僕は人生経験を積む。これでまた一つ大人になった
「俺、気づいたんだ」
ある日、武ちゃんが周りをきょろきょろ見ながら声を潜める。
教室の片隅でいつも漫画やアニメの話で盛り上がる僕らは元々影であり、声を潜める必要などない。
つまり、これは極秘事項ということだ。
「何に気づいたの?」
喉が渇く、武ちゃんはたっぷり間を置いた。
「ブラジャーを手に入れることができる」
!!!?
「ど、どうやって?」
「俺、気づいたんだアマドンで普通に買える」
「た、たしかに」
アマドンでは購入者の性別でブラジャーが買えるか買えないかは判定しないだろう。
「違法では?」
「調べた……」
喉が悲鳴を上げている。カラカラだ。
「合法だ」
!!!!
「合法でブラジャーが手に入る」
そんな馬鹿な、そんなことをして良いわけない。
「ダメだよ。それはやってはいけないことだ」
「おじいちゃんが教えてくれた。魔法の言葉をお前にも教えてやろう」
武ちゃんは優しい顔をした
「人生経験だ。これも人生経験なのだ」
「……人生経験」
「そうだ。人生経験という名目で全ての事柄が最初の1回は許されてしまうんだ」
あ~喉が渇く、僕は思わず立ち上がった。
「どこに行くんだ?」
「飲み物買ってくる」
廊下を歩きながら頭の中はブラジャーのことで一杯だった。すれ違う女子と目を合わせることはできなかった。
自動販売機で炭酸を買う。
流し込んだ。全てが泡で流されていった。
教室に戻り武ちゃんの前に座る。
「武ちゃんは買ったの?」
「ああ、昨日注文した」
炭酸を流し込む。炭酸がなければやってられない。
「お前はどうする?」
そんなの決まっているじゃないか。
僕は家に帰るまでブラジャーのことしか考えていなかった。
ベットでアマドンを探索する。買うのならば最高の一品がいい。
大きいサイズの黒の大人っぽいブラジャーを注文した。
してしまった。
心臓の鼓動が早い。早すぎて心臓が走り出しそうだ。
スマホに配達状況の連絡が来る度、落ち着かない気持ちになった。
「人生経験だから……」
呪文のように唱える。
その日は来た。学校から家に帰るとお母さんが荷物届いていたよという。
僕はあらかじめ用意しておいた回答を返して荷物を素早く回収する。
部屋に入り段ボールを開ける。僕の開けてはいけない扉も開きそうだ。
透明なビニールに入っていたが、そこにはちゃんとブラジャーがあった。
焦ってビニールを中々開けることができない。
初めて手に取ったブラジャーは、思っていたよりも重かった。
「これがブラジャー……」
間違いなく、これは本物だった。
眺めるだけではなく、頭に被ろうと思ったが僕にはまだハードルが高かった。
次の日、学校で武ちゃんと一緒に体育館の裏に行く。
誰もいないことを確認して、互いに戦利品を出す。
武ちゃんはピンクのレースがついたブラジャーだった。
「俺たち大人になったな」
「そうだね」
貴重な人生経験を積んで僕たちはまた一つ大人の階段を上った。
その幸福感に包まれていた。
「実はこれも買ったんだ」
!!!?
スケスケのスクール水着がそこにはあった。
僕はまだまだ子供だ。
僕も更に大人の階段を登らなくてはならないだろう。
それが人生経験というものだ。




