五十歩百歩
時は少し遡る。
ハルが胡蝶に到着する少し前、胡蝶の娼婦達は全員アマネの部屋に集まっていた。そして何故かコハルが床に座らされており、それを取り囲むようにして胡蝶の嬢達が仁王立している。
「え、なによ?なんで私は床に座らされてるのよ。」
とぼけ顔のコハル。
「うるさいのじゃ!今からわらわ達がコハルを裁くのじゃ!」
「そうでありんす。では有罪でお願いしなんす。」
ヨギリがあっさりと判決を下す。他の嬢達も特に異論はないらしく、うんうんと頷いている。
「では有罪じゃ。死刑なのじゃ!」
「なんでよ!?せめて弁明させなさいよ!」
頭おかしいんじゃないのとコハルが非難する。だが非難されるのはコハルの方だと言わんばかりに全員が彼女を睨みつける。
「な、なによ・・・」
居心地が悪そうにそっぽを向くコハル。
「何をとぼけておるんじゃ。言われなくてもわかっておろう。コハルはわらわ達が決めた掟を破ったのじゃ。」
アマネが指摘する。そして間髪を入れず、ヨギリが捲し立てる。
「そうでありん・・・ああもうこの口調めんどいわ!コハル!知ってるんやで!あんたハルと食事してたやろ!それにみたで!う、腕とか組んでたやん!うらやま・・・じゃなくてあんた何してるん!」
「あら・・・いやね。盗み見なんて趣味が悪いわよ?」
「う、うっさいわ!それよりうちの質問に答えてや!」
ヨギリの慌てる様子に気付いたコハルがここぞとばかりに反撃する。
「あらヨギリ、見てたのなら混ざればよかったのに。ああ、恥ずかしくて声かけられなかったのね?ふふ、ヨギリは可愛いわね?」
「なっ・・・!そ、そんなはしたない事出来る訳ないやん!うちはコハルみたいな淫乱ちゃうねん!純情やねん!」
「食事誘うくらいで何言ってるのよ・・・それでも娼婦なの?さすがにひくわよ?」
呆れ顔のコハル。そしてこれにはさすがに同意なのか、アマネや他の嬢達もドン引きだ。
「ヨギリ・・・お主いくつじゃ・・・」
「し、しかたないやん!それに今はコハルのことやろ!うちの事ちゃう!」
必死に話題を逸らそうとするヨギリ。
「まあそうじゃな。コハル、なんであんなことしたんじゃ。殺す前に話くらいは聞いてやろうぞ。」
「なんで殺す前提なのよ!」
「ええい、はよ話せ。」
「わ、わかったわよ・・・」
さすがに観念したのか、コハルはポツポツと話し始める。
「どうせ全部ヨギリが見てたんでしょ?じゃあ何があったかは話さなくてもいいわよね。」
「うむ、そこは別に割愛してもよい。」
「じゃあ結論だけ言うけど、ハルさんは自分の立場をちゃんとわかってないでしょ?だから世間の噂を聞かせたほうがいいかなと思っただけよ。」
別に悪気はなかった。本当にそうした方がいいと思ったからやった。だから反省も後悔もしていないと、コハルは悪びれる様子もなく語る。
「それは別にええねん。うちもそこに文句はあらへん。」
「そうじゃな、わらわもそれは何とかしようと思ってた事じゃ。」
問題はそこではないと頭を振るヨギリとアマネ。
「じゃあいいじゃない。話は終わりでいいわね?」
コハルはやっと終わったと立ち上がろうとするが・・・
「ええわけないやろ!そこ座りい!」
「な、なによ。」
「ええわ、もううちが言うたるわ!なに見張り役が勝手にハルに接触してんねん!堂々と食事してしかも家まで送ってもらうとかアホなんか!」
そう、コハルはハルの見張り役だ。あの冒険者達の噂話を聞けばわかるように、ハルは何時誰から狙われてもおかしくはない。だからアマネ達は交代で毎日ハルを影から護衛している。なのにコハルは護衛対象であるハルに接触し、デートまがいの事をしていたのだ。そのせいで嬢達の不満が爆発したというわけだ。
「だって捨てられた子犬ようにトボトボ歩いてるハルさん見たら可愛くてついね?それに別にいいじゃない、ちゃんと周囲の警戒はしてたんだから。」
「いいや、駄目じゃ。接触はしない、影から見守るというのがわらわ達が決めたルールのはずじゃ。コハルはそれを破ったのじゃ。」
アマネの指摘にそうだそうだと頷く胡蝶の嬢達。接触が許されてるなら自分だってやったのに、コハルだけずるいと不満を口々に言っている。
「っていうかなんで接触したら駄目なのよ。ヨギリ、あなたが決めたルールだったわよね?」
「だ、だってそんなの恥ずかしいやん・・・!」
頬を染めて娼婦らしらぬ表情を浮かべるヨギリ。
「え・・・嘘・・・本当にそんな理由だったの?私はてっきりハルさんのプライベートを邪魔したら駄目だからとか・・・そう言う事だと思っていたのだけれど?」
「え!?そ、そそそうやで!?もちろんそれが理由や!」
必死に弁解するヨギリだが、もう遅い。さすがのアマネもフォローしきれないようで、頭を抱えてしまっている。
「まあ・・・よい。コハル、理由はどうあれ掟を破ったのは事実じゃ。」
アマネはとりあえず話を進める事にしたらしい。
「まあ・・・そうね。」
「じゃからお主は罰としてしばらくハルの監視からはずす。お主の担当する分はわらわが代わりにやるのじゃ。」
このくらいが妥当だろうとアマネは判断したらしいが、コハルにしてみたら絶対に納得がいかない罰らしく、必死に反発する。
「ま、待ちなさいよ!それは酷いわ!私の楽しみを取らないでよ!仕事から疲れ顔で帰るまるで捨て犬のような姿のハルさんを眺めるのが何よりの癒しなのよ!」
「コハル、それはさすがに悪趣味やと思うんやけど・・・?でもアマネ!なんであんただけ得しようとしてるん!それはずるいわ!」
コハルの性癖にドン引きしつつも、それは駄目だとアマネに詰め寄るヨギリ。なんなら自分が変わるから引っ込んでろと叫ぶ。
「ええい黙るのじゃ!胡蝶はわらわの店じゃ!ハルを拾ったのもわらわじゃ!ハルはわらわのものなのじゃ!」
子供のように駄々をこねるアマネ。
「なによその超理論は!大体ハルさんがアマネのものなわけないでしょ!私なんて娼婦やめたらハルさんと2人で世界を旅する約束したんだからね!」
「はぁ!?あんたなに勝手にハルと約束してるん!ずるいやろ!うちも行く!」
「来なくていいわよ!」
「いやや!絶対行ったるし!それにハルはうちの事おいていかへんもん!」
「勝手な事言うのはそこまでじゃ!ハルはわらわとおるんじゃ!」
アマネ、コハル、ヨギリは我慢できなくなったのか、睨み合いを始める。そしてそんな3人を「また始まった」と溜息を吐き、呆れ顔で見つめる胡蝶の娼婦達。
「あの・・・姐さん方・・・?その五十歩百歩のバカみたいなやり取りやめてもらえませんか?」




