表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王はこの中にいる  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/167

第7話:隠された記録 ① 導入:疑惑の継続

王へ問いを突きつけた翌日から、城の空気は変わった。


 


正確には、二つに割れた。


 


廊下ですれ違う者たちは、以前のように気軽く神谷へ声をかけなくなった。


頭を下げる者もいる。

だが目は合わせない。


 


厨房では、神谷が入ると会話が止まる。


兵舎では、笑い声が途切れる。


礼拝堂では、祈りの最中にも視線だけが向けられる。


 


そして、神谷が通り過ぎた後に囁きが始まる。


 


「勇者が陛下に無礼を働いた」


「公衆の前で問い詰めるなど」


「異界の者は礼を知らぬ」


 


否定的な声は多い。


王はこの国の中心だ。


それを疑う者は、秩序そのものを揺らす。


 


だが、すべてではなかった。


 


「……けれど」


「少し、変ではあった」


「同じことを何度も聞かれて、陛下は……」


「いや、やめておけ」


 


声はすぐに消える。


 


疑念は芽生えても、口にした瞬間に怖くなる。


王を疑うことは、この国そのものを疑うことに近い。


 


だから人々は黙る。


黙って、いつも通り振る舞う。


 


城全体が、見て見ぬふりを覚え始めていた。


 


神谷はそんな空気の中を、ひとりで歩く。


 


孤立は慣れている。


前の世界でも、他人の証言より現場の痕跡を信じる人間は煙たがられた。


 


だが今回は違う。


 


相手は犯人ではない。


王だ。


 


それだけで、人は真実より立場を選ぶ。


 


中庭の回廊で、若い騎士が神谷と目を合わせ、すぐ逸らした。


昨日まで事件解決を称賛していた男だ。


 


神谷は気に留めず通り過ぎる。


 


(当然だ)


 


人は不安な時ほど、中心を守る。


王が壊れているかもしれないなど、認められるはずがない。


 


だが神谷の胸にある違和感は、もう引き返せる段階を過ぎていた。


 


王の答え方。

王の沈黙。

王の自然さ。


 


あれは単なる失言でも老いでもない。


 


だが――


 


感覚だけでは人は動かない。


違和感だけでは誰も納得しない。


推理だけでは玉座は揺らがない。


 


必要なのは、誰が見ても否定しづらいもの。


 


記録。

痕跡。

時間。

物理。


 


人の言葉ではなく、残るものだ。


 


神谷は記録庫の扉の前で立ち止まる。


重い鉄の扉。


この城で最も嘘が少ない場所の一つ。


 


(感覚では足りない)


 


手を扉にかける。


 


(証拠がいる)


 


軋む音とともに扉が開く。


冷えた紙と埃の匂いが流れ出した。


 


神谷は暗い書庫へ足を踏み入れる。


 


王を疑う者としてではない。


王を証明する者として。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ