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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第一章 胡蝶編
34/106

変態

 俺の部屋は5階。アマネの部屋の隣だ。まあ隣といっても広さはアマネの部屋の十分の一くらいだが。それでもあのアパートよりは遥かに広い。


「なんでアマネやコハルもついて来るの?もう帰って休んでもいいよ?」

「ん・・・なんとなくじゃ。」

「そうね、なんとなくその方がいい気がするのよ。」


 アマネとコハルが含みのある言い方をしてくる。さっきのサクヤといい、一体どうしたのだろう。


 嫌な予感しかしない。


「まあ別にいいけど。」


 とりあえず俺は5階まで上がり、自分の部屋へ向かう。ただここが自分の部屋だという感覚はまだあまりない。


 今日からここに住むのだ。いい加減慣れなければ。


「ノックは・・・別にいいよな?」

「お主の部屋じゃ、必要なかろう。」


 アマネが気にするなと言ってくれる。ヨギリがいると聞いているので、ノックくらいはした方がいいかと一瞬迷ったが、アマネの言う通り、ここは俺の部屋。むしろ不法侵入者はヨギリの方だ。気にする事はないだろう。


「ヨギリ、いるか?」


 ヨギリの返事はない。


 俺は扉を開け、部屋へ入る。


「なんだこれは。全然片付いてないんだが・・・?」


 俺の部屋は足の踏み場もないくらいに物が散乱していた。どういう事だ。ヨギリが俺の部屋を片付けているという話はなんだったのだ。


 ちなみに俺の部屋には窓際に大きな天蓋付きのベッドが置いてあり、中央にはテーブルとソファー。そして壁側にはドレッサーやキャビネット類が所狭しと並べられている。調度品なども沢山あり、とても豪華な部屋だ。まあこのくらいは普通なのかもしれないが、俺にしてみれば贅沢極まりない。 


「しかし・・・ゴミでないのはわかるが・・・これどうするか・・・・」


 ヨギリやコハル、そしてサクヤ達のものと思われるドレスや着物が散らばっている。不用意に触ったら彼女達の肌着とか出てきそうで怖い。これは迂闊に動かせない。そして服だけでなく、アクセサリーや香水なども大量にテーブルやドレッサーの上に置かれており、完全に女の部屋と化している。


 俺があまり使ってないのをいい事にこいつら好き勝手しすぎだろう・・・。


「おい、コハル。このゴミ持って帰れ。あとサクヤ達も呼んできて持って帰らせろ。」

「あら、ゴミとか酷いわ。これは私達の大事な商売道具なのよ?」

「そんな大事なものここにおくなよ!」


 今までは使っていなかったから大目に見ていた。だが俺は今日からここに住むのだ。もう物置部屋として使われるのは容認できない。


「ハル、やかましいわ・・・静かにして・・・」


 コハルとそんなやり取りをしていたら、どこからかヨギリの声が聞こえた。そう言えばあいつはどこだ。そもそも俺の部屋なのに「うるさい」とはどういう了見だ。


「ヨギリ!おいヨギリ!」

「あほ・・・だからやかましい言うとるやんか・・・」


 ベッドが喋っている。あれか。


 よく見ると不自然にベッドが盛り上がっている。それに尻尾もベッドからちょこんと出ている。間違いなくあれだ。


 というか本当にヨギリは何をしてるんだ。部屋を片付けているわけでもなく、あまつさえ人のベッドで惰眠を貪っているとは。


「・・・コハル、あれなんとかしろ。」

「ふふ、いいわ。お姉さんに任せなさい。」


 コハルはつかつかとベッドの歩み寄り・・・


「はぁあああああああ!!!!」


 もの凄い掛け声と共にベッドの膨らみ目掛けて全力で肘をいれるコハル。


 あの女やっぱ怖い。というか最近のコハルがまじで怖い。おしとやかで慎ましやかなお姉さんだと思っていたのに。もしかしたら俺が知っているコハルは「娼婦のコハル」で、本性はこっちなのだろうか。


「かはっ・・・」


 ベッドから断末魔が聞こえた。


「ヨギリ・・・生きてるか?」


 さすがにコハルがここまでするとは思わなかったので、ちょっとヨギリが心配になってきた。俺だったら多分死んでる。


「な、なにすんねん・・・」

「あら、生きてるわ。残念。」


 殺す気だったのかよ。


「まあ無事ならよかった。で、ヨギリはそこで何してるの。」

「お昼寝やん。見たらわかるやろ?」

「わからん。帰れ。」

「ハルは冷たいわぁ・・・」


 心配して損した。


 しかし片付けはどこ行った。部屋を綺麗にしてから寝ているのなら百歩譲ってわかる。何故こいつは何もせずに寝ているのか。


「うちがベッド片付けたったんやで?感謝しいや?」

「その分他が散らかってるだろうが!」


 多分床に散らばってる嬢達のドレスは元々ベッドの上にあったのだろう。そしてヨギリはそれを床にばら撒いた。そんなのを片付けとは断じて言わん。


「ならお詫びにうちが添い寝したるわ。」

「はぁああああああああ!!!」


 コハルが咆哮と共にもう1発肘をいれにいった。ざまあみろ。


「かはっ・・・な・・・なにすん・・・ねん・・・」


 まあヨギリのことだ、どうせ大丈夫だろう。

  

 しかしこの部屋の惨状を見る限り、やはり今日は徹夜のようだ。もうヨギリには期待出来ないし、コハルも何故か片付ける気がない。ここにあるのは2人私物のはずなのに・・・何故だ。


 まあそんな愚痴を言っても始まらないし、さっさと自分で片付けてしまうとしよう。俺はまず床に散らばっているドレスを拾い上げる。


 これは・・・コハルのだろうか?


「こら!ハルさん!そこには私の下着もあるのよ!何触ろうとしてんのよ!」

「片付けしたいだけなんだが・・・?」

「はぁ・・・これだからハルさんは。そういう問題じゃないのよ?わかる?」


 何故俺は今コハルに溜息を吐かれたんだ。おかしいだろう。だがここで怒ってはいけない。そんなのは相手の思う壺だ。俺が大人にならなければ。


「じゃあコハルが自分で片付けて。」

「え、嫌よ。」


 よし殴ろう。今すぐ殴ろう。


 ・・・待て、落ち着け。


 俺は寸でのとこで思い止まる。危ない。俺が大人になるんだった。


「じゃあ俺が片付けるから、文句言うな。」

「そ、そんなに私の下着を触りたいのかしら・・・?」

「はぁ!?俺だって出来たらそんな汚いもの触りたくな・・・」


 そう言いかけた瞬間、コハルから2,3発蹴りが飛んできた。


「っ痛!痛い!痛いから!コハルそれほんとに痛いから!蹴るのやめて!」


 というか何故俺が蹴られる側なんだ。確かに今のは失言だったかもしれないが理不尽過ぎるだろう。


「私の下着が汚いっていうの!?触りたいっていいなさいよ!」

「なんでだよ!?おかしいだろ!?」


 駄目だ、こいつには話が通じない。


 ここはもうアマネに助けを求めよう。アマネはなんだかんだで俺の味方をしてくれるはず・・・


「アマネ、頼む。なんとかして・・・」

「お主・・・コハルの下着を触りたいとか変態じゃ!変態!わらわは悲しいのじゃ!恥をしれ!」


 俺を軽蔑した目で見てくるアマネ。


 その目は地味に心に来るからやめて欲しい。そしていい加減下着から離れてくれ。


 というかアマネも駄目だ。こいつも役に立ちそうにない。


 ならヨギリ・・・


「って・・・ヨギリは・・・まだのびてる・・・」


 アマネもヨギリもコハルも駄目。もうこうなったらうちのまともな連中に助けを求めるしかなさそうだ。


「サクヤー!サクヤー!」


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