⑨ 解決…のはずが
魔導士は、静かに連行されていった。
騎士たちに両腕を取られながらも、抵抗はしない。振り返ることもなく、ただ前だけを見て歩いていく。
その背中は、不思議なほど落ち着いていた。
まるで、すでに役目を終えた者のように。
扉が閉じる。
重い音が、聖堂に響いた。
――終わった。
誰もがそう思った。
騎士たちは安堵の息を漏らし、緊張がわずかに緩む。宰相も小さく息を吐き、騎士団長は腕を組み直した。
「一件落着……か」
誰かが呟く。
だが、その言葉に応じる者はいなかった。
神谷は、動かなかった。
視線は、床に倒れたままの聖女に向いている。
(……終わっていない)
頭の中で、先ほどのやり取りが反復される。
トリックは成立している。
方法も、証拠も、矛盾なく繋がる。
犯人も特定された。
それでも――
(動機が弱い)
神谷は目を細める。
“危険だったから排除した”
合理的ではある。
だが、それだけだ。
あの魔導士が、あれほど手の込んだ手段を選ぶ理由としては、薄い。
(もっと単純に殺せたはずだ)
毒でも、事故でも、いくらでも方法はある。
なのにわざわざ、回復魔法に細工を施すという回りくどい方法を取った。
(なぜ、あの方法だった?)
そこに、意図があるはずだ。
神谷の視線が、わずかに動く。
聖女の手元へ。
何も掴んでいない。
だが、指先の形がわずかに不自然だ。
(……書こうとした?)
その可能性が浮かぶ。
死の直前。
何かを残そうとした。
だが、残っていない。
あるいは――
(見落としている)
神谷はゆっくりと一歩踏み出した。
周囲のざわめきが遠くなる。
意識は、完全に一点へ集中していた。
(そして何より――)
あの魔導士の言葉。
“気づき始めていた”
何に?
神谷は、倒れた聖女を見下ろす。
静かに横たわるその姿は、もはや何も語らない。
だが確かに、この人物は“何か”を見ていた。
(聖女は、“何かを知っていた”)
その確信だけが、はっきりと残る。
事件は解決した。
だが、核心には触れていない。
神谷は、わずかに目を細めた。
(本当に隠されているのは――)
思考は、そこで止まる。
まだ足りない。
だが確実に、何かが繋がり始めている。
この城の奥にある“異常”へと。




