仕事③ー3
10分もしないうちにそれぞれの武器や装備を万全に準備した。
「そろそろ良いか?」
「うん。」
「じゃあ、探しに行こうか。」
信悟が詩を探しに行く。広大なマップであるが、次第に場所の制限がかかっていく。
既に大きな建物が点々と5、6棟程しかない。
このままゲームの仕様で決着が着くのは味気ない。
「ここじゃないか……。」
一つ一つしらみつぶしに探していく。残りの建物が数棟となった時、信悟はアタリを見つけた。
詩は信悟の足音が近づいたタイミングを見計らいある装備を展開する。
【偽装のマント】
10秒だけ姿を擬態できる装備である。その代わり、使用中はその他の武器・装備の使用ができない。
目の前を信悟が通り過ぎるのを確認し、背中を見せた瞬間、【偽装のマント】を脱ぎ去る。
すぐにショットガンを装備し、襲い掛かる。
「おっ、マジかよ。」
信悟は驚愕の声を漏らす。だが、信悟も歴戦の戦士である。建物の障害物を利用し、直撃を避ける。
それと同時にいくつかの棒状の物体と丸い物体が部屋に投げ入れられる。
そのうち、棒状の物体から煙が大量に噴出され、視界を遮る。
「ああ、もうっ!!」
詩はいらだちを隠さない。
そのすぐ近くを通り過ぎる影が見え、追いかけていく。
信悟は階段を上り、一つ上の屋上に向かう。
「おおおっっとぉぉぉーー。」
詩が屋上に上がった瞬間、弾幕が撒かれる。幸いにも当たることはなく、煙だらけの部屋に戻る。
それからも爆発音や銃声が聞こえる。上からの爆音や天井が傷つく音や細かい破片が落ちてくる。
「行くしかないか。」
腹を括り、銃に弾を詰める。ふと音が止んだ。
今が勝機と再度屋上に上がると、信悟は貯水タンクの上に立っていた。
「なっ!」
ショットガンを構えると引き金を引く前に、ショットガンを撃ち抜かれる。対人ゲームにおいて神業とも言える、相手の武器のみの狙撃。
唯一の武器が手から離れ、遠くへ転がっていく。ストレージには他にも銃を持ってはいるが、相手がそれまで待ってくれるはずもない。
「あーあ。撃ちな。」
手を上げ降参のポーズをとり、階段近くから中央までゆっくり移動する。
「まあ、それも良いけど……。」
「嘘吐き。」
「??」
「だって兄貴は今まで私を傷つけたことはないもの。リアルでもゲームでも。」
「そうだな。」
詩の言う通りだ。実際信悟は何度も詩を撃てる場面はあった。だが、撃たなかった。これは兄としての矜持であり、プライドだ。
「でも、このゲームも終わらせなくちゃいけない。だから――。」
信悟が詩の足元に向けて発砲する。
「何を?」
足元に着弾した、その時。
着弾地点から蜘蛛の巣状にヒビが入り崩れていく。
「まさか!」
床が抜け、体が自由落下し、煙にまみれた部屋に逆戻りする。
「開けた扉は閉めるタイプなんだよ。密室とは行かないが、それなりには反応するだろう。」
信悟がライターを取り出し、投げ捨てる。
轟音が鳴り響き、膨大な爆発が発生する。また、信悟が事前に床に撒いていた爆弾にも引火し、爆発が爆発を生んでいく。
無論、その渦中にいた詩が只で済む訳にはいかなかった。
「で、結局何がしたかったの?」
呆れ果てたような顔をする。
「な~に、兄は強いぞってことだ。」
「何それ。ずっと勝ち逃げじゃない。」
「そうだよ。それが兄の特権だ。」
口を尖らせ不満を漏らす詩に信悟が勝ち誇った声で返す。だが、次の言葉で空気が変わる。
「だけど、俺は死んだ。」
「……そうよ。」
「だから、これからの人生はお前の一人勝ちだ。俺は不戦敗。」
「そう言っても納得できる訳ないじゃない!!」
「そうだな。試合する前に決めた『負けたら勝った方の言うことを聞く』ってやつだけど、お前には、俺ができなかったことを全部してほしい。空の成長を見届けるのもそう。親孝行もそう。パートナーと最期まで寄り添うのもそう。俺ができなかった経験を全部できたら、紛れもなくお前の勝ちだ。俺は先に逝ってるからよ。お前はもっとゆっくり、そうだな後100年くらいはこっちに来るな。それで、またあの世で一緒にゲームしよう。それまで練習してるからさ。」
ゆっくり頷き、涙ながらに抱き合う。
「やってやるよ。全部全部やってやる。そんで、そっちに行ったら、『こんな楽しい人生だった』って自慢してやる。兄貴が羨ましがるぐらい幸せで、楽しくて、最高の人生を送ってやる。」
それから涙が枯れ果てるまで泣きじゃくった。
「もう良いか?」
詩は頷いて答える。
「もっとハグしてて良いんだぞ。」
「べ、別にいらない。」
兄に抱きついて泣きじゃくったのを思い出し、顔を真っ赤にする。
何か反抗したくなった詩は、最後に言い返すことにした。
「今から100年も生きられる訳ないじゃん。バカ兄貴っ!!」




