対応
「なあ、ヨギリ。トラブルは起こってないか?」
「大丈夫やよ。なんかあったらすぐ言うからハルは気にせんでええよ。」
トラブルが起こった際、すぐに対応出来るよう聴覚強化魔法をアマネにかけてもらっていると言ったが、あれの有効範囲は待合室などの共用部だけだ。こうして嬢達の部屋にいる時は効果がない。
だからいつもは部屋の扉を開け放ったまま大掃除をしている。そして時折部屋の外に出て、トラブルが起こってないか確認する。だが今日はヨギリの部屋。コハルやアマネの時もそうだが、彼女達であれば魔法で胡蝶全体の様子を探れる。
「いつも助かる。じゃあ任せた。」
なので扉は閉めているし、監視も全部ヨギリに任せている。そういう意味では休みなのに出勤してくれているのはありがたい。掃除に集中できる。
「ハルはもうちょっと肩の力ぬいてええんよ。いつも頑張りすぎや。」
「そんなことないって。ヨギリ達に比べたらずっと楽な仕事させてもらってる。」
俺は娼婦なんて経験したことないし、これからもする事はないだろう。だが間違いなく彼女達の仕事の方が数百倍は大変だと思う。
「そう言ってもらえるだけで嬉しいわ。おおきにな。」
「でも・・・トラブル起こした客を処理するのはどうかと思うぞ?そんな余計な仕事までしてるのは知らなかったんだが?」
「えっ!?な、なにを言うてんの?うちはようわからへんなぁ・・・!」
誤魔化すの下手糞か。少しは俺の誤魔化し方を見習え。
「コハルから全部聞いた。」
「あ、あんのアホ!何言うてんねん!」
「まあコハルのせいじゃない。昨日聞いたんだけどさ・・・」
街の食堂で耳にした噂話の一部始終をヨギリに伝える。
「ああ、なるほどな・・・それはまぁしゃーないか。」
「だろ?それでちょっと聞きたいんだけど・・・」
無理矢理な話題転換だったが、一応話は繋がった。昨日はコハルに上手く話しをはぐらかされ、「処理」の詳細までは聞けなかった。それにあいつに口で勝てる気はしないし、どのみちあれ以上の情報は得られなかっただろう。
「うーん・・・まあもうコハルがバラしたんならかまへんやろ。ええよ。うちがわかる事なら教えたるよ。」
「ありがとな。俺が知りたいのは、なんでそんなことしてるんだってことだ。記憶消してるんだからそれでよくないか?」
コハルは「今後も胡蝶に不利益を与える可能性のある客」を処理をすると言っていたが、そもそも記憶を消しているのだからその心配はないはずだ。まあ将来的に同じような問題を起こす可能性は確かにある。だがそしたらまた記憶を消せばいいだけではないだろうか。
そもそもトラブルが起きる主な原因は、客がうちの嬢にのめり込んでしまっているからだ。そんな金づるをおいそれと処理してしまうのは勿体ない。何故なら胡蝶に通えるような裕福な人間は無限にいるわけじゃないからだ。処理してしまったらその母数は間違いなく減る。だから俺は記憶を消す程度の対応にしているし、それがいいと思っている。
どうしてアマネ達はそこまでするのだろうか。それが昨日から気になっていた。
「よくあらへん。ハル、よう聞きや?昨日の客は胡蝶の人間に手を出したんや。そんなん許されるわけあらへんねん。」
「でもサラは手を出されてないぞ。うちの娼婦達は無傷だ。」
「はぁ?ハルは何言うてんねん。あんた殴られたやんか。あんたも大事な胡蝶の人間やねんで?」
俺の事もちゃんと仲間として認めてくれているらしい。正直このヨギリの言葉はめちゃくちゃ嬉しい。
「でもその程度で客を失うのはどうかと思うんだが。」
「その程度ちゃう。そんな客いらへんわ。こっちから願下げや。」
ヨギリが当然と言わんばかりの顔で断言した。
まさかそこまでヨギリに言って貰えるとは思わなかった。ちょっと感極まって泣きそうになってしまったじゃないか・・・。
しかしコハルの言っていた理由と少し違う気がするのだが。俺は念の為、もう少しヨギリに確認してみる。
「処理する判断はそこなのか?」
「せやで?ハルを困らせたり傷つけたら相応の報いは受けてもらわんとあかんねん!そんなん当然やろ!」
ヨギリはえっへんと誇らしげだ。
「ちなみに嬢達が殴られたり困らされたりした場合は?」
「うーん・・・まあうちらが殴られるのはありえへん。ハルが庇ってくれるしな。困らせたら・・・まぁ情状酌量で様子見ってとこやな。」
「うん・・・?じゃあ俺が被害を受けるかが処罰の基準なのか?」
「え、当然やん?ふふ、どや!うちに感謝してもええんやで!」
さあ褒めろと言わんばかりの笑顔を向けてくるヨギリ。
だがやはり昨日コハルから聞いた話と全然違う。どういう事だ。
「ヨギリ、俺コハルからは『今後胡蝶に不利益を与える可能性のある客』だけ処理するって聞いたんだけど。」
「はぁ!?・・・えぇ!?・・・えぇ!?」
おお、凄い。ヨギリの尻尾の毛がブワッってなってありえないくらいに膨れ上がっている。
「あ・・・その・・・せ、せやで!そ、そう!うちのは全部冗談やよ!うん、冗談や!コハルの理由が本当の理由や!当たり前やん!」
ヨギリは必死に否定するが、彼女の尻尾が全てを物語っている。
「ヨギリ、尻尾。」
「ち、ちゃうねん!これはちゃうねん!」
自分の尻尾を乱暴に掴み、動かないように抑え込もうとするヨギリ。だがそんな努力空しく、彼女の尻尾はぴくぴくと動いている。
「ヨギリ、もう素直になれ。誤魔化すのは諦めろ。」
「うぅ・・・ハルは酷いわ・・・うちを騙すなんて・・・しくしく・・・」
どう考えても勝手にヨギリが自爆しただけだと思うのだが・・・。しかも嘘泣きが下手過ぎて笑える。少しはコハルの演技力というか狡猾さを見習え。最近は騙されなくなったが、最初はすっかりアレに騙されたものだ。今思い出すだけでも腹立たしい。
「いいのか?そうやって俺を責めるならアマネ達にヨギリから色々聞いたって言っちゃうぞ?」
そして今日のコハルのように皆に怒られるがいい。
「ちょ、それは待ってや!それはあかん!ほんまやめて!この通りや!かんにんして!」
「どうしよっかなー?」
「くっ・・・このど畜生め!こ、こうなったらうちにも考えがあるで!」
何か思いついたらしい。ヨギリはどんな反撃をしてくるつもりなのだろうか。
「そうやってうちのこと虐めるなら・・・うちの尻尾一生触らせてやらんよ!」




