会議
月次報告会議。これはアマネ、コハル、ヨギリと俺が月の初めに行なっている会議だ。先月の売り上げ、客数の推移などを共有する為、俺がやろうと提案した。最初は俺とアマネだけだったが、ヨギリとコハルが店に入ってからはアマネの意向もあり、2人にも参加してもらっている。
簡単に言えば、胡蝶の管理と経営に携わる人間が参加しているということだ。アマネは経営者。俺は胡蝶の管理をしている。コハルやヨギリは経営者ではないが、胡蝶の売り上げの大半を担っている。というよりアマネ達3人の売り上げは、他の追随を許さないレベルで凄い。残りの嬢30人分の売り上げをも凌ぐ。そういう意味では胡蝶の経営に関わってるといっても過言ではないだろう。
「しかしアマネからやろうっていうのは珍しいな。」
いつもは面倒くさいと言うくせにどうしたのだろう。
だが面倒だと思うのも正直仕方のない事だ。アマネ、コハル、ヨギリは常に予約で埋まっている。空いている日なんて当然ない。そして彼女達3人が同時に休みになる事もない。つまりこういう会議は店の営業時間には当然出来ず、店が終わってからになってしまう。つまり彼女達のプライベートな時間を割いて貰ってるのだ。
「ハルとわらわ達が揃ってたからの。丁度いいと思ったのじゃ。それに・・・まあこれはあとで説明するのじゃ。」
アマネの言う通りこの4人が同時に顔を揃える事は基本的にない。朝礼や終礼では顔を合わせるが、あそこには他の嬢達もいる。この4人だけとなると、この会議くらいだろう。
「わかりました。理由は後で聞きます。それでは月次報告会を始めますね。」
「ハルさんそっちの口調で行くの・・・?」
コハルがつまらなさそうな顔をしている。
「不評なのは知っていますけど、仕事ですから。会議が終わったら戻すので今は我慢して貰えませんか?」
「仕方ないでありんすね。ならわっちもそうするでありんす。」
「わかりましたわ。ヨギリがそうするのなら私もそうしましょう。」
ヨギリとコハルの雰囲気が一気に変わる。さっきまで惰眠を貪っていたヨギリと俺を足蹴にしてきたコハルはもういない。完全に客に買われるときの2人だ。
「お主らは面倒なことをするのが好きじゃの。」
「そんな事をしなくていいアマネさんが凄いんですよ。」
アマネだけは変わらない。逆に凄い。
「くくく、お主にはそう見えるのかの?」
「え、違うんですか?」
「どうかの。客の前では違うかもしれんぞ?」
違うのか。それはちょっと気になる。客にはどんな「アマネ」を見せているのだろう。
「気になるって顔をしておるの。ならお主がわらわを買ってみればよかろう?」
「何馬鹿な事言ってるんですか。そんなお金どこにあるんですか。」
アマネを買うのに一体いくらかかると思ってるんだ。俺程度の稼ぎじゃ一生かかっても無理だ。まあ俺は胡蝶の従業員だから金があっても買わないが。
「そんな事より始めますよ。ではまず先月の売り上げ報告から。」
この会議の目的、それは勿論胡蝶をこの国随一の娼館にする為だ。売り上げ、客足を確認し、今後の経営方針、営業戦略に役立てる。後は大きな問題などがあった際、その対応方法を検討する。
「先ずは先月の売り上げですが特に変化はありません。先々月同様、総売り上げが12万3000金。内訳はアマネさんが3万、コハルさん2万5000にヨギリさんが2万3000、そして残りの嬢30人で4万5000金です。」
端数は省いているが、胡蝶の売り上げは大体こんな感じだ。例えばアマネを一晩買うには約1000金必要だ。そして庶民の1ヶ月の稼ぎは1金ちょっと。貴族だと数百金~数千金。アマネ達の稼ぎがどれほど凄いかは誰にでも分かるだろう。
ちなみに俺の稼ぎは庶民平均の1金。別に悲しくはない。・・・本当だ。
「次に客数の推移ですが、こちらも誤差程度。特に変化はありません。」
基本的な数値の報告は以上。そして本来であればこれらを元に今月の運営方向について検討するのだが、最近はその必要がない。何故なら売り上げも客数も完全に飽和しているからだ。
胡蝶の予約は常に埋まっている。そして客は一晩単位で嬢を買っていく。つまりこれ以上客が増える事は絶対にない。嬢の数を増やさない限り、売り上げも客数もこれが限界だ。まあ強引に増やすのであれば、嬢達の休みを削ればいいのだが、そもそも彼女達はほとんど休まない。俺が部屋の大掃除をする日だけだ。
それに俺としては嬢達はもっと休むべきだと思っている。だがアマネは「別に平気じゃ。わらわ達はこれでいい。お主こそ大丈夫なのか?」と逆に心配される始末。嬢達もそれで問題ないと平気な顔をしているし、アマネがこれでいくと言う以上、俺にはどうしようもできない。
「もっとアマネさん達は休んだ方がいいと思うのですが・・・」
「いらぬ。これでいいといっておるじゃろ。」
こうして毎回進言はしているのだが、答えは同じ。
「まあその・・・お、お主の気持ちは嬉しいのじゃ・・・」
「そりゃ心配しますよ。」
そういうわけでこの月次報告会は既に意味を半分失っている。会議を始めた当初は色々提案したりして盛り上りもしたが、もう胡蝶は国随一の娼館。客足が減ったとかがあれば色々検討のしようもあるが、変化がない以上、何も話す事はない。
「では問題報告に移りましょうか。」
今はどちらかと言うとこちらがメインだ。売り上げが飽和していてもこの会議を続けている理由はこれ。経営方向についての議論は必要なくなったが、それに伴いトラブルがめちゃくちゃ増えた。やはり有名娼館ともなればトラブルは付き物らしい。先日のサラの件といい、俺の噂の件といい、いつも何かしら起きる。
「そうじゃの。これについてわらわから色々あるのじゃ。」
「アマネさんが会議をやろうと言ってきた理由ですね?」
「うむ、そうじゃ。じゃがその前に、ハル。お主からは何かあるか?」




