら是が非でも見てみたいものだ。
「やだ・・・こっち見ないでよね・・・」
「あ、あんま見んといて・・・恥ずかしいわ・・・」
コハルとヨギリが胸や足を毛布で覆う。どうやら薄着でいる自分達が急に恥ずかしくなったらしい。
「まあ・・・お主になら見られても・・・いいんじゃが・・・」
アマネも俯いて何やらぶつぶつ言っている。
「よし、ここは俺も正直に言おう。」
せっかく素顔を見せてくれたんだ。俺も思っている事をはっきりと言ってやろう。
「お前らいい加減帰れ。いますぐ出てけ。」




