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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第一章 胡蝶編
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結論

 出勤そうそう酷い虐めを受けた気がする。うちの娼婦達がアマネの部屋に集まっていたから「これは虐めか!」と心配したのに、最終的に虐められたのが俺とはなんとも理不尽だ。


 とはいえ、アマネ達が俺の為に色々してくれていたのは嬉しかった。申し訳ないとは思ったが、本当に嬉しかった。異世界から来た俺がちゃんとこの世界に溶け込めている気がしたし、何より胡蝶の仲間として認められている気がした。


「さてあと10分で開店なんだが・・・うちの『商品』はまだか?朝礼もまだなのに・・・」


 俺は小さく溜息を吐く。それとほぼ同時に、階段から足音が聞こえてくる。


「お待たせしたでありんす。」

「仕事前なのにごめんなさいね。」


 ヨギリとコハルを先頭に、嬢達がぞろぞろと階段を下りてきた。やっと話し合いが終わったらしい。


「構いませんよ。ぎりぎりですが、遅れているわけではありませんから。」


 なんだかんだ彼女達は店の開店時間に遅れた事は一度もない。遅刻もなれけば、ずる休みもない。だから遅いなと思っても、別に心配はしていない。


「それでは皆さん今日も1日・・・」

「待つのじゃ!その前に決めなければいけない事があろう!」


 頭上からアマネの声がする。見上げると、2階のいつもの定位置にアマネが腕を組みながら偉そうに仁王立ちしていた。


「・・・いつも言ってますよね?下りてきてくださいって。」

「う、うるさいのじゃ!わらわは偉いからここでいいのじゃ!」

「終礼の時は下にいるじゃないですか。」

「お、お疲れさまは大事なのじゃ!」


 その無茶苦茶な理論はなんだ。朝の挨拶だって大事だろうが。まあアマネの不羈奔放さは今に始まった事じゃないのでもう好きにすればいい。それに胡蝶の支配人は彼女だ。雇われの俺が文句を言っても仕方ない。


「それでどうする事になったんですか?」

「うむ!決まらんかったから持ち越しじゃ!」

「なんですかそれは。ダメです、今すぐ決めてください。」


 アマネが2階にいてくれてよかった。隣にいたら間違いなく引っ叩いていただろう。大体これだけ引っ張っておいてなんだその結論は。俺を部屋から追い出しておいて結局決まりませんでしたとはどういう了見だ。


「だ、だって・・・仕方ないのじゃ!」

「何でですか?」


 せめてもの情けだ。理由くらいは聞いてやろう。


「な、内緒じゃ!」

「ふざけてるんですか。ダメです。言ってください。」

「コハル、アマネ!助けるのじゃ!ハルが虐めてくるのじゃ!」

「なに胡蝶のトップが助け求めてるんですか。プライドないんですか。」


 これで280年も生きている鬼人族だというのだから呆れる。まるで子供だ。後、目にうっすらと涙を浮かべるのは止めろ。俺が本当に虐めてるみたいだろうが。


「ちなみにハルさんはどちらがよろしいんですの?」

「そうでありんす。主さんの意見も教えてくんなまし。」


 コハルとヨギリはアマネを助けてやる事にしたらしい。しかし妹分に助けられるアマネ・・・不憫だ。


「私はそうですね・・・ここに住むほうが皆さんに面倒かけなくていいと思うんですが、それだと何か不都合でも?」

「だってそれだとハルさんとでかけ・・・じゃなくてハルさんがずっと娼館にいる事になりません?アマネや私達はそれが心配で決められなかったんですわ。」


 コハルが理由を教えてくれた。ただ最初に何か違う事を言いかけなかったか・・・?


「気のせいですわ。」

「でありんす。」


 コハルとヨギリがにこにこ笑っている。なんか気味が悪い。そして何か裏がありそうで怖い。


 でも確かにコハルの言う通り、胡蝶に住んだら外に出る頻度は減るだろう。だが別に俺は引きこもりではない。外の空気だって吸いたいし、休みの日は出掛けたりしたい。だからコハル達の心配は杞憂だ。


「出掛ける頻度は減ると思います。でもその方がコハルさん達の負担は減るでしょう?まあ外へ行く時は・・・申し訳ないですが護衛して頂ければ嬉しいです。」

「そ、それはわっちらと一緒に出掛けるってことでありんすか?」

「そうですね、別に1人でもいいんですが・・・」


 勝手に出かけたら怒られそうな気がする。コハルあたりに殴る蹴るされそうな気しかしない。俺の第六感がそう警鐘を鳴らしている。


「はい、駄目ですわね。今のハルさんが1人で出掛けるのは少々危険ですもの。でもその案には私も賛成ですわ。是非そうしましょう。」


 危険なのはお前の足癖の悪さだと言いたいが、命が惜しいので止めておく。


「それはよいのじゃ!よし、そうするのじゃ!ハル、お主は今日からここに住むがよい!異論は許さん!」

「え?本当に俺の意見だけでそんなあっさり決めていいんですか?さっきは決められなかったって言ってたのに。」

「そ、それはあれじゃ・・・その・・・なんとなくじゃ!」

「やっぱりアマネさんは喧嘩売ってるんですね、そうなんですね?」


 仕事前なのに人で遊ばないで欲しい。まったく・・・。これが無ければ本当に最高の職場なのに。


 俺は今日何度目かわからない溜息を吐く。


「ハルさん、よろしいですか?」

「はい。なんでしょう、サクヤさん。」


 サクヤが話に入って来る。普段なら俺がアマネ達と話している時は絶対に入ってこないのにどうしたものか。まあきっとアマネ達の代わりに説明をという事なのだろうが・・・どうも違和感がある。


「実はハルさんの意見を聞かず、勝手に決めるというのはやはりよろしくないという結論になったのです。そして今ハルさんの意見を聞きました。だからアマネ姐さん達はそれを採用したいのですよ。」


 サクヤが流れるように説明してくれた。どこか嘘くさい気がするが、サクヤが嘘を吐くはずもない。先程から感じてる違和感の正体はよくわからないが、とりあえず信じるとしよう。


「だから私を話しに入れてくださいと最初に言ったじゃないですか。」

「色々あるんです。そこは聞いてはいけません。絶対いけません。」


 サクヤに睨まれた。怖い。


 なんか今日は嬢達がやたら冷たい。厄日なのだろうか。


 まあどのみちあまりだらだらしている時間はない。とりあえずさっさと話を終わらせ、店を開けるとしよう。


「わかりました。サクヤさんがそうおっしゃるなら。では仕事が終わったら荷物を纏めてこちらへ引っ越します。アマネさん、それでいいですか?」

「う、うむ!それでかまわんぞ!」

「ありがとうございます。私の我儘で色々すいません。」

「いいんじゃ、ハルには世話になっておるしの。」


 そうと決まれば今日は大忙しだ。下手したら徹夜だろう。


 だがとりあえずは仕事。もうまもなく夜の9時、胡蝶の開店時間だ。


「それではみなさん、本日もよろしくお願いします。そして今日からこちらに住むので何かとご不便かけると思いますが、よろしくお願いします。では早速本日のご予約のお客様の確認ですが・・・」

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