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魔王はこの中にいる  作者: 南蛇井


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③ 初期発見

帳面は何冊も積み上がり、灯りの周りに円を描くように広がっていた。


 


神谷は黙々と頁をめくり続ける。


 


日付。

時刻。

行動。

記録者の署名。


 


同じ形式。

同じ筆致。

同じような一日。


 


最初は違和感がなかった。


むしろ、整っていると感じた。


 


王の生活は規律正しくあるべきだ。


起床は一定。

謁見は滞りなく。

食事は節度を守り。

会議は欠かさない。


 


理想的な統治者。


 


だが、数日分、数十日分と追っていくうちに、神谷の指が止まった。


 


起床時刻――六刻、固定。

謁見開始――八刻、固定。

食事量――変動ほぼなし。

会議出席――欠席ゼロ。


 


ページをめくる。


 


同じ。


 


まためくる。


 


同じ。


 


さらにめくる。


 


同じ。


 


季節が変わっても。

祭事の日でも。

天候が荒れても。


 


王の一日は、ほとんど揺れない。


 


神谷は別の帳面を引き寄せた。


侍従日誌。


 


――本日も定刻通り起床。

――謁見に遅れなし。

――食事、通常通り。

――会議、問題なし。


 


別の筆跡でも、内容は変わらない。


 


護衛交代表。


 


――異常なし。

――配置変更なし。

――交代時刻、予定通り。


 


夜間警備報告。


 


――灯火確認。

――異常なし。

――巡回完了。


 


神谷は背もたれに体を預け、天井を見上げた。


 


完璧だった。


 


どの記録を見ても、王の一日は乱れない。


遅刻もなければ、欠席もない。

体調不良もなければ、気分の波もない。


 


まるで歯車だ。


 


決められた時刻に回り、決められた動きを繰り返す。


 


人間ではなく、機構のように。


 


神谷は再び視線を落とし、指先で帳面の端を叩いた。


 


(規則的すぎる)


 


規則正しさは美徳だ。


だが、ここまで均一になると別の意味を持つ。


 


人間は揺れる。


 


ほんの少し寝坊する日がある。

食欲が落ちる日がある。

会議を短く切り上げる日がある。

どうでもいい雑談に時間を使う日がある。


 


些細なズレ。


無意味な逸脱。


 


それが人間の生活だ。


 


だが王には、それがない。


 


一日の精度が高すぎる。


 


神谷は小さく呟いた。


 


(人間味がない)


 


言葉にした瞬間、その違和感が輪郭を持った。


 


これは優秀なのではない。


 


“揺らぎが存在しない”。


 


それが問題だ。


 


神谷は帳面を閉じる。


 


昼の王は、あまりにも完成されている。


 


完成されすぎている。


 


だからこそ――


 


どこかに欠けているはずだ。

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