表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

仕事②ー2

 次の日――。

「よし。頑張るぞ。」

 気合を入れてから、扉を開く。陽気な音が鳴る。

 今回は脇目を振らず、一目散に指定の席に向かう。

「こんにちは。」

 昨日同様、挨拶をし席に座る。勿論、返事はない。

「なあ。何歳?小学生?名前は?友達とは何して遊ぶの?ここはよく来るの?」

 怒涛の質問責めををする。返事は帰ってこないが、それでも諦めない。

「最近流行ってるのとかある?アニメとか見る?お母さんはどうしてるの?」

 “お母さん”という声を聞いた瞬間、メニューを閉じ、テーブルに叩きつける。

「ど、どうしたんだよ。」

「お母さんは――。」

 続きを言い止まり、別の席に移動する。見たこともないような寂しそうな目をしていた。

 これ以上の追及は酷だと判断し、諦める。

「何やってんだよ、あいつ。」

 頭を抱え、今日は何も食べる気にもなれなかった。


 次の日――。

「や、やあ。」

 例のごとく、声を掛ける。今日は一瞬だけ目線を返してくれた。

 昨日までと違い、ちらちらとこちらの様子を伺っている。

「どうしたの?」

 優しく問いかける。気づかれるとは思わなかったのだろう。メニューで顔を隠す。数秒かけてゆっくりと顔を出す。

「この前、何でカルボナーラが好きだって分かったの?」

「あっ…。」

 何て聡い子なんだ。一昨日注文したものとその経緯まで覚えていたのだ。

「だって俺の――。」

「俺の?」

「俺の娘だから―」と言いかけて止める。このまま真実を伝えて、娘をこのままにする訳にはいかない。

「俺にも娘がいるからな。カルボナーラ好きの。」

「へー、そうなんだ。」

 訝しんだ目でこちらを見る。

「じゃあ、何でこれを頼んだの?」

 指さした先には『五種類のとろーりチーズのハンバーグとじゅわーと肉汁ステーキ定食』の写真が載っている。

「だって、1つの注文でたくさん食べられるじゃん。」

 何て馬鹿みたいな答えをしてしまう。

「フフッ。」

(笑った?)

 ほんの僅かに笑みを零したことを信悟は見逃さなかった。

「君が好きなものを教えてくれないか?食べ物でも、友達でも、芸能人でも、アニメでも何でも良い。君のことが知りたいんだ。」

「――ない。」

「えっ?」

「君じゃない。空。私の名前。」

「ははは。そうか。そうだな。いい名前だ。ああ、いい名前だ。」

 今まで名前を聞いていなかったことに気がつき、高らかに笑う信悟。

「それで、何が好きなんだ?」

「えーと、えーと…。」

「ゆっくりで良いよ。時間はいくらでもあるから。」

 空はたくさんの話をしてくれた。好きなこと、楽しいこと、面白いこと、いろいろなことを教えてくれた。私が生きていた頃の出来事も死んだ後のことも全部教えてくれた。

(何で生きていた頃にもっと目の前の空と向き合って来なかったのだろう。もっと一緒の時間をとるべきだった。)

 心の中で空が笑顔で話してくれた嬉しさと生前の後悔を心に募らせるのだった。


「ハハハハっ。」

 何をやっても笑いがこみ上げる。下品な高笑いではなく、慈愛に満ちた微笑みである。

「楽しそうですねぇ~。」

「全く、こんな時にも来るのかよ。」

「ええ。これが仕事ですものぉ~。」

「仕事って死後に仕事ってあるのかよ。」

「あなたは死んできましたがぁ~、私たちはここが生きてる場所ですからねぇ~。だからぁ~」

 意図的に間を置いて続ける。

「これからが本題ですからねぇ~。」

「分かってるって。でも今日、この時だけはこの余韻に浸らせてくれ。」

 しみじみ噛み締めながら、決心した。


 次の日――。

 扉を開ける音に空の耳が反応する。

 扉を閉め終わる前に、前方から軽やかな足音が聞こえる。

「やーーー。」

 鈴が鳴るような声とともに子どもが勢いのまま飛びついてくる。

「おっ、おっと。」

 その相手を信悟は抱え上げる。空は目を細め顔を埋める。

 席に着くと、さもそれが当たり前であるかのように隣に座る。

「ねえ、ねえ。何にする?」

 死後、初めてあった時と同一人物かと疑いたく程の変わりようだった。

 それでも、信悟の記憶にある空のままだった。

「ねえ、ねえ。今日は、今日は―。」

 その姿を見ると、自然と涙が頬を伝う。

「えっ、大丈夫?どうしたの?」

 空の突然の変異に困惑の表情をする。

「いやいや、大丈夫大丈夫。ちょっと目にゴミが入っただけ。」

 誤魔化しては見るが、余りにもありきたりな内容である。

 覗き込むように顔をじろじろ見てきたが、「大丈夫」という言葉を鵜吞みにしたのか、メニューに目を戻す。

「じゃあ、んー、お子様ランチセットぉ!!」

 高らかに宣言をする。子どもの通りやすい高い声がフロアに響き渡る。

「ははははは。」

 よく、「声が大きい」って注意してたっけ?娘の一挙手一投足に感情が揺さぶられる。

「ねー何にする?何にする?」

 メニューを目の前にドアップで見せてくる。

「そうだな、じゃあ、今日はかつ丼セットで。」

 そうだ、今日は勝たねばならぬのだ。何にかは分からんが…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ