理由
「あの・・・姐さん方・・・?その五十歩百歩のアホみたいなやり取りやめてもらえませんか?」
そう呟いたのは嬢の1人であるサクヤ。
「なんじゃと!」
「な、なんやて!?」
「なんですって!」
互いに同レベルに扱われたのが納得いかないアマネ達。だが他の嬢達からしてみれば一緒だ。しかもこれが胡蝶のトップ3なのだから余計に溜息が出る。
「いやいや、どう考えても一緒でしょう・・・姐さん方はうちらのトップなんですからもっとしっかりしてくださいよ。大体、どんだけハルさんの事好きなんですか。」
胡蝶のトップ、それは国で指折りの娼婦と言う事。彼女達なら男の扱いも当然お手の物。毎晩毎晩男と偽りの恋をし、好き勝手気持ちを弄んでいる。そんなアマネ達がハルという1人の男に関してはこの有様なのだ。
サクヤや他の嬢達が呆れるのも当然だろう。
「そ、そんなんあんたらかて一緒やんか!」
「そうじゃそうじゃ!」
ヨギリとアマネが叫ぶ。ハルが好きだと素直に認めたくないのか、それともただ単に恥ずかしいだけなのか。
「あのですね、この際はっきり言いますけど、ハルさんの事は好いてますよ?私達の為に一生懸命だし、色々よくしてくれるんですから。私らを買いにくる客なんかよりずっと好感持てます。ハルさんになら身請けされてもいいよって言うかもしれません。ですけどずっと一緒にいたいとか、自分の物にしたいとか、そこまでではないんですよ。そんなのは姐さん方だけなんですって。」
どちらかというと大事な弟といった感情なのだとサクヤが語る。サラやユリ、他の嬢達もうんうんと頷いている。だがアマネ達はそれを聞いて青天の霹靂だと言わんばかりの表情だ。
「まさか気付いてなかったんですか・・・?」
「し、しってたわよ!本当よ!」
姐さんとしての威厳を保とうと必死のコハル。だが嘘なのはバレバレだ。
「まあいいんですけど・・・それで姐さん方は何でハルさんがそんなに好きなんですか。せっかくなので教えてください。」
正直アマネ達なら男なんて選り取り見取りだろう。それがサクヤ達には不思議でならない。確かにハルは優しいし、娼婦である自分達の為に必死で仕事してくれる。だがお世辞にも美青年とは言えないし、お金持ちというわけでもない。魔法も使えない、剣も使えない、どこにでもいそうな男だ。
「怒らないでくださいね。でも言ってる事は間違ってないでしょう?ハルさんの特別な所と言えば、この世界の人間でないというくらいです。」
ハルが異世界から来たという事は、胡蝶の娼婦達の間では周知の事実だ。むしろハルがサクヤ達にこの世界の一般常識を知らないせいで、色々と迷惑をかけるかもしれないという理由から、自ら明かしている。
「でもだからといって特別な魅力がある感じはしません。」
「そ、そんなことないのじゃ!」
アマネがハルは特別なんだと言い張る。
「ええ、だからそれを私達に教えてください。もう埒が明かないので指名します。ではコハル姐さん。」
もじもじして一向に理由を話そうとしない姐3人を見て、強硬手段に出たサクヤ。
「えぇ・・・!?わ、わかったわよ・・・。大抵の男は・・・私が喜びそうな事を必死にしてくれるの。『女心なんて理解してる』って感じでね。まあそれはそれで嬉しいんだけど、なんか違うのよ。」
コハルの言っている事は胡蝶の嬢達であればよくわかる。彼女達は最上級の娼婦だ。男に甘やかされたり、言い寄られたりは星の数ほど経験がある。
「ハルさんの場合は『俺、女心わかってるんだぜ』てわざわざ言ってくるのよ。でもね、全然わかってないの。それ本気?ってくらいわかってない。そこが可愛いし、面白い。そしてわかってないくせに、急に意外な事してくるから・・・キュンって・・・そ、そういうことよ!」
「なるほど、コハル姐さん・・・チョロかったんですね。」
「う、うるさいわね!!!」
とりあえずコハルの理由はなんとなくわかった。簡単に言えば、ハルの意外性に惹かれたと言う事だろう。
「では次、ヨギリ姐さん。」
「う、うち!?絶対いやや!」
ヨギリが顔を真っ赤にして拒否する。これが胡蝶で人気3位の娼婦なのだから呆れる。普段の威厳はどこへいったのやら。まあサクヤ達もヨギリがこんな性格なのは知っているので、今更驚きはしないが。
「往生際悪いですよ姐さん。ここにハルさんはいません。ここで聞いたことは絶対誰にもいいません。だから諦めてください。」
「うぅ・・・ハルは・・・うちの耳や尻尾好き言うてくれるんよ・・・」
「え?それだけ?それただの狐人族好きでは・・・?」
確かにハルはヨギリの狐耳や尻尾が大好きだ。普段は視界にいれないよう必死に視線を外しているようだが、チラチラ見ているのはバレバレだ。
「ちゃうし!こんなうちに優しいんやもん!いつもハルの事虐めてるのに優しくしてくれるんよ!」
「あぁ・・・もういいです、ヨギリ姐さんもチョロかっただけなんですね。」
「そそそそんなことないわ!」
とりあえずヨギリはコハル以上にチョロいという事がわかった。まあ優しく云々はヨギリの過去を考えれば仕方ないと言えば仕方ない。ハルはヨギリを差別したり特別扱いしたりせず、普通に接する。それがヨギリには嬉しかったのだろう。
「では最後、アマネ姐さん。」
「わ、わらわか・・・まぁ・・・そうじゃの、ハルを拾った時は子犬を拾ったくらいにしか思っておらんかった。じゃがわらわの娼館で働くようになり、色々と協力してくれるハルを見て、見直したのじゃ。」




