粗相
「それで・・・何の話やったっけ。なんか大分脱線してもうたな。」
「あれよ、私がハルさんと食事した話よ。」
ヨギリとコハルが完全に憔悴しきっている。
だがそれも仕方ないだろう。話が脱線しただけでなく、好きな人の事を赤裸々に話させられた上、さらにはその人にしている隠し事について話したのだから、精神的に疲弊するのは当然だ。
「そうじゃの・・・どうするかの・・・」
あのアマネですらこの状態だ。
「あ、あのー・・・」
すると消え入りそうな声が聞こえた。アマネ達が部屋を見回すと、嬢の1人が恐る恐る手を挙げている。
「ユイカ嬢やんか、どうしたん?」
「えっと・・・ヨギリ姐さん、いいですか・・・?」
「かまへんよ。気にせず発言してええんよ?」
ユイカは物静かなタイプの嬢だ。こういう場では滅多に発言しない。きっと少し気後れしてしまっているのだろう。
「あ・・・はい・・・あのー・・・そろそろハルさんきますが・・・」
ユイカの一言で完全に凍り付くアマネ達。話に集中してすっかり忘れてしまっていた。ハルが来るまでに話を終わらせ、待合室に下りる予定だったのに、時間を全く見ていなかった。それに普段ならハルが来たらわかるように、魔法も展開しているのだが、それも全員が忘れていた。誰か1人でもしていればよかったのだが、後の祭りだ。つまりこれは不味い。かなり不味い状況だ。
「い、今何時じゃ!」
「わからないわ!ヨギリ何時なの!」
「う、うちもわからへん!」
アマネ達は慌てて時間を確認しようとするが・・・
「もうすぐ8時半ですよアマネさん、コハルさん、ヨギリさん。ところでユイカさん、私の事呼びましたか?」
今、一番聞きたくない声が聞こえた。アマネ達は気のせいであってくれと全員が心の中で祈りつつ、声がした方へ静かに首を向ける。
だがそんな祈り空しく、当然そこにはハルが立っていた。
* * *
「え・・・・?何してるんですか?」
俺はアマネの部屋の扉を開け、中へ入る。するとそこには胡蝶の嬢達全員が大集合しており、何故かコハルが部屋の床に座らされていた。そしてそんなコハルをアマネ達が取り囲んでいる。
「本当に何してるんですか・・・?」
状況がまったくわからない。全員がアマネの部屋にいたのは予想通りだが、何が行われているのかがまったく理解できない。
とりあえずアマネ達の質問に答えてやるとしよう。
「もうすぐ8時半ですよアマネさん、コハルさん、ヨギリさん。ところでユイカさん、私の事呼びましたか?」
「あ、いえ・・・呼んでない・・・です。すいません・・・!」
薄水色のショートカットの女が頭を下げる。彼女はユイカ。
「そうですか、それならいいんですが。何かあるならいつでも言ってくださいね?」
ユイカは寡黙で、あまり人と話すタイプの女ではない。何も言わず、黙って悩んだりしそうな子だ。だから出来るだけこちらから話しかけるようにしている。
「は、はい!いつも・・・ありがとう・・・ございます!」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。」
まあユイカは大丈夫そうだ。
それより気になるのは、何故か慌てていたうちのトップ3人。何があった。
「それでどうしたんですか。アマネさん、ヨギリさん?」
「な、なんでもないのじゃよ。ところでお主、わらわ達の話は聞こえておったのか?」
「いえ?扉を開けるまでは何も。魔法もまだかけてもらってませんので。」
「そ、そうか!うむ!ならいいのじゃ!」
何故か一転して笑顔になるアマネ。そしてヨギリ。もの凄く安心した表情を浮かべている。本当に何があった。
「それでコハルさんは何で床に座らされてるんですか。」
「そ、それはじゃな・・・」
アマネがしどろもどろになりながら説明を始めるが、コハルがそれを遮るように急に立ち上がり、俺に抱き着いてくる。
「ハルさん!酷いのですわ!みなさんが私を虐めてくるんですの!」
コハルは助けてくださいと目にうっすらと涙を浮かべている。
しかし本当かそれは。
コハルは床に座らされアマネ達に囲まれていた。確かに状況だけを見ると、虐めの現場と言ってもいいだろう。
「ち、違うでありんす!わっちらはそんな事しておりんせん!」
「そうじゃ!わらわ達はそんな事はせんぞ!」
ヨギリとアマネは断じて違うと言い張る。
「コハルさん、嘘はいけませんよ?」
「そんな!ハルさんは私の事を信じてくださらないんですの!悲しいですわ・・・!」
手で顔を覆い、しくしくと泣き始めるコハル。
「いやコハルさん、あなたは虐められるような女じゃないでしょう・・・。」
性格的にはどちらかというと虐める側だろう。今も絶賛嘘泣き中だし、こんな強かなコハルが虐められるわけがない。もしユイカとかが床に座らせれていたなら「これは大変だ、胡蝶で虐めが・・・!」と慌てただろうが、コハルの時点でそれはない。どうせコハルがなんかしょうもない事をしでかして怒られてた、そんなとこだろう。
「私はそう思うんですが・・・どうなんですかね?サクヤさん、何か言いたそうにしていますが、何かあります?」
俺はサクヤに声を掛ける。
金髪で紅色の瞳をしているサクヤ。彼女はヨギリと同じ狐人族で、立派な尻尾と耳がある。赤色の着物を好んで着ていて、それがまた彼女の金色の髪とよく合っている。ただ彼女は基本的に着物を着崩しているので、肌の露出が多く、いつも目のやり場に困る。
そんなサクヤは胡蝶で上位の人気を誇る。順位で言えば4位。つまりアマネ、コハル、ヨギリを除けば、胡蝶の中で一番人気がある娼婦だ。そしてサクヤは嬢達のまとめ役的な存在で、みんなから頼りにされているお姉さん。トップのアマネ達があまりにも飛び抜けているので、他の嬢達はどうしても気後れしてしまうらしく、何かとサクヤに頼る事が多いらしい。
まあ売り上げも存在もアマネ達は特殊過ぎるので仕方がない。俺もアマネ、コハル、ヨギリの3人は別格と考え、他の嬢達とは一線を画す存在として扱っている。だから胡蝶の娼婦達の事で何か相談がある時は、サクヤにする事が多い。
今サクヤに話を振ったのも、それが理由だ。
「はい、実はコハル姐さんが粗相をしたので皆でお説教していたのです。ですので虐めとかではありません。安心してくださいね?」




