よく生きるとは?
「よく生きよ」
私は幼い頃から父親にこう言われ育った。よく生きねばならない。
私は一歩一歩踏みしめて人生の荒波に立ち向かってきた。
若い頃立ち上げた会社が倒産してもめげずに次の事業を立ち上げた。
あくる日もあくる日も働き続けた。
歳を重ね、親が旅立ち、友人が旅立ち、それでも歩みを止めなかった。
医者に言われた癌だともう余命は半年しかないと。
――よく生きる。
この問いがまた私の前に立ちはだかった。
半年でよく生きるとはなんだろうか?
延命治療を受けることだろうか?それとも……。
ふと友人が老荘思想が好きだったことを思い出し書店で買って読んでみる。
『川に流されるように生きる。それこそがよく生きる』だと書かれていた。
衝撃だった。
私の一生涯信じ抜いていた思想と真逆だった。
よく生きるとはなんだろうか?
事業の引き継ぎも終わり身辺整理も済み、私に残されたのはこの身一つである。
なお、よく生きるとはなんだろうか?
流されるように医者の言葉に従い延命治療を受け、ベッドに横たわり考える。
今、私はよく生きているだろうか?
ふと病室に飾られている花をみる。
私にはその花はよく生きているように思えた。
「よく生きていると考えずともよく生きているのか」
老荘思想でいうよく生きているとはこれではないだろうか?
私はよく生きたし、よく生きている。
肩の力が抜けた思いで、窓から入りこむ風が心地よかった。




