護衛
サクヤが言うのであればそうなのだろう。よかった、胡蝶で虐めがあったわけではないようだ。しかしコハルの粗相とは・・・一体彼女はなにをしたのだろうか。
「コハルさん、お漏らしでもしたんですか?」
「なんでよ!?そんなわけないわよ!?」
コハルが叫ぶ。娼婦の時の口調を忘れるくらいには驚いたらしい。だがさすがに違ったようだ。粗相というからついそういう方向で考えてしまった。
「では何をしたんですか?」
「えっと・・・何もしてませんわよ?」
「今更堂々と嘘を吐かないでください。」
しかしコハルは話してくれなさそうだ。俺は諦めてアマネやヨギリの方を見るが、2人は即座に俺から視線を逸らした。そんなに言いたくない事なのだろうか。
「ハルさん、私が説明します。」
「助かります。サクヤさん、お願いできますか?」
そんなアマネ達の様子を見かねて、サクヤが手を挙げてくれた。本当にサクヤは頼りになるお姉さんだ。アマネ達も少しは見習って欲しい。
「サ、サクヤ、ちょっと待つのじゃ!」
「そうでありんす!大丈夫やで!うちが今からハルの記憶消したるし!」
「それは名案じゃ!うむ、それがいいのじゃ!」
何言ってんだこいつらは。それにどれだけ取り乱してるんだ。ヨギリなんて口調が訳の分からない事になってるじゃないか。
「ヨギリさん、アマネさん、いい度胸してますね。そういうのは私のいないところで言うことでしょう。なるほど、そうですか、私に喧嘩を売ってるんですね?」
「ち、違うでありんよ?」
ヨギリが首を傾けながら上目遣いで見つめてくる。
「そんな可愛く言っても駄目です。誤魔化そうとしないでください。」
サクヤを見習うどころか卑劣な手段を提案してくるヨギリとアマネ。本当にいい根性をしている奴らだ。しかしそれ程までに俺に言えないような事をしていたのか。これはしっかり聞く必要がありそうだ。
「姐さん方、私が説明しますから任せてください。大丈夫です。」
サクヤがアマネ達の方を向いて、何か不思議な動きをしている。一体何の合図だ。俺には全く意味がわからなかったが、それを見たアマネ達は何かを理解したようで、態度を一変させる。
「うむ!ならサクヤにまかせるのじゃ!」
「そうでありんすね。サクヤ嬢にお願いしなんす。」
なんだそれ。
まあとりあえず言える事は・・・サクヤ凄い。こうもあっさりアマネ達を説得してしまうとは。他の嬢達もサクヤに任せると頷いているし、もうサクヤが胡蝶のトップでいいのではないだろうか・・・。
「ハルさん、怒らないで最後まで聞いてくださいませんか?」
「わかりました。約束します。」
怒られるような事をやっていたのかと言いそうになったが、せっかく話してくれるというのであれば黙って聞くとしよう。せっかくサクヤが話してくれると言っているのだから、聞き終わってから考えればいい。
「あ、その前に・・・コハルさん、いい加減離れてください。」
抱き着いたままだったコハルをとりあえず軽く蹴飛ばしておく。
「きゃっ・・・ハルさん・・・酷いですわ!女性を足蹴にするなんて・・・!」
「貴女が言わないでください。」
昨日あれだけ俺を蹴飛ばしておいてどの口が言うのか。コハルといいヨギリといい、何故うちのトップはこんなんばっかなんだ。仕事している時は凛としていてかっこいいのに、オンオフのギャップが凄すぎて偶についていけなくなる。
「さてサクヤさん、どういう事でしょう。」
「はい、コハル姐さんはハルさんと昨日お食事をしたから怒られていたのです。そしてその理由ですが・・・」
サクヤが説明してくれた。
俺には毎日、うちの娼婦達による護衛がついていたという事を。
まさかの理由だった。さすがにこれは想像していなかった。だが昨日の噂話を聞いた後だと・・・俺には何も言えない。
アマネ達は俺の為に動いてくれていた。それも俺に気を使わせまいと、陰乍らに。仕事が終わって疲れているだろうにも関わらずだ。それに元々は俺が流言や風評に疎かったのが全部悪い。巷でどんな噂をされているのかちゃんと理解していたら、アマネ達にここまで気を使わせる事はなかっただろう。
「そうなんですね。じゃあコハルさんは隠れて監視せず、私に接触したから怒られてたと言う事ですか?」
「はい、その通りです。影から密かにというのが決め事でしたので。」
サクヤが頷く。
なるほど。それでさっきの状況になっていたと言う訳か。
「じゃあもうコハルさんの事は許してあげてください。私は気にしていませんし、コハルさんと一緒に食事出来たのは本当に楽しかったので。」
「そ、そうなんですね・・・。」
「はい。また一緒に行こうと約束もしました。」
「えぇ・・・?そ、そうですか。」
どこかぎこちない笑顔を浮かべるサクヤ。まるで「そう言う事を言っているのではない。これ以上余計な事を言うな」と言わんばかりの表情だ。そしてアマネとヨギリは何故か笑顔が引き攣っているし、コハルは冷や汗をかいているようにも見える。一体どうしたのだろう。
「どうかしました?」
「い、いえ・・・!」
なんでもないですよとサクヤが首を振る。よくわからないが、まあ何でもないと言うなら何でもないのだろう。
「それはそうと、サクヤさんもしてくれてたんですよね?」
「はい、私が担当の時は私がさせて頂いておりました。」
「ありがとうございます。」
俺はサクヤに向かって丁寧に頭を下げる。
そして他の嬢達にも1人1人礼を伝える。
「お、怒らないのでありんすか?」
恐る恐る尋ねてくるヨギリ。こんなにも覇気がないヨギリは珍しい。しかし何故ヨギリは俺が怒ると思ったのだろうか。彼女達に感謝はすれど、怒る事なんて何もない。
「わっちらは隠れてたでござりんす。」
「でもそれは俺に気を使わせない為ですよね?隠れるなんて面倒だったでしょう?手間をかけさせてすいません。」
「ふふ、そんなことないでありんす。全てはわっちらが勝手にしてた事。ハルが気にすることはござりんせん。」
ヨギリが少しだけ微笑む。きっと俺が怒らないとわかって安心したのかもしれない。彼女の尻尾が少し嬉しそうに揺れているし、多分そう言う事なのだろう。
しかしヨギリが気にするなと言ってくれたのは何よりの救いだ。うちの娼婦達に手間をかけさせていたとわかり、茫然自失になるところだったしな。
「うーん・・・」
「どうしたのじゃ、ハル?」
アマネが尋ねてくる。
「いや・・・今後どうするべきかと悩んでいただけです。」
これを知ってしまった以上、このままと言う訳にはいかない。何より俺が嫌だ。
「ヨギリが言った通りなのじゃよ?ハルが気にする事はないのじゃ。」
「駄目ですよ。みなさんにこれ以上迷惑かけられません。ちなみに・・・もう今日から護衛は無しというのは駄目ですか?」
「絶対駄目じゃ。お主がいらんといっても勝手にやるからの。」
「頑固ですね・・・でも私も譲れません。」
「むぅ・・・お主も頑固じゃの。」
これでは堂々巡りだ。
どうしようかと俺はしばし逡巡し・・・
「わかりました、では私から2つ案があります。」




