表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

仕事①ー2

「…何してるんですか?」

「…なんだよ。」

 門前と別れ、足を止めて俯いている中、背後から声を掛けられる。

「先程の様子、見ていましたよ。」

「だからなんだよ。」

「あんな調子では期限までに終わることやら…。」

「あいつに、何て言えば良いんだよっ。」

「私達にそのような言葉遣いは…。」

「だから何て言えば良かったんだよっ。」

 涙を両目から溢れ出しながら、相手の胸倉を掴み叫ぶ。

「お前達には分ってるんだろ?教えろよ。何をさせたいんだ?何をすればいいんだ?」

 その場で崩れ落ちる信悟――。

「ハハハハ。だったら、知ると良い。真実と彼の思いを。」

 面白いものを見つけたと高らかに笑う彼。手を伸ばし、頭を掴む。すると、

「ギャーーー。」

 何者かの記憶が頭に刷り込まれる。

 幸せな学園生活。ある友人との出会い。青春の日々。

 社会人の苦悩。親友から恋人の紹介と動揺。急すぎる別れ。

 荒れ狂う生活。見てられない親友の人生。

 余りにもよくある、だが残酷な生活――。

 その情報の全てが脳に心に突き刺さる。溢れんばかりの情報量に体が拒絶反応を示す。

「おえーー。」

 その場で嘔吐してしまう。先程まで多量のアルコールを飲んでも、一切吐き気はなかったのに、抑えきれない衝動に駆られた。

「な、なんだよ。これを知ってどうしろって。」

「知っているのと知らないのでは言葉の重みが違う。まあ、今回だけの特別サービスってやつだよ。」

「本当、どうしたら良いってんだよ。」

「どうすれば残された者が幸せになるか、必死に考えるんだな。」

「もう、どうしたら良いんだよ。」


「むーーっ。」

「おいおい、珍しいな。そっちが先に来てるなんて。」

「珍しいって何だよ。まだ3回目だろ。」

「おうおう、荒れてんなー。聞いてやるよ。」

 いろいろと考えた挙句、俺は酒に逃げた。いつもより早く店に入り、酒を浴びるように飲んだ。

「実はな…。」

 重要な部分は秘匿にしながら、これまでにあったことを打ち明けた。

「別れた奥さんと知り合いが結婚か――。何と言うか、お前も大変なんだな。」

「そうなんだよ。」

 主にお前のせいなんだけどな…とは言わないでおいた。

「そうか…。」

 持っていたグラスをゆっくりと置き、ポツポツと話し始めた。

「そっか。お前も大変だろうが、その人も大変だったろうな。」

 その眼は遠くを見ていた。

「どうしたら良いと思う?」

「………。」

「なあ、どう思う?」

「お前は奥さんにも、その人にも幸せになって欲しいんだろ?」

 ゆっくりと確かめるように頷く。

「もし、だよ。万が一。その人を男が奥さんを支えたいと思っていたら、どう思う?」

「もし、そうなったら―――幸せにして欲しいと思う。」

「良いのかな?」

「良いんじゃないか?俺が最後まで幸せにできなかったんだ。だったら、その後は誰とも知らない奴に取られるくらいなら、一番信頼している奴に任せたい。」

「そいつが嘘を吐いていたとしても?」

「関係ねえよ。俺が見ていたのが全てだ。」

「そっか。」

 門前は残りの酒を一気に飲み干し、席を立つ。

「今までありがとう。きっと今日で会うことはなくなると思う。だけど、お前のことは絶対に忘れない。」

「そんなこと…。」

 ない、とは言い切れなかった。現在の状況が超常的なものなのだ。いつ“次”がなくなるのか確信が持てない。

「もうないよ。そんな気がするんだ。この一週間だけじゃなく、それより前からもきっとどこかで会っていたんだと思う。だからありがとう。」

 迷いがない強い瞳をしていた。

「ああ。後は宜しく頼んだぞ。」

 そういうと、門前は店を出た。


「俺と結婚してください。」

 ある男がある女に結婚を申し込んだ。女は困った顔をしたが、ゆっくりと差し延ばされた手を優しく重ねた。


「何とも言えない顔してますね。」

「……。」

 背後から声を掛けられたが、考え事をしていた信悟の耳には届かなかった。

「無視はいけません。無視は。」

 低い声と大きな物音で振り返ると、笑顔のまま、威圧感を放っていた。

「…俺は死んだんだな。」

 涙を零し、ポツリと嘆く。

「そうだ。お前は死んだ。だが、来世の転生先を決める為に、前世の清算をしてもらう。先ほどの1人を除いて後6人。人生を救ってもらう。」

 そう、信悟は自らの人生が幕を閉じたことを理解したのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ