非日常の入り口
「アハハハハハハハハ」
怖っ!
雨の中歩いていたら傘もささずびしょ濡れになりながら走っている男性とすれ違った。
色んな人がいる。あの男性は何がそんなに楽しいのだろうか?
傘に跳ねる雨音が私の心を沈ませる。
今日もまた会社でミスをした。
怒鳴られることには一向になれない。
会社からの帰路、いつも通りの道。後、10分も歩けば家。
少し見上げれば重い雲が空を覆い隠している。
何が楽しいのか。
現実には異世界へ繋がる小道も扉もない。
こんな現実の何が楽しいのか。
さっきの男性の笑い声が耳に残っている。
何も変わらない。現実は何も変わらない。世界は変わらない。
だから……
そっと傘を閉じてみた。
見上げると雨が顔に当たる。
何がいいのか?不快でしかない。
あっという間に服が濡れ体が重くなる。
濡れて張り付いた服が煩わしい。
ぼーっとびしょ濡れになりながら歩いていると雨が気にならなくなってきた。
顔に当たる雨は少し煩わしいが、シャワーを浴びているような感覚がある。
すれ違う人はいない。
雨に濡れる変な女が一人、世界にいるだけ。
……変な感覚がし始めた。
雨に濡れ体温が下がっているはずが、内側からぽかぽか温かくなるような……。
見上げた空は今だ真っ黒だが、なぜか美しく見えた。
直接響く雨音が心地よい。
気づくと私は立ち止まりバケツをひっくり返した土砂降りを全身に浴びていた。
うん、悪くないかもしれない。
雨の一粒一粒が今日あった嫌なことを優しく流してくれるような。
雨音のリズムに乗り、私は歩き出した。
多分、今、私は……笑っていると思う。




