仕事①ー1
ガチャリと音を立て、ノブを回し、扉を開く。
そこには見慣れた大衆居酒屋がそこにあった。
「いらっしゃいませ。」
元気な声がこだまする。
「一名様ですか?」
アルバイトであろうか、学生ぐらいの若い女子が朗らかに問う。
「えーと…。」
頭を悩ませ、周囲を見渡すと、明らかにその場にそぐわない人間がそこにいた。
「もしかして待ち合わせの人ですか?」
「あ、あの人と待ち合わせてます。」
その人物を指差し、答える。
テーブル席に倒れ込むような姿勢で倒れ込んでいる人物に声を掛ける。
「相席いいですか?」
「はあ?見て分かんねーか?」
頭を上げず、持っていたグラスを持ち上げ応える。
「別に良いじゃねーか。」
強引に席に着くが、「ちぇっ。」と舌打ちするだけで、それ以上の拒否反応はしてこない。
席について早々、店員を呼び、注文をする。
「あっ、生1つと…揚げ出し豆腐」
「!!」
頑なに頭を上げなかった男が驚きの表情を浮かべる。
「どうした?」
「お前、好きなのか?」
「何が?」
「揚げ出し豆腐だよ。」
「まあな。」
「ははははは。そうか。好きか。良いぞ良いぞ。」
急に明るくなり、肩を叩き始める。痛い。
「何だよ。お前も好きなのかよ。店員さん、揚げ出し豆腐2つ。」
「俺はもう食わないぞ。」
「良いから良いから。食わなきゃ俺が2つ食うから。」
「そうかそうか。ガハハハッ。」
本当にさっきの奴と同一人物か?もう何か怖いぞ。
――それから2時間程――
「「ガハハハッ。」」
肩を組み、酒を酌み交わし、笑い合い、どんちゃん騒ぎしている。
「ほんと、初めて会ったとは思えねえな。」
「そうだな。ずっと前から友達…いや親友だったかのようだ。」
「「ガハハハッ。」」
大騒ぎも大騒ぎ。そのまま、潰れるまで飲みまくった。
(ああ、こんな幸福感はいつ振りなのだろう。)
「あー、楽しかった。」
宴も酣と、解散をし、帰路に着く。と言っても、店を出ると、ただ何もない空間が広がるだけだった。
「ああー、楽しんでいますね。」
気持ちよく酒を楽しんでいた信悟は不気味な声に寒気を覚えた。
「とても楽しそうだけど分かっているか?これは遊びではないんだぞ。」
「…分かってます。」
「それなら良いですが…。頼みますよ。」
「それはさておき、なぜ門前なんだ?」
「別に気にしなくて良いことだ。もしくは…。」
帯刀していた剣に手を掛ける素振りをする。
「いえいえ、分かりました。分かりましたから。」
そう言うと彼は剣から手を離した。
門前大輔は寺田信悟の親友だった。腐れ縁であったが、家族以外では最もお互いを知っており、大事に思っていた相手だろう。なぜ門前なのか?突き止めるにはもう一度行くしかない。腹を決めて、再度居酒屋に入る。
「やあ。」
「今日も来たのか。」
「まあな。」
期待の目で見てくる門前は苦笑いで返す。
今回は了承を得ずに、テーブルに着く。
「今日はどうするんだ?」
「勿論…」
二人でにやけ顔をして、店員を呼ぶ。
「「生と揚げ出し豆腐」」
連日連夜に及ぶどんちゃん騒ぎに気持ちは高ぶり、心地よさに酔いしれる。
「ガハハハッ。本当にお前は良い奴だな。」
「そういうお前もな。」
またしても2時間ほどの楽しい時間は瞬く間に過ぎ去る。
「うっ、ちょっとたんま。飲み過ぎた。」
初めて出会った時と同じようにテーブルに突っ伏してくる。
「おいおい、大丈夫かよ。水飲むか?」
「おお、助かる。」
受け取ったグラスを一気に飲み干す。
「お前と会った時も同じように項垂れてたな。何かあったか?」
「ああ、そうだな。あったんだよ。いろいろとな。」
初めて歯切れの悪い回答が返って来た。
ポツポツと懺悔をするかのように、言葉を零していく。
「俺は、大事な人がいたんだ。お前みたいな、とびっきりの親友が。何をするにも一緒だった。遊びもゲームも、年に数回は旅行にも行った。地方の祭りやいろんな大会に参加したりもした。とっても楽しかった。俺の人生の財産だ。何物にも代え難い思い出だ。そんなあいつが彼女を紹介してきた。その時は驚いたよ。何なら結婚間近で、彼女のお腹には赤ちゃんができてたって。それより驚いたのが、彼女が俺の元カノだったってことだ。」「えっ?」
「驚くだろ?でも、その時、咄嗟に知らないふりをしたんだ。そのまま二人は結婚して無事出産もした。とてもおめでたいことだった。」
「それは良かったな。」
「良かったが、そこからが地獄だったんだ。あいつは家族を守る為、より一層仕事に精を出した。いつしか『家族には不自由させない』ってのが口癖になった。それに反して、あいつはやつれていった。会う頻度も週一になり、月一、数か月に一回と減っていった。」
「そっか…。」
「最近会っていないなと思っていたその頃―。あいつの訃報が届いたんだ。」
「えっ?」
再度、急な話の転換に驚きを隠せない。訃報?誰の?俺の?
「過労だって。あいつ。家族を守るために働いてたってのに、家族を置いて死んじまったら元も子もないだろ。ほんと、馬鹿で、最悪で、そして最高な奴だったよ…。」
涙を目に浮かべる門前。その眼には後悔が浮かんでいた。
「そうか、それは…。」
続く言葉が出て来なかった。




