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仕事④ー1

「さあ、次は誰だっ!!」

「あら、すっかりやる気になってはりますな。」

「そりゃ、そ――っ。」

「そりゃ、そうだろ。」と言いかけた所で口を閉じる。振り返ると浴衣を来た絶世の美女がいた為だ。

「どないしたん?そんな鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して。」

「い、いや、別に……。」

「はっきりせんお方やな~。」

 勢いに水を差された形になった為、歯切れが悪くなる。

「まあ、それは良いさ。それで、次は?」

「次はこの方でありんす。」

 袖から綺麗に丸められた書類を広げ、見せてきた。

 一挙手一投足が美しい。

 見せてきた紙には墨で若い男性の似顔絵が描かれていた。「昔の手配書か」と心の中でつっこんだ。

 その顔には見覚えがあった。生前の職場の後輩だった。俺が亡くなった時に「良いから良いから。先に帰って良いよ。」と帰宅を促した相手だ。

 だが、疑問がある。

「こいつって今までの人より、その……。」

「救うほどの人ちゃうて?何言うてはるの?あんさんも同じくらい心痛めた人でありんす。」

(覚田も同じくらいショックを受けている?どうして?)

「……ほんと鈍い人やんな。」


 次は場所は仕事帰りによく寄ったラーメン屋だった。

 やや湿り気を帯びた暖簾を潜ると、濃厚なラーメンの香りが漂う。

 10人程度のカウンターしかない小さなラーメン屋。いつもなら人の出入りが激しい店内も今回ばかりは2人の貸し切りだ。

 そこには、笑顔で替え玉をしている後輩が座っている……はずだった。

 だが、カウンターにいたのは、小さなつまみを肴にちびちび吞んでいる頬のこけた青年だった。

「やあ、どうしたんだ?」

 いつもの軽い口調で問う。隣に座り、不躾に話しかけた俺に対して、むくっと体を起こし、だるそうな声で覚田が声を発する。

「あ、ああ。別に…。何でもないさ。」

 そういうとお猪口を口に持っていく。

「あっ……。」

 口を付けたところで既に酒が入っていないことに気づいた覚田が気付き、徳利を探す。

「ほら。」

 覚田の徳利を持って、お猪口をこちらに向けるように促す。

「すまない。」

 申し訳なさそうに向けられたお猪口にゆっくりと注いでいく。

「んで、どうしたんだよ。」

「……。」

「どうなんだ?別に夢の中なんだ。誰も聞いちゃいない。」

「そうか……。」

 納得したように覚田はポツポツと話し始めた。

「実は俺、彼女と別れたんです。」

「えっ?」

「いや、そんな驚かなくても…。」

「い、いや、別に。」

 内心、驚愕した。人の心は移ろい易いとはいえ、社内でも結婚まで秒読みだと噂になっていたからだ。何なら信悟はご祝儀や祝いの席用のスーツを準備し、挨拶の言葉なんかも密かに考えていたぐらいだ。

「いや、本当に何があったんだよ。」

「彼女と出会ったのは――。」

 そこから小一時間に及ぶ話をまとめると次の通りだった。


 ・高校生の時に一目惚れした女の子にあの手この手を使い、仲良くなり、ようやく付き合うことになった。

 ・同じ大学に進学し、就職後落ち着いたら結婚しようと婚約した。

 ・就職も何とかなり、そろそろ結婚かと思っていた時、上司が過労死した。

 ・その日、覚田はデートの予定があり、仕事を上司に任せて帰宅した。

 ・“今度は自分こそが”と一念発起して仕事を頑張ったが、うまくいかなかった。

 ・“どれだけ上司に頼り切っていたのか”と自信を失い、彼女にも呆れられ、捨てられた。


 ここまできて信悟は思った。

(その上司って俺じゃね?)

 信悟は頭を抱えるしかなかった。


「どないでした?えらい事になっとりはりますな。」

「いや、ほんまに。ってなんでや。そうはならへんやろ。」

「あんたも関西弁になっとりますがな。」

 軽口に最早言い返す余裕もない。自分の中で思わぬ真実に整理が、感情が追い付かない。

「ああ、もうマジ分からん。そんな、そんな……。」

「そんな大きな出来事じゃない?」

 取り乱しながらも、頷く。仲は良かったし、元カノの相談も受けたこともある。だが、その程度。単なる上司と部下の関係であり、一度異動の命令があれば、会わなくなるような関係である。

 直属の上司が会社で過労死したというニュースは確かにショックであるが、そこまでの出来事なのか?それに、それが原因で婚約破棄?やりすぎだろ。

「でも、こればっかりはどうしようもないだろ?俺が思ってたより、俺の死がショックだったのは分かる。でも、ああなったら、精神科の範囲だろ。それに元カノも話の中でしか知らないし。」

「本当にそうでありんすか?」

「それはどう言うこと?」

「さあ?でも、部下も大変ですな~。あんなに慕ってた上司が表面しか見てくれないような人やなんて…。もう少し表情とか仕草とか気ぃつけて見てくれはりませんの?」

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