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仕事②ー1

「おはようございますぅ~。」

「うーーん。」

 誰かが間の抜けた声で起こしに来た。昨日の憂鬱な気分を引きずっていた信悟は不快感を表に出す。

「あらあらー。」

 反抗的な態度であったが、咎める様子はない。

「もう行きたくないー。」

 こことぞばかりに、子どものように甘える。

「あららぁ~。どうしましょう~。でもぉ~やらないとぉ~、今度は子どもが救えないんですよぉ~。」

「――ッ。」

 “子ども”というワードに体が反応する。

「そうですよぉ~。あなたの子ども空ちゃんですよぉ~。」

「やるっ。絶対俺が救ってやる。」

 飛び跳ねるように体を起こす。

「やる気になってくれてぇ~嬉しいですよぉ~。でもぉ~ルールは覚えていますよねぇ~。」

「勿論だ。空を守るためなら、何でもしてやるよ。それが、父親として最期にできることなんだから…。」

 俺は歩みを進める。


 扉の前で気合を入れて、扉を開ける。

 緊張した面持ちからとは裏腹に、「カランコロンカラン」と朗らかな音が鳴る。

 中に入ると、庶民的は家族向けのレストラン。俗に言うファミリーレストランであった。

 店内を見渡す必要もない。いつもの席だと分かっているから。

 店員が出入りするところから一番近く、ドリンクコーナーからも曲がらずに座れるところ。

「だって、一番早く食べられるし、ジュースもギリギリまで注げるから。」

 という理由らしい。子どもにとっては外の景色何かはどうでも良いのだ。正に実利主義である。

 例に漏れず、いつもの席にその子はいた。足をぶらぶらさせ、テーブルの上でメニューを広げている。

(ああー、俺が一番大切な人。俺が守りたかった人。俺が守れなかった人。)

 姿を見ただけで涙が溢れ出してくる。

 直ぐに駆け寄りたい。抱きしめたい。でもそれが叶わない。

 彼らと決められたルール

 ・一回につき期限は一週間。七回。

 ・島田信悟が特定されることは言わない

 厳密に決められたルール。また空に会えたのは天使の奇跡と言えるが、この制限は悪魔の契約とも言える。

「やあ、こんにちは。」

 今すぐ抱きしめたい衝動を必死に堪え、平静を装う。

「………。」

「こんにちは。」

 聞こえなかったのかと、先程より大きな声で話しかける。

「………。」

 それでも返事は返ってこない。

(あれ?空って無視するような子ではなかったはずだ?)

 我が子ながら心配になるが、空はメニューを見つめ続ける。

 仕方がないので、そのまま向かいに座る。

 よく見ると、目が虚ろだ。いつもニコニコしていた空の姿はどこにもない。

「何?」

「いや、何してるんだろうってね。」

「何も。」

「……まあ、とりあえず飯でも食うか。」

 呼び鈴を鳴らし、店員が来ると、

「俺は、うーん。じゃあ、折角だから『五種類のとろーりチーズのハンバーグとじゅわーと肉汁ステーキ定食』。それと、空は?」

「何でもいい。」

「じゃあ、『お子様用カルボナーラ』で。」

 その時、始めて空がメニューから目を離した。


 それからどれだけ声を掛けても反応はなかった。


「どうなってんだよ。」

 信悟は頭を抱える。自分の記憶にある我が子と実際に見た姿との違いを受け入れられずにいる。

 思い出の中の空は活発な子だった。部屋の中で本を読むようなタイプではなく、外で友達と走り回っているものばかりだ。

 にも関わらず、目の前にいた空は虚ろな目でメニューをひたすら眺めるだけだった。

「何が起きたんだ?」

「あらあら~。」

 優しい口調で話しかけられ顔を上げる。

「そ、そうだ。空に何があったか教えてくれよ。何があったんだよ。」

「それは、無理なのですよぉ~。」

 きっぱりと否定される。てっきり「良いですよぉ~。」と言われると思っていただけに予想が外れる。

「何でだよ。」

「あれはぁ~特別対応なのですよぉ~。」

「そんな…。」

「だからぁ~」

 項垂れる信悟の肩に手を置き、優しくと芯のある声で言う。

「あなたがしっかりと向き合わなきゃいけないんですよぉ~。」

 信悟は顔を上げる。

「お母さんは子どもを育て、愛を教える。では、お父さんは?」

「それは…。」

「お父さんは最後の砦なのよぉ~。お父さんは普段は子どもと接する時間はどうしても少ないからぁ~子どものちょっとした出来事とかにはあまり関わりにくいのぉ~。だからこそ、ここぞって時に強火でじっくり関わるのよぉ~。お父さんには『戻る』とか、『一時停止』とか、『逃げる』って選択肢はないのぉ~。あるのは『進む』のみなのよぉ~。」

 穏やかな口調の中だが、言葉は心に響いた。

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