子犬
胡蝶で働き始めたハル。ただ娼館の仕事でアマネが教える事はほぼ何もなかった。自分で仕事を見つけてきては勝手に粛々とこなしていた。アマネが教える事と言えばこの世界の一般常識だけ。そんなハルを見て、アマネは思ったより使える子犬を拾ったなと思ったらしい。
「てっきり何から何まで教えなければいけないと思っておったからの。仕事を教えなくていいのは楽じゃった。じゃがまだその程度の認識じゃったの。」
それから数日が経ち、ハルが娼館の仕事にも慣れ始めた頃、彼はアマネにとある質問をぶつけた。何故アマネのような背景を持つ女が、娼館をやっているのかと。
「まあ当然の疑問じゃな。そしてわらわは『教えぬ』と言ったのじゃ。」
普通であればそこで食い下がってくる。アマネも根掘り葉掘り聞かれると思っていた。そしてもしそうなったら、ハルの記憶を魔法で消し、拾った場所にまた捨ててこようとすら考えていたのだと言う。
「じゃがハルは『俺に出来ることはあるか?』と言ってくれたのじゃ。」
アマネが娼館をやっているのには理由がある。どうしても叶えたい夢がある。そしてハルにはその程度の事しか教えなかった。だがハルは、それで十分だと言った。理由は別に知らなくていいから、それを叶える為の手伝いをさせてくれと言ってくれた。
正直アマネは驚いた。
「普通聞くじゃろ?なのに『理由なんていつか教えてくれればいい。俺はアマネに恩返しがしたい』と言ってくれたのじゃ。」
だからアマネは「この娼館を有名にしたい」という漠然とした目標を伝えた。ハルにそんなのは無理だと言わせる為だ。アマネは敢えてハルに無理難題を押し付けた。だがハルは平然とした顔で「なら胡蝶をこの国で一番の娼館にすればアマネの夢は叶うのか?」と逆に問い返してきた。
「正直、こやつは何を言っておるんじゃと思ったがの。じゃがそう聞かれたら頷くしかなかろう。この国で一番の娼館になったら・・・おそらくわらわの目的も達成できるからの。」
それからの事は語るまでもない。胡蝶で働く娼婦なら誰もが知っている。
「で・・・お主らも知っての通り、ハルの言う通りにしてたら、こうなっておった。」
「なるほど、それでアマネ姐さんはそんなハルさんに惚れたと?」
「し、しかたなかろう!ここまでわらわの為にやってくれたら・・・それはその・・・わかるじゃろ・・・!」
「はい、わかります。アマネ姐さんもチョロいという事が。」
結局アマネもそうなのかとサクヤは天を仰ぐ。この人達は本当に胡蝶のトップ3なのかと疑ってしまう。
「姐さん達なんでそんな純情なんですか・・・何百年って生きてるくせに・・・。」
「う、うるさいのじゃ!」
「せや!年齢は関係あれへん!」
「そうよ!」
サクヤ達はまだ100歳もいっていない。アマネ達比べてずっと若い。それなのにこの姐さん達の恋愛事情を聞くと背中がむず痒くなる。あまりにもピュア過ぎて鳥肌が立つ。だがここは妹分として、姐さん達の恋路を応援してあげよう。そう心に決めるサクヤ達。
「可愛い姐さん達を見守るのも私達の役目ですね。」
苦笑いを浮かべながら呟くサクヤ。
「話を逸らしてしまってすいません。もうついでに聞いてしまいますが、ハルさんにいつ話すんですか?まだこの娼館の目的知らないんですよね?」
「うむ、まだ言っておらんの。まあ・・・もう言ってもいいんじゃが・・・隠しておいた方がおもしろかろう?」
意地の悪い笑みを浮かべるアマネ。
アマネがこの娼館をやっている理由、ハルはコハルとヨギリにしか知らせれてないと思っているようだが、実は全員が知っている。知らないのはハルだけ。
「そんな事ばっかしてるとハルさんに嫌われますよ?」
「そ、そんなことないのじゃ・・・!ハルはわらわにぞっこんなのじゃ!」
「それ自分で言ってて虚しくなりません?」
「ええい!文句ばかり言うんでない!わらわは偉いのじゃ!」
これ以上言うと給料を減らすぞとアマネが権力を振りかざし始める。だが給料という言葉にコハルが「あっ」と反応する。
「ちょっとアマネ。あなたハルさんにほとんどお給料渡してないって本当なの?ハルさん生活するので精一杯って言ってたわよ。どういうことなのかしら。」
コハルの一言で部屋の空気が一気に変わる。
「はぁ!?アマネ、あんたどういうこやそれ!」




