空から来た少女
第十話 空から来た少女
王立アルカディア学園の上空。
巨大な魔法陣が広がっていた。
空そのものに描かれたような青白い紋様。
生徒たちは騒然としている。
「なんだあれ!?」
「敵襲か!?」
「避難しろー!」
校庭は大混乱だった。
◇◇◇
一方。
僕たちは校舎の屋上に集まっていた。
「ベル」
「はい」
「説明できる?」
「できません」
「即答だね」
ベルも困っていた。
エルフィアは真面目な顔をしている。
「世界の外側から反応があります」
「外側って?」
シオンが聞く。
エルフィアは空を見上げた。
「この世界以外です」
「分からん!」
シオンが叫んだ。
僕も同意だった。
◇◇◇
その時だった。
巨大な魔法陣の中心が光る。
そして。
何かが落ちてきた。
「うわあああああ!」
女の子の声。
「え?」
「人!?」
本当に人だった。
空から落ちている。
かなりの勢いで。
「危ない!」
僕は咄嗟に手を伸ばした。
すると。
ゴォォォ!!
風魔法が発動。
落下速度が一気に落ちる。
そして。
ぽすっ。
僕の腕の中に少女が着地した。
◇◇◇
「た、助かった……」
少女が目を開ける。
綺麗な銀色の髪。
夜空みたいな紫色の瞳。
年齢は僕たちと同じくらい。
可愛らしい顔立ちだった。
そして。
僕を見る。
じーっ。
見ている。
すごく見ている。
「えっと?」
すると少女の顔が明るくなった。
「見つけた!」
「え?」
「やっと!」
「え?」
次の瞬間。
少女は僕の手を握った。
「ご主人様!」
「違うと思う!!」
◇◇◇
屋上が静まり返る。
数秒後。
シオンが吹き出した。
「ぶはっ!」
「笑うなよ!」
「だって!」
リンも肩を震わせている。
笑いを我慢しているらしい。
◇◇◇
メイアは少女を見ていた。
「敵?」
「違うと思う」
「たぶん」
「たぶん怖い」
その"たぶん"が怖い。
◇◇◇
「ご主人様!」
少女はキラキラした目を向ける。
「私です!」
「誰!?」
「あ」
少女は固まった。
「自己紹介忘れてました」
忘れてたんだ。
そこ大事だよね。
◇◇◇
少女は一歩下がる。
そして綺麗にお辞儀した。
「私の名前はルナです!」
「ルナ」
「はい!」
「よろしく」
「よろしくお願いしますご主人様!」
「だから違うと思う!」
◇◇◇
するとベルが近づいてきた。
「ルナ」
「はい?」
「どこの世界から来たのですか?」
ルナは少し考える。
「うーん」
「うん」
「世界番号三七二です」
「余計分からない」
ベルだけ納得していた。
どうやら専門用語らしい。
◇◇◇
その時。
エルフィアが驚いた顔をした。
「まさか」
「どうしたの?」
僕が聞く。
エルフィアはルナを見る。
「その髪飾り」
ルナの頭には青い宝石が付いていた。
「はい?」
「それ、星渡りの証です」
ベルも目を見開く。
「本当ですね」
ルナは首を傾げた。
「有名なんですか?」
「とてもです」
◇◇◇
空気が少し変わった。
どうやらルナはただの少女ではないらしい。
しかし。
「ご主人様!」
「うん?」
「お腹空きました!」
真面目な空気が一瞬で消えた。
「えぇ……」
「三日くらい何も食べてません!」
「大丈夫なの!?」
「たぶん!」
メイアが小声で言う。
「仲間」
「確かに」
"たぶん"を多用する辺り似ていた。
◇◇◇
十分後。
学園の食堂。
ルナは山盛りの料理を食べていた。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
「美味しい!」
「よかったね」
もう十五皿目だった。
シオンが引いている。
「俺より食う奴初めて見た」
「すごいね」
リンも驚いていた。
◇◇◇
その時。
ルナの表情が少し真剣になる。
「実は」
全員が注目する。
「私は皆さんに伝えなければならないことがあります」
ようやく本題らしい。
「何?」
僕が聞く。
ルナは静かに言った。
「世界の外側で戦争が始まりました」
空気が凍る。
さっきまでの明るさが消える。
「戦争?」
「はい」
ルナは頷いた。
「そして、その戦争の原因が――」
そこで言葉を止めた。
そして。
真っ直ぐ僕を見る。
「アキラさんです」
「僕!?」
盛大にむせた。
◇◇◇
食堂中が静まり返る。
「え?」
「なんで?」
「僕まだ異世界来て数か月だよ?」
ルナは真剣な顔で頷く。
「それでもです」
「どういうこと?」
「アキラさんには」
ルナはゆっくり告げた。
「世界を超える力があるからです」
僕は思わず固まった。
ベルも。
エルフィアも。
学園長さえも。
何かを察したような顔をしていた。
ただ一人。
シオンだけが。
「つまりアキラって有名人?」
そんな感想を言っていた。
リンに頭を叩かれていた。
◇◇◇
こうして。
学園生活は再び大きく動き始める。
異世界転生しただけだったはずなのに。
気付けば。
世界の外側の問題まで抱えることになっていた。
僕はただ。
平和に学園生活を送りたかっただけなんだけどなぁ。
第十一話へ続く




