月の裏の住民
「ねえ、知ってる? 月の裏側にはさ、宇宙人が住んでるんだよ」
放課後、公園のベンチで勇気を出し僕は言った。
となりに座っていたタカシ君が、呆れたように鼻で笑った。
「はあ? お前、まだそんな都市伝説信じてんの? 月の裏側なんて、NASAの探査機が何回も高精度な写真撮って公開してんだよ。大気がなくて強烈な放射線が降り注ぐ極寒の環境で、生命が存在できるわけないだろ。科学的な根拠ゼロ。そんなこともわからないのかよ」
「まあまあ、タカシ。そこまで言わなくても」
二人の会話を静かに聞いていたサトシ君が、少し遠くを見つめながら口を開いた。
「事実を正しく信じることが、必ずしも人を幸せにするとは限らないんだよ。夢やロマンを残しておくほうが、楽しい夜を過ごせることもあるじゃないか」
「なんだよそれ。間違ってるものは間違ってるだろ」
タカシ君がフンと横を向く。僕は二人を順番に見つめ、ポツリとつぶやいた。
「……本当にいるんだけどな」
「はいはい、わかったよ」
タカシ君は立ち上がり、鞄を担ぎ直した。
「じゃあな、俺塾あるから」
「僕も帰るよ。じゃあね」
夕闇が迫る帰り道を、僕は一人で歩いた。家に帰り、玄関のドアを開ける。
「ただいま」
奥の部屋からお母さんが顔を出す。
「%#&@$、#%&$@?」
地球上には存在しない言語で応えてくれる。僕はランドセルを降ろし答えた。
「*&#%&$@」
皆はわかっていない。 だって僕が、月の裏に住む宇宙人だから。




