仕事③ー2
「ほらほら、見てみて。勝ったよ。」
コントローラー片手に、体を上下させながら報告してくる。
「そうだな。頑張ったな。」
頭をポンポンと軽く叩いて讃える。すると「ニヒヒヒ」と顔を綻ばせる。
「教えてくれた方法でやったらすんなりできたんだよ。」
(そうそう、この頃の詩が一番距離が近かったな)
遠い過去の感傷に浸ってしまう。
一通り褒めたところ、気になっていた点を聞いてみることにした。
「なあ、俺のことどう見えてる?」
「ん?どういうこと?」
「いや、どう思ってるのかなって。」
「いやいやいや、全然異性としては見てないよ。何というか……兄貴みたいな。」
その“兄貴”と言う言葉に心がズキンと傷んだ。
「可笑しいよな。会ったばっかりなのに。それに、バカ兄貴がいたんだよ。」
顔は笑っているが、そこには覇気がない。
「そう言えば、よく似てるよ。だから、兄貴みたいだと思ったんだろうな。」
その目の端には涙が溜まっていた。
「すまないな。バカ兄貴と似てるなんて言って。でもそっくりだよ。」
涙を拭って笑顔を作るが、本心からの笑顔ではないことはすぐに分かった。
「ったく。あいつは何してんだか…。」
空虚な世界にぽつりと声が漂う。
今までの二人と同様に詩も何かを抱えている様子だった。
だが、“兄と似ているただの他人”に心を開いてくれるだろうか?
“俺”だと分かれば、腹を割って話せる自信がある。だが、ルール上、それはできない。
「どうすればいいものだろうか?」
頭を抱えていると、先程までの詩の姿を振り返る。
「そっか、どうにかなるかもしれん――。」
今になって初めて、あの大男を探しに向かった。
「おりゃあああぁぁぁっっ!!」
引き続きゲームをしている詩は昨日以上に荒れていた。
「おらおらおらっっ。よっしゃーーー!!」
戦闘も計画や策略など皆無な只の暴力の塊。向かってきた相手を単に潰していく。
「くそーーーっ!!負けた負けたぁ。」
信悟と一緒にやった時よりは順位が悪いが、詩にはそんな事どうでも良かった。
ただの八つ当たりなのだから。
「ったく、あいつは来ないし。何してんのよ。」
あいつとは兄の信悟に他ならない。
ゲームでの戦いが二十を超えた頃――。
あるキャラクターがマッチングして来た。
「嘘――。」
その名前に涙が溢れ出る。コントローラーが震える。
「何で、何で今更出てくるのよ。バカ兄貴っ!!」
叫んだ先の画面では『テルフィー』、詩と遊ぶ時の信悟のキャラクター名が煌々と光っていた。
「何で、何で今更出てくるのよ。バカ兄貴っ!!」
渾身の叫びをするが、その返事は――
「おっ、おう。久しぶり。」
何とも淡泊なものだった。
「じゃあ、やろうか。」
「でも、後二人マッチングしないと……。」
「大丈夫だよ。さあ、行こう。」
「えっ、何で?」
動揺する詩を待たずに、戦闘がスタートする。
本来は二人ではスタートできない仕様であるにも関わらず、勝手にプレイが始まる。
淡々と敵を撃ち殺していく信悟――。
その後ろを着いていくだけの詩――。
時には出会い頭に、時には罠に嵌め、時には待ち伏せもした。キル数がどんどん増えていく。最早芸術的な殺戮だった。
「じゃあ、ここから敵が来るから。」
そう言い残し、数分後には指定の場所に敵がやってくる。全てが信悟の手の中だった。
最小限の会話で、圧倒していく。
気付けば、数々の屍の上に2人は立っていた。頭上には「Congratulation!!」と一位を讃える文言がでかでかと載っている。
だが、詩には喜びの表情はない。
「なあ。」
信悟は優しく問いかける。
「ごめんな。」
「何で謝るのよ。」
「いや、何か怒ってるかなって。」
「……怒ってるよ。」
一度堰を切った言葉は止まることを知らない。
「怒ってるよ。いつもいつも兄貴の背中を追いかけてきた。かけっこの時もドッチボールの時もずっとずっと兄貴に近づきたい、超えていきたいって。でも、中学に入るとそれぞれ友達と遊ぶ時間が増えて、何か遊びにくくなって。でも、ゲームに誘ってくれた。めっちゃ嬉しかった。また、あの頃みたいに馬鹿出来るって。何度も何度もやって、何度も何度も負けて。昔に戻ったみたいで面白かった。でも、いつかは超えてやるって、負かしてやるって。そう思っていたのに、就職も私より大手に入るし、結婚も早かった。そんなことでも先に行くのかよって。でも、何か兄貴らしいなって。ちょっと誇らしかった。なのに、何で死んじまうんだよ。現実はゲームじゃねーんだよ。死んだら終わりなんだよ。そんなに早く逝くことないだろ。少しは……私を待っててよ。」
詩の矢継ぎ早の告白に信悟は圧倒される。だが、引くわけには行かない。
「……俺はお前の兄でいたかったんだよ。」
「えっ?」
「詩の事は大事な大事な妹だったし、俺にもプライドがあったからな。かけっこもドッチボールも詩に勝てる年までしか勝負しなかった。だってお前凄いんだもん。一回やって数か月するとめっちゃ強くなってんの。ほんとビックリしたわ。だから絶対、ずっと勝てる事を探した。それがゲームだったんだよ。これなら勝てるって。俺のプレイ時間知ってるか?数千時間は超えてる。さすがに超えられることはないと確信したね。だから、最後にもうワンプレイしようか。俺とタイマンで勝負――。負けたら勝った方の言うことを何でも聞くってことで。」
テレビ画面を見ると、勝手にスタートのカウントダウンが開始される。
『5・4・3・2・1・スタート』
「ほらほら、早くしないと。こっちは武器全部とってしまうぞ。」
信悟が慣れた動作で武器を回収していく。お互いの場所は分からないが、信悟は何を得たかを逐一報告していく。
「待ってよ。」
詩も少し遅れて武器を探しに行く。




