仕事①ー2
「…何してるんですか?」
「…なんだよ。」
門前と別れ、足を止めて俯いている中、背後から声を掛けられる。
「先程の様子、見ていましたよ。」
「だからなんだよ。」
「あんな調子では期限までに終わることやら…。」
「あいつに、何て言えば良いんだよっ。」
「私達にそのような言葉遣いは…。」
「だから何て言えば良かったんだよっ。」
涙を両目から溢れ出しながら、相手の胸倉を掴み叫ぶ。
「お前達には分ってるんだろ?教えろよ。何をさせたいんだ?何をすればいいんだ?」
その場で崩れ落ちる信悟――。
「ハハハハ。だったら、知ると良い。真実と彼の思いを。」
面白いものを見つけたと高らかに笑う彼。手を伸ばし、頭を掴む。すると、
「ギャーーー。」
何者かの記憶が頭に刷り込まれる。
幸せな学園生活。ある友人との出会い。青春の日々。
社会人の苦悩。親友から恋人の紹介と動揺。急すぎる別れ。
荒れ狂う生活。見てられない親友の人生。
余りにもよくある、だが残酷な生活――。
その情報の全てが脳に心に突き刺さる。溢れんばかりの情報量に体が拒絶反応を示す。
「おえーー。」
その場で嘔吐してしまう。先程まで多量のアルコールを飲んでも、一切吐き気はなかったのに、抑えきれない衝動に駆られた。
「な、なんだよ。これを知ってどうしろって。」
「知っているのと知らないのでは言葉の重みが違う。まあ、今回だけの特別サービスってやつだよ。」
「本当、どうしたら良いってんだよ。」
「どうすれば残された者が幸せになるか、必死に考えるんだな。」
「もう、どうしたら良いんだよ。」
「むーーっ。」
「おいおい、珍しいな。そっちが先に来てるなんて。」
「珍しいって何だよ。まだ3回目だろ。」
「おうおう、荒れてんなー。聞いてやるよ。」
いろいろと考えた挙句、俺は酒に逃げた。いつもより早く店に入り、酒を浴びるように飲んだ。
「実はな…。」
重要な部分は秘匿にしながら、これまでにあったことを打ち明けた。
「別れた奥さんと知り合いが結婚か――。何と言うか、お前も大変なんだな。」
「そうなんだよ。」
主にお前のせいなんだけどな…とは言わないでおいた。
「そうか…。」
持っていたグラスをゆっくりと置き、ポツポツと話し始めた。
「そっか。お前も大変だろうが、その人も大変だったろうな。」
その眼は遠くを見ていた。
「どうしたら良いと思う?」
「………。」
「なあ、どう思う?」
「お前は奥さんにも、その人にも幸せになって欲しいんだろ?」
ゆっくりと確かめるように頷く。
「もし、だよ。万が一。その人を男が奥さんを支えたいと思っていたら、どう思う?」
「もし、そうなったら―――幸せにして欲しいと思う。」
「良いのかな?」
「良いんじゃないか?俺が最後まで幸せにできなかったんだ。だったら、その後は誰とも知らない奴に取られるくらいなら、一番信頼している奴に任せたい。」
「そいつが嘘を吐いていたとしても?」
「関係ねえよ。俺が見ていたのが全てだ。」
「そっか。」
門前は残りの酒を一気に飲み干し、席を立つ。
「今までありがとう。きっと今日で会うことはなくなると思う。だけど、お前のことは絶対に忘れない。」
「そんなこと…。」
ない、とは言い切れなかった。現在の状況が超常的なものなのだ。いつ“次”がなくなるのか確信が持てない。
「もうないよ。そんな気がするんだ。この一週間だけじゃなく、それより前からもきっとどこかで会っていたんだと思う。だからありがとう。」
迷いがない強い瞳をしていた。
「ああ。後は宜しく頼んだぞ。」
そういうと、門前は店を出た。
「俺と結婚してください。」
ある男がある女に結婚を申し込んだ。女は困った顔をしたが、ゆっくりと差し延ばされた手を優しく重ねた。
「何とも言えない顔してますね。」
「……。」
背後から声を掛けられたが、考え事をしていた信悟の耳には届かなかった。
「無視はいけません。無視は。」
低い声と大きな物音で振り返ると、笑顔のまま、威圧感を放っていた。
「…俺は死んだんだな。」
涙を零し、ポツリと嘆く。
「そうだ。お前は死んだ。だが、来世の転生先を決める為に、前世の清算をしてもらう。先ほどの1人を除いて後6人。人生を救ってもらう。」
そう、信悟は自らの人生が幕を閉じたことを理解したのだ。




