仕事②ー3
笑顔いっぱいのまま、ご飯を食べる空を見てほっこりしてしまう。
「「ごちそうさま。」」
このまま終わればどれだけ楽しいだろうか。脳裏には奴の言葉がよぎる。
「あるのは『進む』のみなのよぉ~」
拳を握りしめ、決心する。
「なあ、空。」
「なあに。」
呼びかけると、空がごそごそと膝の上に移動していく。
「なあ、最近、何か困ったこととかないか?」
「別にー。」
「ほんとに?例えば、親のこととか―。」
ガチャと大きな音を立て、食器が落ちる。空が頼んだのがお子様ランチだった為、器がプラスチックだったことが功を奏し、割れることはなかった。
「おい、大丈夫か?」
体を捻じり、皿を拾い上げる。空に目線を移すと、肩がブルブル震えている。
その小さな体を後ろから優しく抱きしめる。
「大変だったな。」
堰を切ったように空は嗚咽を漏らし、大量の涙を流した。
ゆっくりと時間をかけて空を慰める。
涙も止まり、落ち着いた頃。酷だとは思ったが、やるべきことがある。
「なあ、何があったんだ?」
「えっと、パパが、パパがいなくなったの。それで、ママもほとんど家にいなくて、それで、それで、」
「ゆっくりで良いよ。ママはどうして家にいないの?」
「お仕事。」
「そっかー。忙しいんだね。寂しかったね。」
頭を撫でる。空は首を縦に振る。
「家にいてもいないから、いつもここにいるの。」
「友達は?」
空は友達も多かったはずだ。だが、首を横に振る。
「もう、誘ってくれないの。」
「そうか。悲しいね。」
何となく、話の全体像が分かってきた。
俺が死んだことで、妻が仕事に復帰。貯金もそれなりにあっただろうが、生活レベルを維持するためにも、必死に働いたのだろう。その気持ちは嫌なほど分かる。
だが、それが原因で空が一人でいることが増えた。周りもそれを察したのだろう。少しずつ人が離れていく。明るい性格もだんだんと暗くなり、より孤立していく。完全な悪循環である。
なんだ、俺のせいじゃないか。俺が死んだばっかりに…。
でも、後悔は後だ。目から血が出るほど自らを呪いたくなるが、今は目の前の空を助けることが優先だ。
「なあ、空。パパがいつも言っていた言葉があるんじゃないか?」
首を縦に振る。
「教えてくれないか?」
「『空を愛してる。』って。」
「そうだな。パパは空を愛してる。パパはどんな空が好きだと思う?」
「分かんない。」
「じゃあ、何をしている時が楽しそうだった?」
「遊んでる時、学校の楽しい話をした時、ママと私とご飯を食べている時。」
「そうだね。よく覚えてるね。なら、これからもパパが好きな空でいてほしいな。」
「…無理。」
「なんで?」
「だって、もうパパもいないし、ママもあんまり会ってくれない。友達も遊んでくれない。」
再び涙が零れ落ちる。
「空はどうしたいの?」
「パパは無理でも、ママと毎日会いたい。友達とも遊びたい。パパに『楽しいよ』って『幸せだよ』って言いたい。」
顔をくしゃくしゃにして叫ぶ。
「じゃあ、ママや友達と話さないとな。」
「えっ?」
「大丈夫。少なくともママは話を聞いてくれるよ。」
「ほんと?」
「ママも皆も知らないだけだよ。だから、話して。一回ではダメでも二回、三回でも諦めないで。必ずの味方はいるから。」
「味方でいてくれる?」
“俺も味方か?”という問いだろう。これ以上ない簡単な問いだ。俺は過去最高の顔で答える。
「勿論さ。」
次の日――。
「ねえ、ママ。」
「どうしたの?こんなに夜遅くに。寝てなきゃダメじゃない。」
言葉は強いが我が子を案じる愛のある物言いだ。
スーツの上着を脱ぎ、ハンガーに掛ける。
「どうしても言いたいことがあるの。」
「ごめんね。私も疲れてるの。またいつか時間とるから、ね?」
「う、うん…。」
反射的に頷いてしまう。
(諦めないで)
あの夢に出た人が言ってた言葉が頭をよぎる。
「ママっ。」
「どうしたの?大きな声出して。」
「私、もっとママと一緒にいたいっ。」
心からの叫びだった。
「ごめんね。」
澪の肩からバッグを落ちる。バッグが床に当たるより早く、空を抱きしめる。
「寂しい思いをさせてたのね。ごめんね、気づかなくて。ごめんね。」
「寂しかったよー。もっとママと話したいよー。遊びたいよー。」
久し振りに二人で夜を過ごしたのだった。




